1月7日(土)に第一話が放映された、テレビ東京土曜ドラマ24「銀と金」が予想に反して、めちゃくちゃ良かったです。
文字通り、ちゃんと「ドラマ化」されていました。
「銀と金」とは
「カイジ」や「アカギ」で有名な、福本伸行の初期の代表作です。
何の目的もない怠惰な人生を送っていた、フリーターの森田哲雄が、闇ブローカーとして裏社会で名の知れた平井銀二と出会い、株の仕手戦やギャンブル、名家の後継者争いなどに関わり、命がけの勝負に挑む物語です。
「ドラマ化」は、喜ぶよりも不安だった…。
「銀と金」は、福本伸行の最高傑作であるという呼び声も高いです。
自分は今まで読んだ漫画の中で、一、二を争うくらい「銀と金」が好きです。
好きな漫画はたくさんあるのですが、「自分の中でナンバー1の漫画は?」と聞かれたときにあげるのが、この「銀と金」か西原理恵子の「ぼくんち」です。
なので、ドラマ化と聞いたとき、喜ぶよりもとにかく不安でした。
福本伸行の漫画は、「漫画だからこその」セリフや演出、物語なので、それをそのままドラマ化されてしまうと、見るに堪えないものになってしまうのではないか、という怖さがありました。
下手したら、ただの荒唐無稽なコメディになってしまう。
ちゃんとそういうことを分かっている人が、脚本や演出をしてくれるのか。
俳優さんも、漫画的なキャラクターを違和感なくちゃんと演じてくれる人なのか。
余りに不安すぎて、見るのはやめようかな、と思っていました。
ひどい出来だったら、本気で立ち直れない…。
ただ公式ホームページで、「福本伸行の指名で、銀さんをリリー・フランキーが演じる」という情報を見て、かなり興味がわきました。
リリー・フランキーと言えば、映画「凶悪」で紳士の仮面をかぶった冷酷な悪党を演じたことで有名です。
「リリー・フランキーが演じる銀さんは、見てみたい」
そう思って、ドラマを見てみることにしました。
ドラマ「銀と金」には、原作とは違う魅力がある
第一話しか見ていませんが、ドラマ「銀と金」は、漫画とはまったく別モノでした。
いい意味で。
そして、いい意味で予想を裏切ってくれました!!
「脚本と演出」
原作は時代がバブル直後の1990年代前半なのですが、ドラマは舞台が現代になっています。
画面が昔の映画のような演出で、暗い退廃的なムードが漂っています。グッと物語に重みが増して、これはいい演出だと思いました。
脚本も、「漫画だといい演出だけれども、実写だとおかしく見えそう」というものや「セリフだけで、ドラマだと分かりづらいかも」という点は、上手く改変してありました。
銀さんが森田に殺しを依頼するときに実際に病院に行ったり、 森田が「殺しはできないけれど、仲間に入れて欲しい」というときに、土下座などの過剰な演出がなかったり、脚本や演出の改変の仕方がすごく良かったです。
一番いい改変だな、と思ったのがこのシーンです。
(引用元:「銀と金」一巻 福本伸行 双葉社)
前の債務者に対しては「金利8%なんて、馬鹿ぬかすな。18%だ!」と銀二が恫喝したので、森田が「金利6%なんて無理に決まっている」と心の中で思うシーンです。
漫画だから「読者の気持ちを森田が代弁してくれる」いい演出なのであって、ドラマのセリフとしては余りに説明的すぎて、これをそのままやってしまったら、とんでもなく悲惨なことになっていたと思います。
ドラマで「心の声」を言う演出って、そもそもおかしく見えることが多いし。
何とこのシーンは、森田の心の声は一切ナシでした。
森田役の池松壮亮の、大げさすぎない表情の演技と、音楽で、森田の心の声を表現していました。
俳優がいい
銀さんやアカギみたいに底知れぬ魅力を持つ存在は、セリフや物語でも頭がいいとかすごい人だとかは分かりますけれど、それ以前にその存在感だけで「この人はすごい人だ」って納得させなければならないと思います。
ただそこにいるだけで、「この人は何か違う」
ちょっと目線を動かしだけで「怖い」
そう思わせないといけないと思うんですけれど、リリー・フランキーは想像以上にすごかったです。
笑わないと怖いけれど、笑うとさらに怖い。
