うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

読むと三日はへこむが、それでも読んで欲しい、鬱本五選

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「鬱本」とは、ただ暗く残酷な描写にされているのではなく、

「自分にも、こんなことがあるのではないか」

「自分にも、こんなところがあるんではないか」

そんな風に思わせる本です。

 

読むと落ち込むけれど、素晴らしい本であるためぜひ読んで欲しい「鬱本」を紹介したいと思います。

 

 

「春にして君を離れ」(アガサ・クリスティ)

優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる…

                         (アマゾンより引用)

 

以前、過去記事でも紹介したアガサ・クリスティの普通小説。

ミステリー作品も含めても、アガサ・クリスティの最高傑作だと思う。

主人公は優しい夫と暮らし、三人の子供を育て上げた平凡な主婦で、自分の人生は幸せなものであると満足している。

ふとしたきっかけから、自分の人生で起こった出来事は、「本当に自分が理解している通りのものなのか」と考え始める。

「何十年も連れ添った夫を、自分自身が産み育てた子供たちを、自分は本当に知っているといえるのか」

推理小説家の霜月蒼は、この物語で描かれているのは「魂の殺人だ」と断じる。

この本の恐ろしいところは、読んでいるうちに

「自分もこの主人公と同じことを、知らず知らずやっているのではないか」

と思えてくるところである。

愛や善意の名の下に行われる行為は、時に悪意から行われる行為よりも罪深い。

クリスティは繰り返しこのテーマを書いているが、その中でも最も大きな破壊力を秘めた本である。

 読後鬱度:★★

 

「疾走」(重松清)

一家離散、いじめ、暴力、セックス、殺人…。想像を絶する孤独の中、ただ他人(ひと)とつながりたい…それだけを胸に煉獄の道のりを駆け抜けた15才の少年。圧倒的な筆致で描く現代の黙示録。

                         (アマゾンより引用)

 心優しい少年が、兄が放火事件を起こしたことをきっかけに、ひたすら悲惨な目に遭うという何とも辛い物語。

手越裕也主演で映画化もされたので、ご存じの方も多いと思う。

なぜ何もしていない、家族思いの心優しい少年がこれほど惨く苛酷な体験をしなければならないのか。

主人公を理解したり守るべき大人も、弱く、どんどん悲惨な境遇に落ち込んでいくので、全ての道がふさがれた袋小路のような少年の運命に、暗澹たる気持ちになる。

読んでいて胸が痛む物語だが、終わり方に微かな希望が見える点と、誰とも定義されていない語り手の主人公に対する眼差しの優しさが救いとなり、読後感は意外に悪くない。

 読後鬱度:★★☆

 

「冷血」(トルーマン・カポーティ)

1959年11月16日、カンザス州のとある寒村で、農場主の一家4人が自宅で惨殺されているのが発見された。農場主はのどを掻き切られた上に、至近距離から散弾銃で撃たれ、彼の家族は皆、手足を紐で縛られた上にやはり至近距離から散弾銃で撃たれていた。あまりにもむごい死体の様子は、まるで犯人が被害者に対して強い憎悪を抱いているかのようであった。

しかし、被害者の農場主は勤勉かつ誠実な人柄として知られ、周辺住民とのトラブルも一切存在しなかった。農場主の家族もまた愛すべき人々であり、一家を恨む人間は周辺に1人もおらず、むしろ周辺住民が「あれほど徳行を積んだ人びとが無残に殺されるとは……」と怖れおののくほどであった。

事件の捜査を担当したカンザス州捜査局の捜査官たちは、事件解決の糸口がつかめず、苦悩する。しかし、犯人を特定するのに有力な情報がもたらされたのをきっかけに、捜査は急速に進展し、加害者2名を逮捕することに成功する。

そして、加害者2名は捜査官に対して、この不可解な事件の真相と自らの生い立ちを語り始めた。

    (Wikipediaより引用。一部抜粋)

 

早熟の天才と呼ばれたトルーマン・カポーティが、実際の事件を取材して書いたノンフィクション・ノベル。

この本を読むと、現代の日本でも蔓延している「怒りによる無差別殺人」を行う犯人の心情や、なぜそういった事件が起こるのかがわかる。

犯人は被害者一家とは何の面識もなく、少し話しただけだが、被害者一家の対応にむしろ感心していた。

それでも突然、「今までの自分の人生のツケを払うために」十五歳の少年と十六歳の少女を含む、無抵抗の被害者一家を惨殺した。

彼らを殺した犯人は、「いい人たちだったな。自分が最後の最後までこの人たちを殺すなんて思いもしなかった」と語っている。

だとすれば、彼はなぜ、この一家を殺したのだろう??

