第六回日本ホラー大賞受賞作。
「ぼっけえ、きょうてえ」とは、岡山弁で「とても怖い」という意味だそうで、いったいどれだけ怖い話なのだろうと読んでみたら、
恐いというよりも、めちゃくちゃ痛い話だった。(精神的な意味で。)
よく「人生詰んだ」という言葉を見るけど、この小説の主人公は、生まれたときから詰んでいる。というより生まれる前から、人生が詰んでいる。
知れば知るほど、苛酷で残酷な人生。
どこにも出口がない。
密閉された箱に詰め込まれて、土中に埋められたようなものだ。
「親なるもの 断崖」の主人公の梅に、若干境遇は似ているけれども、それでも、梅はまだ三人の男性に愛されたり、子供も授かったり、悲惨な人生な中にも光があった。
「ぼっけえ、きょうてえ」の主人公には、ひとすじの光すらない。
自分の人生の中でただ一人だけ優しくしてくれた巡査さん、(個人的なつながりは、何もない。)その人が客として来たら耐えられないから、地元の遊郭ではなく他の遊郭に売ってくれ、と泣きながら頼む。
読むのが辛いのを通り過ぎて、吐きそうだった。
自分の中のただひとつの神聖なものが、名前も知らない人のささやかな優しさしかない。それを守るためには、泣きながら土下座しなければならない。
どんな人生だよ。
こんなに暗闇の中を這いずるまわるような人生でも、生きているだけで素晴らしいと言えるのか?
こんな闇に閉ざされたような世界でも、生きていかなければならないのか?
「かわいそう」という言葉を、口にすることすらできない。
読み終わったあとはただただ衝撃を受けて、無言で本を閉じた。
最後の主人公の顔の秘密も、それ以前に虚脱状態だったので、ただうすらぼんやりとした気持ちで読んだ。
こういう人生を送る人の前でも、生きている意味を語ることができるだろうか??
ものすごく短い小説なのですが、そんなことを考えさせれた。