うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

【映画】アラスカで餓死した青年は、何のために旅をしたのか。僕は僕に会いに行く。「イントゥ・ザ・ワイルド」

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名門の大学を出て裕福な家庭に育った青年は、なぜ、今までの自分を全て捨てて旅に出たのか。

 

エリートの両親の下で何一つ不自由のない生活を送っていたクリス・マッカンドレスは、大学卒業を境に、誰にも何も告げず、身体ひとつでヒッチハイクをする旅に出る。アメリカ中を旅するクリスの最終的な目標は、アラスカの荒野だ。

広大な荒野の中で、狩りをしながら一人で生きていく。クリスは色々な人に出会いながら、アラスカの荒野を目指す。

しかしアラスカの自然は厳しく、クリスはちょっとしたミスから病に倒れてしまい、誰もいないアラスカの大自然の中で餓死する。

 

ショーン・ペンの初監督作品ということで有名な「イントゥ・ザ・ワイルド」です。一言でいうと、「何不自由なく育った青年が、突然放浪の旅に出て、アラスカの荒野で餓死する」という話です。

原作はジョン・クラカワーの「荒野へ」というノンフィクションで、実話です。

 

自分は、この「荒野へ」がすごく好きで、何十回読んだか分からないほどです。

クリス・マッカンドレスの事件をメインに追いつつ、クラカワー自身の遭難体験や、クリスの事件と類似した事件を取り上げたりもしていてとても面白いです。

 

映画だと時系列がかなり追いにくく、クリスが旅に出た背景である家庭環境などもほとんど描いていないので、ぜひ、原作と映画合わせて見て欲しいです。

映画は、クリスが旅をする大自然の映像が美しいです。日本の自然も美しいですが、アメリカはスケールが違うという印象です。アラスカの大自然を見ていると、普段は感じない、畏怖の念にうたれます。

 


映画『イントゥ・ザ・ワイルド』予告編

 

 

まだ見ぬ自分に出会うために

「荒野へ」を読むと分かりますが、この事件は当時、批判が噴出したらしいです。

だいたいの批判が「何も知らない苦労知らずのぼんぼんが、大自然をなめて勝手に死んで迷惑かけやがって」という類のものだったようです。

 

「今までの恵まれた自分を捨てて、自分探しの旅に出る」

批判が出るのも、分からなくもありません。クリスは自分に「アレクサンダー・スーパートランプ」という名前をつけたり、行動の全てが厨二臭満載です。

地に足をつけて日常という現実を生きている人からしてみれば、「寝言は寝てから言え」と言いたくなるのは当然だと思います。

 

でも、自分はこの物語が大好きです。

 

クリスにとても共感します。

 

人生はいったい、誰のものなんだろう

本編を見てもらうと分かりますが、クリスは決して暗くて内省的な青年ではありません。家は裕福で両親はエリート、成績は優秀で、人懐っこくて女性にもモテます。

いわゆるリア充。

家庭環境が多少複雑なのですが、現実から逃げ出したいような切羽詰まった悩みがあったわけではありません。

 

クリスに実際出会った人たちは、みんな口をそろえて「とても人なつっこくて魅力的な青年だった」と言います。

クリスは旅で色々な人たちに出会い、みんなクリスを気に入って「ずっと、ここにいないか」と誘います。

クリスに革製品作りを教える孤独な老人は、「孫として一緒に暮らしてくれ」と言います。かわいい女の子が好きになられて「一緒にいよう」と言われます。

しかし、クリスはその誘いを全て断り、自分を好きになってくれた人全てを後に残して一人で旅を続けます。

 

自分でないものが作り上げた自分をぶっ壊し、本当の自分を見つけるために。

 

「自分とはいったい、何なんだろう?」

それはもしかしたら、誰もが人生で一度は持つ疑問なのかもしれません。

「エヴァンゲリオン」では「自分」とは、「様々な他人から見た自分像の集合体にすぎないのではないか」ということを言っていました。だから「自分を認識する他者がいないと、自分という存在は無なのではないか」

 

クリスは恐らく「他者というフィルター」(社会性)をはずした、自分というものに出会いたかったのだと思います。そのために他人というものがいない荒野を目指して、その中で自分自身というものと向き合たかったのでしょう。

自分一人だけで自然の中で生き抜く。そうすることでしか出会えない自分に、どうしても出会いたかったのだと思います。

社会性を取り外したとき、何が残るのか。もしかしたら、「真の自分」なんていうものはないのかもしれない。それでもよかったんだと思います。

 

自分個人の考えとしては、人間は一度はこういう「社会性をはずして生きる」という通過儀礼を通したほうが、社会の中で自分自身を確立しやすいと思います。本当の意味では「一人」になんてなりえようのない、自己を見失いやすい現代だからこそ、こういうことが必要だと思います。

 

そうすることによってしか、「本当の自分として、自分自身の人生を歩むことはできない。」

 

中には、「子供のときから周りに与えられた自分像でいい。それで生きていくことに何の疑問も持たない」という人も存在するでしょう。もしかしたら、それが社会に適合した器用な大人の生き方なのかもしれません。

 

でも、クリスはそうではない本当の自分に出会いたかった。

この厨二臭さに、全力で共感します。

 

クリスが羨ましいです。

年をとればとるほど、しがらみは大きくなり、簡単に「社会性を捨てる」なんていうことはできなくなります。家族もいれば仕事もある、社会で生きていくにあたって生じた責任が、重く肩にのしかかっています。

だから十代後半から二十代初めくらいの人には、ぜひ、こういう旅に出て欲しいなあと思います。(餓死はしないようにね。)

 

クリスは旅で出会った老人に、「僕と同じように生きればいいんだよ。あんたにだってできるさ」と言うのですが、その老人は本当に旅に出ます。

だからまあ、今さら無理だよというのも言い訳かもしれませんね。

自分も、年をとったらクリスと同じように旅に出ようかなと思います。

荒野へ (集英社文庫)

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