うさるの厨二病な読書日記

生涯中二の着ぐるみが、本や漫画、ドラマなどについて好きも嫌いも全力で語ります。【ネタバレ前提です。注意してください】

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「男女の友情はあるかないか論」で思い出す「バクマン。」のサイコーと見吉のステキな関係。

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*この記事には、「バクマン。」のネタバレが含まれています。未読の方はご注意ください。

 

 

見吉香耶はすごい女性だ

「男女の友情はあるかないか論」については、実はそんなに興味がない。そもそも「友情」というのがフワフワした言葉だし、関係性というのは外野が名前をつけるものではなく、本人同士が了解し合っていればいいものだと思っているからだ。

 

ただ、「恋愛感情抜きの男女の関係」で一番理想的な関係はどんな関係か、と言われたときに思いついたのが「バクマン。」(原作:大場つぐみ 作画:小畑健)の主人公・真城最高と見吉香耶の関係だ。

自分は見吉がすごく好きで、「二次元キャラで結婚したい女性」の五指には確実に入る。

 

役割的には「糟糠の妻」「物分かりのいい女」なのだが、そういうことに対して恨みがましいことは一切言わず「自分で選んでそうしている」と意思がはっきりしていること、そして「仕事に対しては、物分かりのいい女」でありながら、プライべートではシュージンやサイコーに対して自分の意見をはっきり言うところもいい。

シュージンに浮気疑惑が出たときは、五年付き合ってシュージン(とサイコー)の夢を支えてきたにも関わらず、きっぱり別れることを選ぶ決断力もいい。

 

「糟糠の妻」で「支える奥さん」なのだが、見吉は「献身的に尽くすことを、自分の意思で選んでいる」ので、社会的な立場はどうあれ、内面的には自立している。自分が好きでやっているから、「あれだけ尽くしたのに」「これだけやってあげているのに」のような恨みがましいことは一切言わない。

そして、相手の気持ちが自分から離れたと思ったら、「殴る気にもならない」と言ってすっぱりと離れる。(実際は誤解だから、結婚したが。)

 

「いい女」なんだけれど、「都合のいい女」ではない。

ちょっとひねくれているけれど、若くて才能もあってモテるシュージンがずっと付き合って結婚したのも頷ける。こんなできた女性は、二次元でもなかなかいない。

 

「バクマン。」の中では、シュージンと見吉の関係、サイコーと亜豆の関係よりも、サイコーと見吉の関係が好きだ。

「関係性が育つ、成長する」というのは、こういうことを言うのかと思う。

というわけで、この二人のステキすぎる関係を振り返りたい。

 

サイコーと見吉の関係の変遷

最初、見吉のことを嫌っているように見えるサイコー。

最初のころ、サイコーは見吉にかなり冷たい。

「興味のない赤の他人+ちょっとうざったい」くらいの扱いだ。

自分の相棒の彼女であり、好きな人の親友なので、多少対抗心もある(のちに嫉妬もあったと認めているし。)にしても、かなり冷たい。

「まったく興味がない赤の他人だけれど、つながりがあるから口出ししてきてうざい」二人の関係はここからスタートする。

文字にするとけっこうキツイ。

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(引用元「バクマン。」2巻 原作:大場つぐみ 作画:小畑健 集英社)

 

そのあと、「見吉って基本いい奴だよな」「見吉、優しいじゃん」と言うなど、少しずつ見吉のいいところを口にするようになるが、それでも「亜豆の親友」「シュージンの彼女」という域から脱しない。

「亜豆の親友としてはいい奴」であり「シュージンの彼女としてはちょっと邪魔」。というのが、サイコーの見吉に対する評価だ。

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(引用元「バクマン。」3巻 原作:大場つぐみ 作画:小畑健 集英社) 

そして後者が色濃く表れたときのサイコーのシュージンに対する不信感が原因で、二人は決裂する。

 

これはサイコーの誤解だったので、サイコーとシュージンは仲直りをする。

この辺りはそれほどクローズアップされていないが、「漫画のために見吉との関係が邪魔になっているのではないか」という言いがかり(としか言いようがない)をつけているサイコーを、見吉は一切責めたりしない。

むしろ「確かに邪魔かもしれない」と自分を責めている。

見吉が声を荒げたり、怒ったりするのは、例えば亜豆とサイコーの関係に対してのように、常に他人のためだ。

おせっかいなのだが、サイコーも他人の関係にこうやって口出ししているのだから、見吉のことを言えない。むしろ「漫画のため」という大義名分を掲げて、その口出しを正しいと思っているだけ、サイコーのほうが性質が悪い。

しかし見吉は、そういったことをまったく言わない。

「どんな時でも、自分のことよりも他人のこと。でもそれは自分で選んでいることだから、犠牲とは思わない」

見吉のこういうところが、後にサイコーの信頼につながるのだと思う。

 

 サイコーが、少しずつ見吉を気遣うようになる

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 (引用元「バクマン。」5巻 原作:大場つぐみ 作画:小畑健 集英社)

「クリスマスもサイコーが遊ばないなら遊ばない」

ちゃんと仕事をしていれば、そこは合わせなくても良くないか?

