西原理恵子の最高傑作にして、現代の聖書とも言われている漫画「ぼくんち」の紹介です。
自分が今まで読んだ中で一番好きな漫画は、福本伸行の「銀と金」です。
「銀と金」を読むまで、ずっとベスト1だった漫画が西原理恵子の「ぼくんち」です。
このふたつは、未だに甲乙つけがたいです。
エンターテイメントとしても完成されているぶん、長いこと「銀と金」に軍配をあげていたのですが、「ぼくんち」を久しぶりに読んだら、心の揺さぶられ方が半端なかったです。
「ぼくんち」を初めて読んだのは、高校生のときだったと思います。
そのとき、とてもいい話だな、と思いました。
でもそれから長い年月がたったいま読むと、高校生のころの自分は何も分かっていなかったと思います。
この漫画は、長く生きれば生きるほど、人生を歩めば歩むほど、心に響く漫画です。
有名な漫画なので、読んでいる方も多いと思います。
読んでいない方は、今すぐ買うか借りるかして読んでくれといいたいところですが、とりあえず、紹介したいと思います。
「ぼくんち」あらすじ
「ぼくの住んでいるところは、山と海しかない静かな町で、はしに行くとどんどん貧乏になる」
「その一番はしっこがぼくんちだ」
(引用元:「ぼくんち」 西原理恵子 小学館)
主人公は、一太と二太の兄弟。
生まれたときから父親は分からず、母親にも捨てられ、ピンサロ嬢のお姉ちゃん・かのこに育てられています。
一太と二太の周りの人たちは、「社会の底辺」と言われるような人たちばかりです。
一太の兄貴分になる、こういちくん。
(引用元:「ぼくんち」 西原理恵子 小学館)
町で一番の不良で、トルエンとシンナーを売って生計を立てています。
(引用元:「ぼくんち」 西原理恵子 小学館)
河原にボロ小屋を建てて暮らしている鉄じい。
鉄や銅線を売り買いしてくらいしているので、鉄じいと呼ばれています。
本名は誰も知りません。
(引用元:「ぼくんち」 西原理恵子 小学館)
二太の幼馴染で初恋の相手である、さおりちゃんのお父さん。
「さおりちゃんのとうちゃんはヤクザだ。でも、幹部でも構成員でもなくて、準構成員でもなくて、その下のチンピラでもなくて、時給二千円のパートのヤクザ」
「シャブをうったらやさしいけれど、酒を飲んだらあばれて、金のないときには、クズのチンピラにまでペコペコする」そんな人。
(引用元:「ぼくんち」 西原理恵子 小学館)
ニ太と仲良しのオリンピックの安藤くん。
刑務所に出たり入ったりしていて、四年にいっぺんくらいしかシャバに出てこないから、このあだ名がつけられました。
(引用元:「ぼくんち」 西原理恵子 小学館)
競艇の日に、トロ箱を一回10円で人に貸すことで生計を立てている、トロちゃん。
全財産であるトロ箱に囲まれて、空き地で暮らしています。めちゃくちゃ魚臭いので、よくネコに襲われて泣きます。
他にも出てくるのは、風俗嬢やシャブ中のおじさんやら、どんどん子供を産んで育てないで捨ててしまうおばあちゃん。
そんな人たちばかりです。
その人たちは強くも優しくもなく、自分よりも弱い人間には平気で当たり散らしたり、子供を捨てても何の良心の呵責も感じなかったり、それどころか自分の子供から暴れてお金を奪う、卑しく弱い人たちです。
人間の弱さや醜さ、卑しさに対する赦し
弱く醜く、卑しいそんな人々に対する西原理恵子の眼差しは、限りなく穏やかです。
責めるでもなく、かばうわけでもなく、ただ淡々と彼らの日常が描かれています。
心弱き普通の人たちが生きていく過程で、家族とは何なのか、人を愛するとはどういうことなのか、人間とはいったい何なのか、生きるとはいったいどういうことなのか、という生きていくうえで知らなければならないことのすべてが描かれています。
西原理恵子がこれを三十すぎで書いた、という事実に驚愕します。
自分は八十歳になっても、これだけのことを考えられるか自信がありません。
西原理恵子はすごい人だと思っていますが、それでも恐らく「ぼくんち」以上の作品は描けないだろうと思っています。
大人になればなるほど、自分が歩んできた道筋と重ね合わせて涙します。
読んでいるほうがたじろぐほど深いことが書かれているのですが、ごらんのとおりのほのぼのタッチの絵柄と、シニカルなギャグが織り交ざっているので、読むときは割とあっさり読めます。
教科書に載せて、ぜひ多くの子供たちに読んで欲しい、そんな漫画です。
*この記事は、2016年6月6日に投稿した記事を、再編集したものです。