うさるの厨二病な読書日記

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福本伸行「アカギ~闇に降り立った天才~」の魅力を名セリフをあげながら、全力で語りたい【7巻まで】

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「アカギ~闇に降り立った天才~」という麻雀漫画がある。

「天ー天和通りの快男児ー」という漫画で、主人公の天以上に人気があった、伝説の天才雀士・赤木茂の若き日のことを描いた漫画だ。

アカギ?闇に降り立った天才 1

アカギ?闇に降り立った天才 1

 

 

「アカギ」という漫画はひと言で言えば、この赤木茂というキャラクターの天才と狂気と格好良さをひたすら描く漫画だ。

もちろん、福本漫画ではおなじみの勝負や駆け引きの面白さも描かれているのだが、それ以上に赤木茂の人間性とその生きざまに痺れる物語である。

そしてその魅力が、独特の言い回しのセリフ、通称「福本節」にうまく凝縮されている。

今日は「アカギ」の名言の数々をあげながら、この漫画と赤木茂というキャラの魅力について語りたい。

 

ちなみに自分の中では「アカギ」は全七巻だ。

鷲巣が地獄めぐりをしたり、配牌だけで一巻丸ごと使うような漫画は読んだことがないのでご了承いただければと思う。

 

周りの人間がアカギの天才に気づく

初登場時、アカギは何の変哲もない普通の中学生として雀荘に現れる。

しかし、じょじょにその天性の才能に、他の人間と一線を画す狂気性に周りが気付き始める。

 

まだ心のどこかでオレは、このガキを軽んじていた。なんせ見かけは中学生だからね。しかし、もう舐めない。毛ほども舐めたりしない。

なぜなら……このガキの薄皮一枚剥いだその下は、魔物だから(一巻 八木)

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(引用元:「アカギ~闇に降り立った天才~」 福本伸行 竹書房)

一巻で十三歳の中学生のアカギと戦った、ヤクザの代打ちである八木。アカギの麻雀を見て、すぐに只者じゃないと気づくところがむしろすごい。

 

だから関わりあうな、あの男には。そっとしておくんだ。虎の尾をわざわざ踏むことはない。奴は「別」なんだ。(4巻 安岡)

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 (引用元:「アカギ~闇に降り立った天才~」 福本伸行 竹書房)

2.38%の確率でしか引けない三牌を「牌が透けてみえるくらいの感覚がなければ、今までの勝負は生き残れなかった」と豪語して引いたアカギ。

別にイカサマしなくとも引いているのに、イカサマしたフリをするところが華麗すぎる。

圧倒的な才能、まぶしすぎるスター性をいかんなく発揮したエピソード。

こんな人間のニセモノになることを、本人を知らずに引き受けたニセアカギ(本名:平山幸雄さん)が気の毒すぎる。

 

そばにおいてください。オレ、アカギさんのようになりたいんです。(4巻 治)

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 (引用元:「アカギ~闇に降り立った天才~」 福本伸行 竹書房)

無理だよ。

と思うが気持ちはわかる。自分が治でも、同じことを言いそうだ。

常に冷静沈着なアカギが困った顔をしているのは、唯一このシーンくらいだ。そして何だかんだ言って、治の面倒をよく見ている。後年、「神域」になってからも、ひろゆきの面倒をよく見ていた。

クールに見えて、意外と面倒見がいい。アカギのこういうところがいい。

 

 周囲が畏怖するアカギの狂気

アカギの最も大きな特徴は、冷静さの奥に秘めた常人には理解しがたい狂気性にある。

 

この世の中、バカな真似ほど、狂気の沙汰ほど面白い。(2巻)

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 (引用元:「アカギ~闇に降り立った天才~」 福本伸行 竹書房)

アカギの代名詞とも言える有名なセリフ……なのだが、実はこのセリフを初めに言ったのは市川だ。アカギの精神性をひと言で表したセリフだと思う。

 

まだまだ終わらせない、地獄の淵が見えるまで。限度いっぱいまでいく。どちらかが完全に倒れるまで。勝負の後は、骨も残さない。(2巻)

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 (引用元:「アカギ~闇に降り立った天才~」 福本伸行 竹書房)

相手にも、自分と同じ、命を賭けた極限までの勝負を求めるアカギ。「ブレーキの壊れた生き方」という南郷の言葉が、言いえて妙だと思う。

 

アカギの生き方と哲学

天才性であったり狂気性だったり色々な要素を持っているアカギだが、最もすごいところは、自らの哲学をすでに確立しており、その哲学に殉じた生き方を徹底している点にある。

その哲学が世の中の常識や倫理観、社会性から逸脱しているので、周りはアカギという人間が理解できず、狂人のように見えてしまう。

しかし、アカギが語る自分の生き方というのは、世の中の人間の大多数の価値観とはまったく違うが首尾一貫している。

 

