「ムーンライトシンドローム」の考察記事です。
第二回「夢題」①の続きです。前回「夢題」①はコチラ↓
リョウが訪れた、地下クラブの受付のジュンとサトルの会話は、モブの会話にしてはかなり長いです。
「地下クラブ」という限定された空間、組織から社会人になって出ていこうとするサトルを、ジュンがひきとめているのですが、その引きとめ方に、ちょっとした狂気を感じます。
「裏切りもの」「負け犬」「サトルには何の才能もない」
と、けっこうな罵り方です。
なぜ、クラブ通いをやめて社会に出ていこうとするサトルを、ジュンはここまで罵るのでしょう?
「サトル」というのは、ジュンにとっては、サトルという個人というよりは、自分が生きる「クラブという世界」を形成する因子だからです。
世界の形成因子がなくなるということは、自分が生きる世界を不安定にする行為であり、サトルは「社会に出る」という行為を行うことで、「ジュンの世界を破壊しようとする者」になったからです。
自分を取り巻く環境(階級や学歴、家族、対象は何でもいいですが。)に自我を預けている人間は、その環境のみが自分の世界であり、自分そのものなのです。
自分の内部には、何もありません。
だから、その世界を崩壊させようという因子に対して(その因子の意図が、世界の崩壊であるか否かは問わず)すさまじい攻撃を加えます。
よくあるパターンは、子供を自分の世界の形成因子にしてしまって、子離れができない親というパターンですね。
子供が自分から離れれば、自分そのものがなくなってしまうのですから、ありとあらゆる手を使って、子供の自立を阻止するわけです。
閑話休題。
このあと、ヤヨイとリョウが出会います。
ヤヨイがリョウに対して、「ゲイに見ようと思えば見える」と言いますが、これは重要なセリフだと思います。
「何かに見ようとしているから、そう見えるだけではないか? 本当にそうなのか? 人が事実と主張するものは、その程度のことにすぎないのではないか?」
ということではないでしょうか。
この法則性(?)は、あとにも出てきます。
「正直じゃないところが、魅力みたいだから」
ヤヨイのこのセリフは、けっこうな皮肉ですね。
そのあと、リョウがヤヨイに付いていくと赤い部屋にスミオが座っています。このシーンは、リョウの頭の中だと考えて差し支えないと思います。
結局、リョウはヤヨイ(というキョウコ以外の女性)を助けることもせず、逃げ出そうとします。
この後に及んでも何も選ばすに逃げ出そうとするリョウに対して、スミオは復讐のために、ヤヨイはリョウに、リョウの今までの行為の結末を分からせるために、キョウコの生首を見せるのです。
このあとに、ルミが言っていた「無になれる透明な時間、幸せな場所」にキョウコ、ルミ、スミオが集まります。
ここで会ったスミオは、「こういうスミオもありえたかもしれない」というスミオのもうひとつの可能性のような気がします。
ルミがリョウに味あわされたような、
「自分のことをまったく見ておらず、透明な存在になったと感じる気持ち」をスミオもキョウコに味あわされたゆえに、あんなに歪んでしまって、その結果、ミトラと契約を結んだのだとしたら、やりきれない気持ちですね。
そんな風に歪むほど、他人を傷つけてしまったキョウコとリョウは、やはり罪深いと思います。
キミカもその巻き添えを食った、と言えますしね。
次回は第四回「奏遇、変嫉、片倫」です。