うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

【小説】何回読んでも面白い! 綾辻行人「館シリーズ」の個人的ベスト5

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生存しているミステリー作家の中では一番好きな、綾辻行人の「館シリーズ」のベスト5を選んでみました。

犯人そのものは書いていませんが、トリックに多少触れている部分があります。

未読の方は、閲覧にご注意ください。

 

第5位 迷路館の殺人

鹿谷門実のデビュー作『迷路館の殺人』。それは作者自身が巻き込まれた実在の連続殺人事件を基にした推理小説であった。

推理作家界の巨匠・宮垣葉太郎の還暦の祝賀パーティーに招かれた推理作家、評論家、編集者、そして島田潔。約束の時間を過ぎても現れない宮垣を待っていると、秘書の井野が現れ、宮垣が今朝、自殺したこと、遺書に従い、警察には通報していないことを告げる。宮垣は1本のテープを遺していた。そのテープの内容は、

5日後まで、秘書の井野と医師の黒江以外は館を出てはならず、警察に通報してはならない、その5日の間に館に滞在する作家4人は、“迷路館”を舞台とした、自分が被害者となる殺人事件をテーマとした、遺産相続者の審査・選別のための推理小説を執筆しなければならない、最も優れた作品を書いた者に、遺産の半分を相続する権利を与える、というものだった。

驚愕しながらも、多額の遺産に目の眩んだ作家たちは各々執筆を始める。だが候補作家たちが次々と、小説の見立てどおりに殺されていく。

                         (Wikipediaより引用)

 

賛否両論ある作品ですが、初めて読んだ館シリーズということもあり、ランクインさせました。

迷路館のいいところは、何よりも「雰囲気がとても怖い」ところです、半地下で、廊下が迷路のようになっており、ところどころにギリシア神話の置物がおかれた人口の光しかない広大な屋敷に、作家たちがそれぞれの部屋に閉じこもって小説を書く。

設定である、この情景を想像するだけで怖いです。

綾辻行人は「恐怖の描写」がとてもうまい作家なのですが、特に殺人の直前の被害者の心理描写が秀逸です。

 

被害者がある違和感に気づく ⇒ 「えっ? 何で……?」のような呟き ⇒ 殺されて暗転

 

この流れは、常に変わらず心を恐怖でわきたたせてくれます。

この作品は、ネットでも物議を醸しだしていて、「迷路館の殺人」と打つと「矛盾」と予測変換が出てきます。

確かに実際の真相は、苦しいような気がします。作中作の真相のほうが(動機はともかく)理にはかなっているし、カタルシスも大きいし、「迷路館」という建造物の特殊性も遺憾なく発揮できているし、物語の流れとしてもすっきりしていると思います。

 

自分は今でも「作中作の真相が真実」と思っていますが、本そのものを二重の作りにするあのアイディアがやりたかったんだろうな、とか色々と考えると、あれはあれでいいような気もします。

 

第四位 十角館の殺人

1986年3月26日、大分県K**大学・推理小説研究会の一行は、角島(つのじま)と呼ばれる無人の孤島を訪れた。彼らの目当ては半年前に凄惨な四重殺人事件が発生した通称・青屋敷跡と、島に唯一残る「十角館」と呼ばれる建物である。彼らはそんな島で1週間を過ごそうというのだ。

一方その頃、本土では、研究会のメンバーに宛てて、かつて会員であった中村千織の事故死について告発する怪文書が送りつけられていた。怪文書を受け取った1人である江南孝明は、中村千織の唯一の肉親である中村紅次郎を訪ねる。

                         (Wikipediaより引用)

 

記念すべき綾辻行人のデビュー作にして、館シリーズ一作目。

森村誠一や松本清張が築きあげた「社会派ミステリー」が盛んだった時代に、「絶海の孤島で、登場人物が次々と殺されて、探偵が出てきて謎解きをする。誰が何と言おうと、それがミステリーなんだ。荒唐無稽上等」と啖呵を切って、ミステリー界に殴り込みをかけた一冊。作品が面白いこともさることながら、綾辻行人のこういう信念に満ちた行動力が大好きです。

このあと、有栖川有栖や歌野晶午、我孫子武丸などが次々と出てきたことを考えると、感慨深いです。(この点に関しては、島田荘司の功績が大きいですが。)

 

綾辻行人は叙述トリックの名手であり、好んでよく使いますが、本書は叙述トリックのお手本のような作品です。

余談ですが、綾辻行人を前で「叙述トリックはミステリーと認めねえ(意訳)」と発言した有栖川有栖はすごいと思う。(確か「ミステリージョッキー1」での発言だったと思います。)

 二人の、マニアックさと仲良しぶりが面白いです。

 

第3位 人形館の殺人

「私」、飛龍想一は、育ての母である叔母とともに実父・飛龍高洋が残した「緑影荘」に引っ越すために京都を訪れる。その屋敷は本邸の日本家屋には部品の一つが欠落したマネキンが随所に配置され、また離れの洋館はアパートとして貸し出されていたが改築時に中村青司が携わったという噂があった。