ちょっと口の端を上げて、「ふっ」と笑うだけで、怖くて鳥肌がたちました。
「こいつは、やばい。人を殺してそう」って他人に思わせるのが、すごく上手いです。
俳優じゃなくて、本当に闇ブローカーなんじゃないだろうか。
「人を、一人殺して欲しい」という言葉も、あえてサラッと言っているところが良かったです。
原作の銀二はもちろん、悪の魅力を兼ね備えたダークヒーローなんですけれど、アカギと違って、余り狂気性は感じない、と個人的には思っています。とにかく頭が切れて、その計算通りに動くという印象です。
アカギと銀二は「哲学を体現しているか、狂気性を持っているか」がキャラクターとして徹底的に違うと思います。
外見は「オールバックかそうじゃないかの違いだけ」とよく言われているけれど。(まあ、そうだけどさ)
でも、ドラマの銀二は漫画の銀二とも、また少し違った存在です。
「この次の瞬間、何をしだすか分からない」
理屈とか会話が通じなさそう。
そんな怖さがあります。
原作の銀二よりもいいんじゃないかと思いました。
リリー・フランキー、すごすぎる。
(引用元:テレビ東京公式ホームページ)
画像を見ているだけで怖い。
もうひとつ嬉しい誤算は、森田役の池松壮亮がすごく良かったことです。
こんな上手い役者だったとは、ぜんぜん知りませんでした。
すまーぬ。
(引用元http://www.cinra.net/news/20160318-nagaiiiwake)
原作だと最初のほうは銀さんに喰われているのですが、損な立ち位置にも拘わらず、演技がリリー・フランキーにまったくひけをとっていませんでした。
原作の森田はやり場のない鬱屈を抱えた若者という印象ですが、ドラマの森田はそこからさらに、そんな世の中に静かな絶望を感じている雰囲気があって良かったです。
物語は原作にきちんと沿ったものなのですが、演出やキャラクターの解釈の仕方で、まったく別の物語のような印象を受けます。
ただ「好きな漫画を実写で見ている」という感じではなく、まったく知らないドラマを見ているような、新鮮な気持ちになりました。
「ここがちょっと」と思った箇所
きちんと「ドラマ化」されている素晴らしい出来でしたが、一か所だけ、どうしても見逃せない不満箇所があります。
(引用元:「銀と金」一巻 福本伸行 双葉社)
銀二が森田に殺しを依頼するシーンです。
ドラマでは、森田に「酸素マスクをはずせ」と言っているんですよね。
漫画で言っている
「誰もいなくなった時に、「事故」が起こる。お前は、誰か交替の付き添いが戻ると思っていたから長い食事に出た、ただそうすればいい」
「何もしないで、長い食事に出るだけで、大金がもらえる」
それでも森田が「そんなことはできない」と言って断る。
森田という人間を知るうえで、ここは絶対に変えてはいけない部分だと思います。
「自分がなにがしかの行動をしなきゃいけない」のと
「ただ、見ぬふりをするだけでいい」は、
天と地ほども違いますから。
「見ぬふり、知らぬふりをするだけで五千万という大金が手に入る」
それでも断るから、森田はすごいのだと思います。
森田の勝負強さも頭の良さも、勘の良さもぜんぶすごいんですけれど、自分は森田の一番すごいところは、こういうところだと思っています。ここが変わっていたのは(ここがはずしちゃいけないポイントだ、と思ってもらえなかったのは)すごく残念でした。
まとめ:少しは不満もあるものの、すごく面白かった
まさか「原作通りだ」どころか、
「原作の主筋を追っていながら、まったく違った魅力を持つドラマ」なんていうものを見れるとは思いませんでした。
原作を暗記するほど読んでいる自分でも、これから先の展開が、まったく未知の物語を見るように楽しみです。
原作未読の方も十分楽しめる内容だと思います。
このままの内容で続いていくことを願って、来週も楽しく視聴しようと思います。
*後日、ドラマの感想の続きを書きました。
関連書籍
「凶悪」の演技もすごいらしい。怖くて見れない…。
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