うさるの厨二病な読書日記

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「ゲーム・オブ・スローンズ」を「父性」「母性」「男性性」「女性性」というキーワードで読み解く

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7月17日(月・祝)についに「ゲーム・オブ・スローンズ」シーズン7が公開される。シーズン7の副タイトルは、原作タイトルの「氷と炎の歌」なので、クライマックスなのかもしれない。

 

「ゲーム・オブ・スローンズ」をシーズン6まで見て、「母性」が非常に重要な意味を持っている物語だなと思った。

様々な角度から色々な見方ができる物語だが、この記事では「母性」及び「女性性」に焦点を当てて、「ゲーム・オブ・スローンズ」を読みたいと思う。

 

*本記事には「ゲーム・オブ・スローンズ」シーズン6までのネタバレが含まれています。未視聴の方はご注意ください。

 

 

「ゲーム・オブ・スローンズ」の中の母性

「ゲーム・オブ・スローンズ」では「母性」が非常に重視されている。

主人公の一人であるデナーリスは「ドラゴンの母」という称号を持っている。ドラゴンの「妻」でもなく「女王」でもなく、「母」であることがデナーリスの重要なアイデンティティになっている。

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(引用元「七王国の玉座」/ジョージ・R・Rマーティン/早川書房)

 

サーセイは「女としてのコツは、夫を愛さずに子どもだけを愛すること」「子どものためならば世界を焼きつくす」など、「子ども」が自分にとって最も重要な存在だと事あるごとに言う。

 

母性は理屈ではなく、ドラマの中で時として良心や善悪、倫理すら上回る。

ライサは息子のロビン可愛さの余り、領地であるヴェイルのことや、肉親であるキャトリンやリバーウッドの人々のことも二の次にしてしまう。

サーセイは残酷で加虐的性格を持つ息子ジョフリーでさえ心の底から愛し、その死を嘆く。

「光の王」に心酔していたセリースも、娘シリーンを火あぶりにした罪悪感に耐えきれず、自ら首を吊っている。

ドラマの中で善玉の立ち位置であるキャトリンでさえ、娘二人を取り返すために、味方を裏切って、人質のジェイミーを逃がしてしまう。そして「血染めの婚儀」では領主夫人としての義務や復讐の念よりも、息子ロブの助命を最優先した言葉を吐く。

 

「ゲーム・オブ・スローンズ」では、母性を「素晴らしいもの」として肯定的なだけの描き方はしていない。

それは善悪の観念を超えたものであり、時に大勢の人間を死に追いやり、味方に損害を与える凄まじいものとして描かれている。

 

特にサーセイは、ジョフリーの性格をいい方向に導くことができなかったために結果的に彼の死の遠因を作ったり、マージョリーを殺すことでトメンを死に追いやるなど、「悪しき母性」の象徴として描かれている。

ミアセラについても、彼女がドーンに行くことを止めることができず、自分の力では取り戻すこともできない「母性の無力さ」を描いている。

強い母性を持ちながら、結果的には子どもを守ることもできず、むしろ死に追いやってしまう「悪しき母性」のサーセイと、「善き母性」の象徴であるデナーリスが戦うという構図はなかなか面白い。

 

「善き父性」を喪失したあとの物語。

シーズン1開始の時点で、ウェスタロス大陸は父性(男性性)によって支配されていた。

父性(男性性)の最も善き面を表し、象徴だったのがネッドである。

ところがネッドはシーズン1で早々に殺されてしまい、ウェスタロス大陸は「悪しき父性」によって支配されるようになる。

 

「悪しき父性」であるタイウィン、ルース・ボルドン、ベイロン・グレイジョイ、ウォルダー・フレイなどが実権を握り、主導権を争うことによって「子」である国から秩序が失われ、男性性の中の悪しき武器である「暴力」が最も力を持つようになる。

 

この「悪しき父性」を倒す力は、男性性の中からは生まれない。

ジェイミーは父親タイウィンに逆らえず、シオンは見捨てられ男性の象徴を失うことになる。ロブはウォルダーに殺されるし、誓約に縛られるジョンはウェスタロス大陸の出来事に関与することができない。

ヤーラは女性でありながら男性性を強く持つ人物(男性性を体現したような人物)だが、ユーロンに追い出され、ウェスタロス大陸から逃亡せざるえなくなる。

ルースやベイロンを殺したラムジーやユーロンは、「悪しき父性」を倒したのではなく、自分が暴力で人を支配する新たな「悪しき父性」になっただけだ。「悪しき父性」自体を倒すことはできない。

 

こうした「悪しき父性による支配」をくつがえすためにウェスタロス大陸にやってくるのが、「善き母性」であるデナーリスである。

そして彼女と手を組むのがエラリア、オレナなどの女性、女性でありながら「善き男性性」を持つヤーラ、男性の象徴を失ったシオン、同じく男性の象徴を失っているヴァリス、男性でありながら武器としては女性性に属するものを巧みに扱うティリオンである。

そして男性性を強く持つ愛人のダーリオをウェスタロス大陸には連れて行かない、というのも面白い展開だ。

 