しかし、近所では通り魔殺人事件が発生、さらに私のもとにも奇怪な手紙が届き、そのころから次々と奇妙な出来事が起こり始める。

私の命を狙う人物とは誰なのか? 恐怖に駆られた私は、大学時代の友人・島田潔に助けを求める

                         (Wikipediaより引用)

 

館シリーズファンからは、えらく評判が悪い人形館がランクイン。

ミステリーというよりは、サイコホラーに近いので、館シリーズよりは綾辻行人の別シリーズ「囁きシリーズ」に近いです。他の要素を無視して、個人的嗜好だけで選ぶのならば、自分にとっては一位の作品です。

 

人形館のいいところは、全編を通して不気味で怖いところです。読んでいる間ずっと、主人公に引きずられて心が不安定になります。自分の周りの人も、事実さえも信じられない、安全地帯がない怖さという心象を作ることも綾辻行人は上手いですが、その手法が最も効果的に生かされた一冊だと思います。

夏の夜に読むには、おススメの一冊です。

 

第2位 暗黒館の殺人

九州の山深く、外界から隔絶された湖の小島に建つ異形の館――暗黒館。光沢のない黒一色に塗られたこの浦登(うらど)家の屋敷を、当主の息子・玄児(げんじ)に招かれて訪れた学生・中也(ちゅうや)は、<ダリアの日>の奇妙な宴に参加する。その席上、怪しげな料理を饗された中也の身には何が? 続発する殺人事件の“無意味の意味”とは……?

                        (アマゾンより引用)

 

まず「暗黒館は長い」という人に、一言いいたいです。

「暗黒館」は、そもそも読者に一見さんを想定して書かれていないんだと思います。長年の館シリーズのファンのために綾辻行人が「これでもか」というほどのサービス精神を発揮して書かれた、ファンへのお礼の書なのだと思っています。館シリーズにどっぷり浸りたい、ずっと館シリーズの世界観にひたりたい館シリーズファンのための書なので、長ければ長いほどいいんだと思います。

真っ黒な異形の館、謎の行事「ダリアの日」、美しいシャム双生児、往年の本格ミステリーファンに楽しんでもらおうと、ファンが狂喜乱舞しそうなキーワードを全部ぶちこんで、物語を作り上げてくれたんです。そして長年、館シリーズを読んでくれたファンのために、「最後の驚き」も用意してくれたんだと思います。

 

「館はシリーズはずっとこういう感じだったよね。いつも応援ありがとう。今回も楽しんでね」

そういう本なのだと思います。

もちろん、別にファン限定で販売したわけではないのですから、暗黒館だけを読んだという人もいると思います。だからそういう人が「長い」「無駄な部分が多い」という感想を抱いたならば、それは仕方ないと思います。

綾辻行人もそういう感想に対して、一切言い訳めいた発言はしていないと思います。恐らくそういう批評がくることも覚悟の上で、館シリーズが大好きな人のために書いてくれたのだと思っています。

 

自分は暗黒館の物語の雰囲気が大好きで、ラストが近づくにつれて「読み終わってしまう」と寂しくて仕方がなかったです。館シリーズのファンだからこそ何倍も楽しめる、そんな「暗黒館」を愛してやみません。(*すべて個人的な見解です。)

 

第1位 時計館の殺人

大手出版社・稀譚社の新米編集者である江南孝明は、友人であり駆け出しの推理作家でもある鹿谷門実を訪ねる。そこで彼は担当している超常現象を取り扱うオカルト雑誌『CHAOS』の取材のため、2人と因縁のある中村青司の建築した通称「時計館」に行くことを伝える。その館には10年前に死亡した少女の霊が出るという。江南はその霊について取材するため、3日間泊まり込みで霊との交信を行うこととなった。『CHAOS』の副編集長、稀譚社のカメラマン、霊能者、W✽✽大学の超常現象研究会のメンバーらとチームを組み、彼らは「時計館」を訪れる。しかしそこで凄惨な殺人事件が幕を開ける。

                        (Wikipediaより引用)

 

既読の方は予想通りだと思うのですが、1位はこれです。公平に考えたら、1位はこれしかありえないという感じですね。

綾辻行人の著作はほとんどが平均点を軽くクリアしていて、駄作を探すほうが大変ですが、その中でも「時計館の殺人」と「霧越邸殺人事件」は頭ひとつ抜けていると思います。ミステリ史上の傑作に数えられる一冊だと思います。

色々と素晴らしい点がある本書ですが、「閉じ込められ、追い詰められた被害者たちの恐怖感」の描写が一番いいと思います。犯人も結末も知っているのに、何度読んでも怖いです。特に被害者の一人である新見こずえが、犯人から逃げ回って、偶然、「トリックに直結するある事実」に気づいて驚愕する描写は秀逸です。

 

また、本書はメイントリックも素晴らしいです。

ミステリーも読んだ冊数を重ねてくると、「これ、どこかで見たことがあるトリックだな」とか「これはあのトリックの変型だな」と思うことが多いのですが、この本のメイントリックは確かに既存のトリックの変型といえば変型なんですけれど、それをこういう形でやるか?! という感じです。

「まだまだ、ミステリーで斬新なトリックが生み出されるかも」という希望を抱かせてくれる作品です。

 

つい最近、また「十角館」と「人形館」を読み返したけれど、やっぱり面白かった。