シュージンの訳の分からない理屈を、受け入れる見吉。

普通だったらこの辺りで別れると思う。

 

その後も「色々とやってくれる見吉」に対して「アシスタント代をあげたほうがいいのではないか」「ありがとな」という言葉を言う。

「色々とやってくれる」のは、見吉本人は好きでやっているというし「二人の夢は自分の夢」と言っている。

でもそれは決して当たり前のことではない。自分がやっていることに対して見返りを求めるのは、ごく当然の感情だ。見吉にとって、その見返りが「二人が成功し、喜ぶ姿。真城と亜豆が結婚すること」なのだ。

何ていい子なんだ。

こういう姿勢に触れて、真城の態度はどんどん軟化していくのは当たり前だと思う。

 

この辺りになるとサイコーは、「シュージンの彼女」ではなく、「亜城木夢叶の同志」として見吉を見ている。

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(引用元「バクマン。」7巻 原作:大場つぐみ 作画:小畑健 集英社)

シュージンとサイコーを合わせた仮想人格としての「亜城木夢叶」は、例えばアシスタントと上手くやっていけるかなど、自分たちが苦手とする場面でかなり見吉を頼りにしている。

その事実よりも、そこに「余り気づいていないところ」が「甘え」と思うし、見吉にも「そんなに甘やかさないでも」とは思うものの、こういう「無意識の甘え」も突き詰めたりせず、引き受けるところが見吉の魅力だと思う。

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 (引用元「バクマン。」8巻 原作:大場つぐみ 作画:小畑健 集英社)

サイコーが見吉のことを「同志」として認めた象徴的なシーン。

このあとシュージンの浮気疑惑が持ち上がる。

しかし「漫画に影響したらイヤだから、描きあがるまでは絶対に言わないで」と泣きながら亜豆に頼む見吉。

どんだけいい子なんだよ!

 

「香耶ちゃん」の心を配慮するようになる。

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(引用元「バクマン。」9巻 原作:大場つぐみ 作画:小畑健 集英社)

ファースト「香耶ちゃん」呼び。

呼び方が変わるのは「結婚したから」という理由なのだが、意外とこういう形式から心境も変わってくるのが呼び方の変化の萌えるところだ。

話の内容は、二人の関係にはまったく関係ないが。

 

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(引用元「バクマン。」11巻 原作:大場つぐみ 作画:小畑健 集英社)

5巻とまったく同じシュチュエーションだが、明らかにサイコーの態度が違う。

5巻のときは「仕事をしてくれればいい」と言い、シュージンが断ると「悪いな、見吉」とそれ以上すすめることはしていない。多少気を遣っているが、二人の関係だから好きにすればいいというスタンスだ。

それに対して今回は、明確に見吉の気持ちを慮った発言をしている。そのため、シュージンに対する言葉も「帰れば?」とか「帰らないのか?」ではなく、「帰れよ」という命令形になっている。

こういう言葉から、サイコーの見吉に対する心境の変化がうかがえる。

 

シュージンと結婚して以降、サイコーは見吉のことを非常に尊重するようになる。

見吉が「シュージンの配偶者」という公的な立場になったこともあるが、「夫婦だから」という社会的な側面を尊重しているというよりは、「香耶ちゃんに寂しい思いをさせるな」という言葉のように、見吉の心情をかなり気にするようになる。

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(引用元「バクマン。」13巻 原作:大場つぐみ 作画:小畑健 集英社)

自分もだいぶシュージンと気まずい状態なのにも関わらず、「(言いにくいなら)俺が言ってやろうか?」というサイコー。

漫画関連のこと以外は他人のことには余り口出ししないサイコーが、こういう気遣いを見せるのは、見吉に対してだけだ。

関係性の違いもあるが、ある面ではシュージン以上に見吉の気持ちを大事にしている。

 

そして亜豆のことは元より、仕事のことまで相談するようになる。

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(引用元「バクマン。」13巻 原作:大場つぐみ 作画:小畑健 集英社)