アカギにとって最も大事なことは、常識でも倫理でも愛情でも損得でも他者からの評価でも社会の価値観でも自他の生き死にですらなく、自分を自分として成立させている己の哲学を貫徹することだけにある。

その哲学は他人から見るとまったく無価値かつ無意味なものなのだが、アカギはそれを守るために命すら平然と捨てようとする。

「他人には何の意味もないように見える、自分を自分たらしめている己の価値観と哲学が最も大事であり、その他のものは命ですらそれほど価値はない」

アカギというキャラの凄みというのは、この辺りにあると思う。

 

仮にこの国、いや、そんなスケールでなく、ユーラシアからヨーロッパ、北米、南米、この世界中の全ての国々を支配するような、そんな怪物、権力者が表れたとしてもねじ曲げられねえんだ。自分が死ぬことと、博打の出た目はよ。(7巻 アカギ)

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 (引用元:「アカギ~闇に降り立った天才~」 福本伸行 竹書房)

ヤクザに脅されようが、殺されかけようが絶対に引かないアカギ。

どんな権力者だろうと、一度出た勝負の結果は絶対に覆せない。自分を殺そうが、その結果は絶対に覆らない。そういう強い信念を示す。

今まで「小僧」と馬鹿にされようが、自分のニセモノにコケにされようが、チンピラに金をむしられそうになろうが、銃を突きつけられようが、むしろ楽しそうだったアカギが唯一、声を荒げて激怒したシーン。

一度出た勝負の結果を覆すというのは、アカギにとっては命を取られそうになったり、リンチにかけられそうになる以上に怒りの対象なのだ。

なぜ、博打の出た目ごときに命まで賭けようとするのか、周りはまったく理解できない。

他人には理解できない、共感もされない自分の哲学を、極限まで突きつめるところが、アカギの最も特異な点だと思う。

 

不合理こそ博打。それが博打の本質。博打の快感。不合理に身をゆだねてこそギャンブル。(3巻)

 

無意味な死か。その「無意味な死」ってやつが、まさにギャンブルなんじゃないの?(4巻)

 

もともと損得で勝負事などしていない。ただ勝った負けたをして、その結果、無意味に人が死んだり不具になったりする。そっちのほうが望ましい。そのほうが、博打の本質であるところの理不尽な死、その淵に近づける。(6巻)

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(引用元:「アカギ~闇に降り立った天才~」 福本伸行 竹書房)

アカギの面白い点のひとつに「ギャンブルに意味があってはならない」という考え方がある。

そしてこれは、アカギの人生に対する考え方に通底している。

アカギにとって人生というものは「意味があったり価値があったりするもの」の対極にある「意味がないかもしれないし、価値がないかもしれないもの」ですらなく、恐らく「人生に意味や価値があってはならない。人生とは無意味で理不尽で、それ自体に意味性を付与してはならない」という考え方なのだと思う。

 

「意味性が付与されない、そんなただ無意味な人生をどう生きるのか」

という哲学を体現しているのが、アカギという存在なのだと思う。

意味がないから、未来のことなど考える必要はない。「いまこの瞬間」の濃度を極限まで高めて、ただ生きればいい。

恐らくそういう考え方の持主であり、その生き方を体現しているのだと思う。

 

ただ「天」の最後で、死ぬ間際に「無念だが、その無念さを愛する」という言葉を言っているので、アカギも生きていく中で考え方が変わったのかもしれない。

 

他者の生きかたへの感想

周りとはまったく違う、自分独自の哲学に基づいた生き方をするアカギ。たまに周りの生き方に対して、すさまじい毒舌を吐く。「福本節」は、人をディするときにこそ真価を発揮する。

 

やっぱりね。見当はついていたけれど、案の定、ひねた打ち方。人をはめることばかり考えてきた人間の発想、痩せた考え。(一巻)

 

一巻でヤクザの代打ちである八木に対して。

自分がこんなことを中学生に言われたら、その場でぶん殴りそうだ。

こういう挑発にのらなかったり、中学生のアカギを相手に最初は「見」に回ったり、やられ役とはいえ、八木は大した人間だと思う。最後は地獄の淵まで追いつめられたが…。

 

しかし、どういうわけか、どこの職場にもあんなのが二、三人にかたまっているんだよな。どうしてなんだろうね。なんでもっとスカッと生きねぇのかな。(4巻)

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(引用元:「アカギ~闇に降り立った天才~」 福本伸行 竹書房)

就職した先の工場の威圧的な先輩たちに対して。

 

なるほど、凡夫だ。的が外れてやがる。(4巻)

