うさるの厨二病な読書日記

生涯中二の着ぐるみが、本や漫画、ドラマなどについて好きも嫌いも全力で語ります。【ネタバレ前提です。注意してください】

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「今日から日雇い労働者になった -日給6,000円の仕事の現場ー」 を読んでみた。

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増田明利著「今日から日雇い労働者になった -日給6,000円の仕事の現場ー」を読んだ感想です。

「本書は宿無し、定職無しの日雇い生活を一か月間行い、その生活ぶり、体調・心境の変化などを克明に記したルポルタージュである」

          (本文冒頭より引用)

 

一時期、派遣業界の仕組みに興味を持ったときに、この著者の本を何冊か読みました。 

フリーライターである著者が、ネットカフェや山野の宿に泊まりながら、一か月間日雇い労働の賃金だけで暮らす体験記です。

一日の最後に収支報告が記載され、何にいくら使って残金がいくらなのかということも書かれているので、その生活ぶりがリアルに感じられます。

 

自分もこの本を読むまでは、

「日雇いで派遣現場で働きながら、ネットカフェで暮らすって、確かに不安定だし危険もあるけれど、不可能ではないよな。一日9,000円くらい稼げれば週二回休んだとしても、月に20万近く稼げるし」

と思っていました。

 

でもこの本を読んで、そういう生活をすること自体がどれほど人を日々疲弊させるのか、ということがよく分かりました。

「何かをして疲れた」という疲弊の仕方とは、また違うんですよね。

少しずつ「自分」というものを削り取られていくような疲弊の仕方、その疲労は、ネットカフェや安宿でどれだけ体を休めても回復しない疲労なんです。

 

仕事が夕方に終わってからネットカフェのナイトパックが始まる時間まで、どこか時間をつぶさなくてはならないとか、仕事がない日(あぶれ休日)はどこで過ごすのかとか、実際にそういう生活をしてみないと分からないことも書かれていました。

 

著者は様々な日雇い労働を経験して、いろいろな人に会いますが、そういう現場で働く人というのは、それまでの人生が余りうまくいかなかった人が多く、必然的に余り話さない、人と関わろうとしない人が多いです。

そういう人たちに対する感想も、割と赤裸々に書かれています。

「就職活動をしても上手くいかないとこぼしていたが、原因はこんなところにもあるのだろう。少なくとも自分がどこかの会社の経営者や人事責任者だとしても、この人と一緒に働きたいとは思わない。この人はどんな人なのだろうという関心を持たせないし、何か無機質な感じを与えてしまうのだ。はっきり言えば人を不愉快にさせるタイプ。見ていてイラついてくることもある」

          (本文152pより)

 

挨拶もまともにできない若いフリーターに対する感想なのですが、かなり辛辣ですね。

他にも山野でずっと野宿をしているおじさんや、もともとはサラリーマンで清掃業の初日に、スーツでやってきたおじさんなども出てくるのですが、読んでいるとそういう人たちの心の荒廃も、著者の言葉を通して伝わってきます。

「仕事なんて、選ばなければいくらでもあるだろう」

とは、「職がない人」に対してよく言われる言葉です。

自分も、そう考えていたときがありました。

しかし、「自分が自分であることに、ひと欠片の意味もない仕事」「自分の能力も人格もなにひとつ求められていない、本当に誰でもいい仕事」を、毎日毎日、何十年も続けることは、人間にとって耐えきれないことではないか?と思うようになりました。

 

鎌田慧の「自動車絶望工場」も環境は過酷なのですが、出てくる同僚たちとの交流がありました。

雇っている会社にとっては「期間工の一人」「工場の部品扱い」でも、働いている同僚や読者にとっては、「その人」という一人の人間です。

正社員になるという夢を持ちながら、怪我で期間に満たずに工場を去った同僚の後日談を見ると、「ああ、よかった。やめた後も元気だったんだ」と嬉しく思えます。

 

この「今日から日雇い労働者になった」には、そういう交流すらほとんどありません。派遣・日雇いの現場ですから、多少話しても、その後はもう会うこともない。

「その人が誰であるか、どういった人間であるか」ということは、何の関係もない。お互いに興味すらない。能力はおろか、人格、人間であることすら求められていない。

そういった環境で働く人たちはそこから抜け出す術を持っておらず、どんどん心をすり減らして、すさんでいきます。

 

人間が集合することで社会が構成されているのであれば、こういう人たちが増えることは、自分たちの社会が荒廃していくことだと思います。

社会のレールからはずれた人、うまくのれない人が生きられる場所が、こういう環境しかない、という社会はどうなのかなと思いました。

 

最後に30日間の日雇い暮らしを終えた、著者の感想です。

「日雇い生活を端的に言い表すと、楽しくはない、面白くもない、やり甲斐のある仕事は得られない。豊かでもない、友人もできない、先の見通しや将来設計も描けない。まさにないない尽くし。その程度のものなんだ。

もしこの生活から抜け出せなかったらと考えると悪寒が走る。社会の歯車にすらなれない絶望的な暮らしだ」

       (本文p183~p184)

 

もう少しおおらかな社会を、後の世の人たちに残してあげたいな、と思っています。