犯人が歩んできた人生の中で積み上げてきた怒りの大きさと、その怒りが何の関係もない罪のない人たちに向けられた事実に、身震いする。

殺人犯二人は州法に沿って裁かれ、死刑に処せられた。

しかし、似たような事件が頻発しているのを見るたびに、何一つ解決していないのではないか、という気持ちになる。

読後鬱度:★★★

 

「グロテスク」(桐野夏生)

名門Q女子高に渦巻く女子高生たちの悪意と欺瞞。「ここは嫌らしいほどの階級社会なのよ」。悪魔的な美貌を持つニンフォマニアのユリコ、競争心をむき出しにし、孤立する途中入学組の和恵。ユリコの姉である“わたし”は二人を激しく憎み、陥れようとする。圧倒的な筆致で現代女性の生を描ききった、桐野文学の金字塔。

                         (アマゾンより引用)

 1997年に起こった「東電OL事件」をモチーフにして、書かれた小説。

桐野夏生は「普通の人間の悪意を書かせたら、日本一うまい」作家だと思うのだが、それにしても本書は悪意の塊のような小説である。

 

この本には三人の女性が出てくるのだが、その三人は女性ならば誰もが持っている部分をそれぞれ表している。「悪魔的な美貌を持ち、男を受け入れることによって生きる百合子」「百合子のようになりたいと願い、努力するが、その努力が滑稽ですらある和恵」「百合子と和恵を見下し、馬鹿にすることで自らを保つ百合子の姉」

特に「百合子は美しいが馬鹿」「和恵の努力する様子は道化のよう」と二人を「マウンィング」しながら生きている「姉」の存在は、読者の視点を代弁しているようで恐ろしくリアルである。

女性の業を余さず書ききった本なので、女性は読むのがきついと思う。

人間の悪意だけを凝縮したような本なのに、読みだすと止まらない不思議な魔力を持っている。

読後鬱度:★★★★

 

「十六の墓標ー炎と死の青春ー」(永田洋子)

今まで読んだ本の中で、文句なくの鬱度一位はこれ。

実際の事件を加害者本人が書いたものなので、鬱度が高いのは当然といえば当然なのだが、この本が救いがないと感じてしまう点は、他の実際の事件を書いた本とは少し違う。

この本が一番、「やりきれない」と感じる点は、これだけ残虐な事件を起こしながら、永田洋子が自分が起こしてしまった事件の本質を今いち分かっていないのではないかと感じるところである。

この本を読むと「連合赤軍事件とは、異常者が起こした異常な事件だった」という論がいかに誤まっているか分かると思う。

植垣康弘が評したように、永田洋子は勝気に見せている部分もあるが、「本当に普通の人」だ。

「なぜ、こういう事件が起こってしまったのか」ということが、読者は何となく感じとれるのに、書いている当人はいっこうにそれが分かっていないように見える、そして的外れな反省の弁を繰り返す、ということを延々と読ませられるために、読んでいて空しくなってくる。

本書は非常に読みやすく、しかも著者本人が自分の経験に余りピンときていないせいか、小説を読んでいるように読めてしまう。

坂口弘や植垣康弘など、他の生き残ったメンバーもそれぞれ手記を出しているので、合わせて読むと、同じ場面でも覚えていること、考えていることが違い、とても興味深い。

ちなみに連合赤軍事件の分析では、大塚英志の「彼女たちの連合赤軍」が一番的を得ているように思う。

興味のある方は、ぜひ読んでみて欲しい。

読後鬱度:★★★★★