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(引用元:「アカギ~闇に降り立った天才~」 福本伸行 竹書房)

確率だのなんだの理屈を言い出した平山幸雄さんに対して。

このセリフ、アカギらしくて大好きだが、自分が言われたらショックで気絶する。「凡人」じゃない。「凡夫」。

この単語、他には「三国志」くらいでしか聞いたことがない。

 

あんたは、運も運命も信じてなんかいねぇ。あんたが信じているのは耳。卓越した自分の能力だけ。違うかい? 実はオレもそうなんだ。(2巻)

 

「信じているものは、己の卓越した能力だけ」

こんな格好いいセリフを一度でいいから言ってみたい。

まあ、卓越した能力がないんで無理なんですけどね…。

 

他の登場人物たちの生きざま・思想

漫画「アカギ」には、様々なタイプの敵役が登場するが、そのいずれも魅力がある悪役だ。そしてたびたび自分の生き方を支えてきた、考え方を語る。

 

リーチは、天才を凡夫に変える!(2巻 八木)

 

この言葉と「しかし、八木に電流走る!」は、読んだ当時、実家の兄ちゃんと自分の間だけで大流行した。

何か失敗したときに「リーチは天才を凡夫に変える!」

何かに気づいたときに「しかし、〇〇に電流走る!」と叫ぶのが、主な用法。

 

強打して自爆する素人などまれ。大抵は、「安心」という重りを体に巻き付け溺死する。(2巻 市川)

 

だから、その1000点がいばらの道なんよ。兄さんのやわな足じゃ、まず通りきらん。(4巻 浦部)

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 (引用元:「アカギ~闇に降り立った天才~」 福本伸行 竹書房)

こういう経験からくる言葉は、そのキャラの哲学がにじみ出ていて好きだ。福本伸行のセリフ回しの上手さに惚れ惚れする。

 

アカギのこのセリフに励まされた

アカギは、「人生は閃光のように一瞬で消える瞬間の積み重ねでできている、意味などないもの。だからその一瞬を極限まで突き詰めて生きる」という独自の哲学を貫いて生きている。

普通の人間にはさっぱり理解できない、なぜ、そんな生き方をしなければならないのか共感もできない哲学を、自分の命すら惜しまずたった一人で貫いている。

そんな誰にも理解されない生き方を、誰にも理解を求めず一人で生きてきたアカギが、最期に言うこのセリフがすごく好きだ。

 

俺は偏っている。俺は、唯一それを誇りにここまで生きてきた。

 

自分も家族にですら「お前の考え方は極端すぎる。偏っている」と言われてきた。

当たり前だが、自分はアカギのように天才ではない。何の際立った才能もない、ごく平凡な人間だ。

だからアカギのように、その偏った思考に基づいて偏った生き方をすることはできない。それが「社会性を身につける」「大人になる」ということなのかもしれない。

でも、思考は相変わらず偏ったままだ。「社会で生きるには、偏っていてはいけない」そう誰も彼もから言われ、自分でもそう信じかけていた中でアカギのこの言葉を読んだ。

「偏っているからこそ、この偏りこそが自分なんだ」

初めてそう思えた。そして、それからはずっとそう思っている。

 

自分は平凡な人間だから社会の中で、その規範を守って生きている。奇想天外な破天荒な生き方ができ、それを社会から許されるのは、才能がある者の特権なのだと思っている。

でも頭の中ならば、いくら偏っていても他人には迷惑はかけない。

自分の偏りなど、世界には何の影響も与えないし、何の関係もないし、何の意味も価値もない。

それでも自分の偏りを大事にして、生きていきたいと思っている。

 

まとめ

「アカギ」は、赤木茂という、創作上の登場人物で最も特異で魅力的なキャラクターの哲学と生きざまを、麻雀という手法を用いて描いた漫画だ。

「天才」というのは読者に納得がいくように描くことが難しいが、「アカギ」はこの難題を難なくクリアしており、しかも他のどの創作でも見たことのない種類の「天才」を描くことに成功している。

麻雀を知らなくても、文句なく面白いと思う。特に最初の三巻は、何度読んでも圧巻の面白さだ。

全7巻で絶賛発売中なので、読んだことのない人はぜひ一度手にとってみて欲しい。

アカギ?闇に降り立った天才 2

アカギ?闇に降り立った天才 2

 

八木がやったイカサマ、キャタピラを必死で練習したのもいい思い出。 

 

関連書籍

年をとった赤木・通称「神域」が活躍する「天ー天和通りの快男児ー」も面白い。

天―天和通りの快男児 全18巻 完結コミックセット (近代麻雀コミックス)

天―天和通りの快男児 全18巻 完結コミックセット (近代麻雀コミックス)