「邪魔者」と言わんばかりの態度で「漫画のことに見吉が口出しするって、駄目だろ」と言っていた初期のサイコーからすると、信じられない変化だ。

 

見吉は「亜城木夢叶の妻」

なぜ結婚以降、サイコーの態度がこれほど変化したのかというと

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(引用元「バクマン。」原作:大場つぐみ 作画:小畑健 集英社)

この言葉に象徴される。

見吉がさりげなく言っている「亜城木夢叶の妻」という言葉だ。

「シュージンの妻」という存在以上に、見吉はサイコー、シュージン、亜豆の未来と夢の集合体の妻であり、同志なのだ。

「シュージンを忙しくさせてごめん」という言葉の返事に対して「(自分が)わかった、頑張る」と返すのはよくよく考えるとやや不自然なのだが、その不自然さが見吉とサイコーの関係では自然なのだ。

 

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 (引用元「バクマン。」20巻 原作:大場つぐみ 作画:小畑健 集英社)

そして最後のこのシーン。

サイコーが、どれほど自分たちを献身的に支えてくれた見吉に感謝しているかが伝わってくる。

遠くで自分と同じ夢を追いかける亜豆とも、自分の分身とも言えるシュージンとも違う、すぐ近くから自分たちとはまったく違う視点を持って、自分たちを無償で見守って支えてくれる存在として、非常に強い信頼と感謝を寄せていたのだなと思う。

 

恋愛感情のまったくない異性が、これほど強い信頼で結びついているのが羨ましい。逆に「信頼」という一点だけを考えるなら、恋愛感情というのはむしろ邪魔なのかもしれない、と思うほどだ。

亜城木夢叶のペンネームの逸話が回収されたこともあり、このシーンが、個人的には「バクマン。」のクライマックスだ。

 

この二人の関係性がメインテーマでないのにも関わらず、これほど関係性が変化していく様が描かれるのはけっこう珍しいと思う。

サイコーが中学生から20歳を超えた大人になったということも大きいとは思うのだが、漫画と亜豆のことしか頭にないサイコーの信頼を、漫画を描けない見吉が勝ち取ったのは、やはり見吉の性格によるところが大きいと思う。

「見返りを求めない自由な意思からの献身」

ひと言で言えることだが、これを出来る人間は万に一人もいないのではないかと思う。どれほど自分からやったことでも、つい「これだけやってあげているのに」と思いがちになってしまう。

少年漫画だからほとんどフォーカスされないし、物語としてもそのほうがバランスがいいと思うけれど、読めば読むほどすごい女性だと思う。

 

シュージンと見吉の関係など

シュージンと見吉の関係も、結婚前は連絡がなくてもほとんど気にしない、常に仕事が優先、嫌なら別れて一向にかまわないという態度に見え、シュージンのほうは惰性で付き合っているんじゃないかと思うような関係なのだが、結婚後はびっくりするほど見吉を大事にしている。

まったくそうは見えないが、シュージンも付き合っていたころから見吉のことが好きだったし、言葉の端々では「見吉が好きだから頑張る」など言っている。

 

このシュージンの態度から、仕事や趣味を最優先にしている男性の交際に対する姿勢がよく分かると思う。

たいていの女性はこういう態度を見ると「自分はないがしろにされているのではないか」と思うし、そこから自滅するパターンもよく見る。そして彼女がそういう心境を表に出したときにフォローに回るのではなく、蒼樹さんとの関係を疑われたときのシュージンのように「信じてくれないならそれでいい」という結論に達する。

それがいいとか悪いとかではなく、こういう男性はこういう人なのだから仕方ない。

 

そういう態度を非難するのではなく、そういう人と一緒にいるかいないかを自分で決め、どうしても許せなくなったときは即座に別れるという決断を下す見吉は、稀に見る女性だと思う。

「こういう男性が何を考えているか」「交際に対してどれくらい重きを置いているのか」ということがよく分かる点も面白い。

「彼女が大事」と「交際が大事」がイコールではない。この辺りをごっちゃにすると、話がややこしくなるだなあとシュージンを見ていて思った。

 

あとはシュージンと亜豆(岩瀬ではない)の「相容れないけれど、お互いの力量を認め合っている好敵手」という関係もなかなか好きだ。シュージンと亜豆の絡みは、常に緊張感が伴う。これも異性だとなかなか見ない関係だと思う。

サイコーと岩瀬の「お互いまったく興味がないし、好きでもないけれど、認めている」という関係もいい。

「バクマン。」は他の漫画では見ない、面白い関係が多い。

 

色々な登場人物が出てきて、色々な心情が読み取れるところも「バクマン。」の面白いところのひとつだと思う。