うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

アガサ・クリスティ原作ドラマ「大女優殺人事件~鏡は横にひび割れて~」について、原作と比較しながら感想を述べたい。

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2018年3月25日(日)に放送された、アガサ・クリスティ原作ドラマ「大女優殺人事件~鏡は横にひび割れて~」の感想及び、原作との相違点についてなどを語りたい。

www.tv-asahi.co.jp

 

原作及びドラマのネタバレをしています。未読未聴の方はご注意ください。

 

 

改変が上手い

昨年の「そして誰もいなくなった」のときも思ったけれど、このシリーズは改変が上手い。

現代だとやや差しさわりのある箇所の変更はもちろん、「ああ確かにそう変えたほうがすっきりするかも」「話がつながりやすいかも」と思う箇所は、思い切って変えてある。

「原作の核」と言える部分は絶対外さないし、「改変なりの見解」も添えられていて、原作への尊重や敬意がしっかりと感じられる。

自分の好きなもののドラマ化に対しては、「結局、原作の映像化というだけで下位互換に過ぎないのでは」もっと悪いと「原作の知名度だけを利用していて、自分たちのやりたいことをやっているだけじゃないのか?」という疑いがあって、大して期待していない場合が多いのだけれど、このシリーズは安心して見れる。

原作を読んであらすじや結末を知っていても「あの原作をどういう解釈で描いてくるか」という楽しみがある。

できれば毎年恒例にして欲しい~。

「今年は、どの作品かな?」と楽しみにできる。

 

あらすじは同じでも、見せ方の違いで別の読み味になる。

原作はどちらかと言うと、「被害者バドコック夫人はどんな人物だったか?」ということに焦点が当てられている。

「アリスン・ワイルドもそんな人物だったわ」

「とても親切で悪気などまったくなかったけれど、『他人から見たら物事がどう見えるか』ということを考えたこともない人だった」

という被害者の人物像と、それを中心にして事件の真の姿を洞察するマープルの推理方法がカギになっている。

 

「人はどんなに自分にとってはとてもいい、善意からの行動でも、他人に対してとんでもない悪影響を及ぼしてしまうことがある」

マープルは「バドコックみたいな人は、いつかそういう目に遭うようになっていた」と手厳しいけれど、人には誰にでもそういう部分があるように思う。

実生活でもネットでもこの「認識の齟齬」はけっこう見るし、自分も味わうことはある。ということは自分もどこかでやらかしているんだろうな、とわが身を顧みて怖くなる。

たぶん誰もがやりがちなこと、世の中で溢れていることが最悪の形で描かれているからこそ、この物語は悲しく救いがなく、とても怖いのだと思う。

 

対してドラマのほうは、犯人である女優綵まど香の悲劇性に焦点が当てられている。

原作を読んだときは「マリーナは、母親としての役を演じていたんです」などと書かれていても「そう言われてみればそうなのかもしれないけれど、そういうもんかね」くらいのテンションで思っていたことが、ドラマで見ると納得してしまう。

「実生活でも、そう思っているときは本当にそうなりきってしまっていて、本人にとっても本当にそうなのか、演技しているのかが分からないのではないか」

という「そんなことありうるのか?」と思うことが、「ああこういうことか」と目で見て感じることができる。

 「まど香は『自分が狙われている』と訴えているときは、本当にそう信じていた」

そういう女優としての業も、よく表れていた。

人によっては「気の毒だとは思うけれど、ちょっとな…」とイマイチ理解しきれないかもしれない動機も、あの「鏡が横にひび割れて」の表情を見ると、「この人にとっては殺意が生じるほどの衝撃だったんだ」と納得することができる。

 

この話では「鏡は横にひび割れて」の表情で、犯人にとっての動機の深みを読者に納得させることは必須だと思うんだけれど、まさに「世界の崩壊を見た」みたいな表情だった。 

黒木瞳はやっぱりすごい女優だな、と思った。

相国寺に「奥さまを愛しておられるのですね」と言われたときの古谷一行のアップの表情も、無言なのに「心の底から愛しているからこその絶望」がひしひしと伝わってくる。

こういうのを見ると、「俳優ってすごいな」と思う。

 

精神が不安定で不幸な人生を送ってきた美しい女優の悲劇性に物語を回収している時点で、配役がものすごく重要になってくると思うのだけれど、

「こういう角度でこの物語を見せたいから、この俳優」

という、パズルの一ピースに至るまで考えられているところに、原作への敬愛を感じずにいられない。

原作ファンにも「原作が忠実に映像化されていて良かった」じゃなくて、「このドラマを見て良かった」と思わせる。

「鏡は横にひび割れたような」って、こんな表情かあ、と映像ならではの発見ができる。

贅沢かもしれないけれど、原作があるものを映像化するならば、常にこういうものが見たい。

このあと、「パディントン発4時50分~寝台特急殺人事件~」も見る予定なので、おおいに期待している。

 

 来年は、何をやるんだろう?

来年も続くものと期待していいかな? というか期待しています!

今年は二話ともマープルだったから、来年はポアロものと予想。

大本命は「アクロイド殺し」

トリックが超有名だからこその上手い改変を期待したい。

「メソポタミヤの殺人」や「ポアロのクリスマス」辺りは、トリックは単純だからこそ、改変の仕方が試されて面白いかも。

 

というわけで来年も楽しみにしています。

 

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