男性でありながら優れた女性性を持つティリオン

ティリオンは性格自体は男らしいし、男性性に属する論理性や決断力なども持つが、身体的にハンディがあるため「悪しき男性性の武器」である暴力を使わない。

彼が武器として使うのは、女性性に所属する共感性や話術だ。ティリオンは人に共感し、相手を思いやる能力が非常に高く、男性でありながら非常に優れた女性性の能力を持っている人物として描かれている。

 

優れた女性性を持つティリオンが、作中の中で最も強い力を持つ「悪しき父性」だったタイウィンを殺し、「善き母性」であるデナーリスに忠誠を誓う。

シーズン7の展開は分からないが、恐らく「悪しき母性」であるサーセイを倒し、「善き男性性(のちに父性に成長する)」であるジョンと手を組み、ジ・アザーを倒し、子(国と民)を守りきるのではないか、と思う。

 

「女性性」が活かされ評価される社会に。

business.nikkeibp.co.jp

 自分はこの記事の主旨には賛成だけれど、残念ながらタイトルが「女性のみに女性性を求める」ように読めてしまう。

 

「ゲーム・オブ・スローンズ」ではヴァリスやティリオンのように、男性でありながら優れた女性性を持ち、それを生かした生き方をしている登場人物が出てくる。

逆にヤーラのように女性でありながら、強い男性性を持った人物もいる。

女性性は男性も持っているし、男性性は女性も持っている。

先天的な性格に加えて、生物学的な性別で見られたときに、どちらのほうが評価されやすいかなどの後天的な要素にもこの配分は左右されやすいので、確かに生物学的な性差に沿った傾向はあるかもしれないが、それでも人それぞれ違う。(例えば同じことをやっても男性だと「男らしい」と評価されるからその要素を強めるが、女性だと「女らしくしろ」という圧力を受けて、その部分を抑圧してしまう、ということはあると思う。逆もありうる。)

 

近代から現代に至るまでの社会は「男社会」ではなく「男性性一元支配の社会」だったのではないか、と思っている。男女関係なく「男性性の強く出せる人物」が上に立ち、「男性性を用いて組織を動かすリーダー」となる。女性性というものが、社会的には評価され辛い社会だったのではないかと思う。

なので生物学的な男女は関係なく、女性性が強い、もしくは男性性が弱い人は抑圧を感じやすく、評価され辛い構造のように感じる。

 

個人的には生物学的な性差は関係なく、その人個人が体現したいと望む「自分らしさ」を社会が受け入れ評価されることが望ましいと考えている。生物学的な男女の属性に沿わないことから、不当な抑圧を受けることもない、逆に自分の属性に沿った特性を発揮したいと願う人は、その特性が存分に体現できる社会になって欲しい。

男性性、女性性どちらがいいということもなく、それぞれに特性があるのだから、その良さを認め活かしていけばいいと思っている。

 

ただ今の時代は「男性性」を発揮しなければ、社会では評価され辛いように感じられるので、もっと「女性性」の力が評価されてもいい、と個人的には思う。

「男性的な男性」や「男性化した女性」しかリーダーになれない、という社会ではなく、(生物学的な男女は関係なく)女性性を多分に持つリーダーが誕生してもいいと思う。

 

女性性を発揮したリーダー・デナーリス

「女性性によるリーダーシップを発揮したリーダー像」というのはなかなか想像しづらかったのだが、デナーリスがそれに当てはまる。

彼女は敵には容赦しないが、従ったものは基本的に受け入れようとし、話し合いで物事を解決しようとする。

象徴的なのはシーズン6の最後で、自分に忠誠を誓ったドスラク族に対して「男の族長は血盟の旗手を三人選ぶが、自分は女だから全員選ぶ」と言ったシーンだ。

また一度は追放したジョラーのことも、その罪を許し、労わりの言葉を与えている。

 

デナーリスは統治者として民や部下の前に姿を現すときに、常にドレス姿で現れる。

「力による支配」の象徴である兵装や男装でなければ舐められる、そういうことをデナーリスは恐れない。生物学的には女性であっても、男性性によるリーダーシップを発揮しているヤーラと比較すると分かりやすい。

デナーリスは「母性や女性性を多分に持った女性」として、女性性を用いた統治者であろうとする。

 

「ゲーム・オブ・スローンズ」の世界では、「女性性」というものはほとんど評価されない。強い男性性を持たない人間は簡単に暴力に踏みにじられ、犠牲者となる。

ドラゴンという強い力を持っているとはいえ、そういう世界で女性性を強く活かしたリーダーであろうとするデナーリスや、彼女を支える面々が男女問わず、女性性を多分に持つ存在であることは非常に面白い。

 

そして男性性と女性性というものを対立するものと扱わず、「善き男性性」をネッドからジョンに受け継がせ、最終的にこの二者が共闘する(かどうかは分からないけれど)という物語もいい。

生物学的性差ではなく、その人が持つそれぞれの特性を活かした登場人物たちがお互いの良いところを認め合い、暴力や抑圧を意味する「悪しき父性」「悪しき母性」の支配を打倒し、外敵も打ち倒す。

現代とはまったく違う社会構造なのに、現代に通じる問題も読み解くことができる。こういうところも「ゲーム・オブ・スローンズ」のすごい点だなと思う。

 

参考:カウンセリングサービス■心理学講座「私の中の男と女〜男性性と女性性〜」

「男性性」「女性性」について、分かりやすく書かれている。

 

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 シーズン1からあらすじと感想を書いています。

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