「金スマ」で特集されていて、前々から興味を持っていたXジャパンのToshlの著書「洗脳」を読みました。とても興味深く面白い本でした。
Toshlが「ホームオブハート」という組織に取り込まれる過程やその心境などは、カルト教団などに取り込まれるときの典型的な道筋をたどっています。まるで洗脳の教科書のような本です。洗脳の被害者本人が告白してくれたことは、今後こういう問題に取り組むうえでもおおいに役立つと思います。
経験したことがないと「なぜ、こんな胡散臭い見え透いた手口にひっかかってしまうのだろう? なぜ、こんな集団にひっかかってしまうのだろう??」という感想を持つ人も多いと思います。自分も、ずっとそう思っていました。
ただ細部まで知ると、洗脳の手口というのは非常に巧妙です。
「自分だったらこんなのには、絶対ひっかからないと言えるだろうか?」
考え込むこともしばしばです。
「洗脳」というキーワードは、様々な事件で取りざたされています。こういった事件に巻き込まれる人を少しでも減らすためにも、洗脳のメカニズムを考えることはとても大切ではないかと思います。
今回は一体、どういう条件下で人は洗脳されやすくなるのか、ということを考えてみました。
*あくまで個人的な考えです。
そもそも「洗脳」とは、どういう状態なのか。
Wikipediaによると「強制力を用いて、ある人の主義や思想を根本的に変えさせること」
似た意味で使われるマインドコントロールは「他人の思想や情報をコントロールし、個人が意思決定する際に、特定の結論へと誘導する技術を指す概念である」ということです。
誰でも「洗脳されやすい状態」になる可能性がある。
どれほど意思が強くても、外部情報からまったく影響を受けない人間はいないと思うので、「洗脳される可能性はゼロ」という人は存在しないと思います。
あくまで個人的な考えですが、広義でいえば、自分たちは既に現代社会の価値観に洗脳されている状態ということが言えると思います。
問題なのは価値観の多様性がない閉鎖的な集団、もしくは個人に洗脳されてしまった場合です。この本に書かれているToshlの経験も、かなり壮絶です。
洗脳する側の条件
洗脳する側の方法論として、「どういった条件がそろえば、相手をコントロールできるか」を考えてみたいと思います。
この件については、有名なアイヒマン実験(ミルグラム実験)があります。
絶滅収容所で子供を含む数万人のユダヤ人を虐殺する責任者であったアイヒマンは、果たして特別な人間だったのか、それを見るための実験です。(*この実験に対しては、様々な異論や批判もあります。)
とりあえずその結果から得た、「人間をコントロールしやすい」条件を見てみたいと思います。
①外部から遮断された閉鎖的な状況下。
②自分よりも明らかに権威がある人物から、強く断定的な口調で命令される。
③「あなたには一切の責任を負わせない」と保障される。
とすると「洗脳する側のテクニック」としては、
①周囲との関係を断ち切らせ、孤立した閉鎖的な状況を作りだす。
②自分が何らかの分野で大きな権威(もしくは知識)がある人物である、と信じさせる。
③何かをさせるとき、責任の所在を分散させる。
こういうことになるのではないかと思います。
過去のどんな事件を見ても、①②の条件が成立してしまうと、そこから抜け出すのは至難です。(特に①)
非常に巧妙なのは、①の状況を作り出すためにまずは個人として近づいてくるパターンが多いということです。
Toshlは、元妻の守谷香が最初から自分を「ホームオブハート」に勧誘するために近づいたのではないかと言っていましたが、経緯を見ると恐らくそうなのではないかという気がします。辺見マリの場合も、自分のマネージャーが最初から占い師とつながっていたのではないかと語っていました。
親しい人に勧められた場合、むげには断りにくいですよね。
自分が「こうしたい」と述べているのに、それを受け入れず「こうしたほうがいい」と自分の行動をコントロールしようとしてくる。
Toshlの例でいえば、自分が高熱で苦しんでいて「今日は予約したセミナーにとても行けそうもない」と言っているのに、セミナー側は「あなたのために開いたのに」と何度もしつこく電話をかけてくる、妻も「行ったほうがいい」としつこく言ってくる。
つくづくこの時点で、気づくことができたなら、と思います。
こういうときにToshlは常に「こんなに言ってくれるのは、自分のためを思ってくれているからなのかも」という思考に走りがちです。
自分の意思を尊重してくれない人が、なぜ「自分のことを思ってくれている」と思うのか自分にはかなり謎です。
こちらの意思を尊重してくれず「あなたのためだから」という人は、たいてい自分のためにそう言っているだだけということは、覚えておいたほうがいいと思います。
この辺りは「洗脳される側の条件」のほうで述べたいと思います。
あとは洗脳する側が用いる手をしては、支配下にいるものたちを
①「評価に差をつける」「序列をつくる」
②自分は直接手をくださず、序列上位のものに序列下位のものへの制裁などを行わせる。
③何らかの形で、全員に責任(負い目)を負わせる。
①はコントロールを強化するうえでも、支配下にあるものたちを団結させないためにもびっくりするほど有効だと思っています。
序列や評価自体はどんな組織でも存在しますが、こういった組織においては評価基準が明確ではなく、洗脳主の主観によるところが怖いところだと思います。
同じことを言っても同じことをやっても、評価されるときもあれば非難されることもある。評価される人もいれば非難される人もいる。
そうなると支配下にある人間は、洗脳主の一挙手一投足から目を離すことができなくなります。序列化されていると支配下にある人間は、競争相手なので団結することはできません。自分が制裁を受ける側になったら、という恐怖があるからです。
こうして、さらに支配を強化することができます。
この構図が出来上がると、恐らくすべての人間がどんな非常識なことでもどんな残酷なことでも、命令されれば行う精神状態になると思います。
この構図でもなお自分を保てるような人間は、洗脳主が早々に標的にしているので、この段階ではすでに存在していない可能性が高いです。
洗脳される側の条件
自分は「生まれつき洗脳されやすい人」がいるというよりは、どんな人間でも「洗脳されやすくなる条件」があるのではないかと考えています。
その条件について、少し考えてみました。
①人間関係が少なく、孤立している。
②支配、被支配という人間関係のパターンを既に持っている
色々あるとは思うのですが、個人的にはこの二つの条件が大きいのではないかと思っています。
①については「絶対的な人間関係が少なく孤立している」ということはもちろん、「人間関係自体は多様でも、その中で信頼できる人がいない」というパターンもあります。ちなみにToshlの場合は、後者だったようです。
周りに他に頼れる人間がいないと、一度信頼してしまうと、その人に依存してしまいます。「価値観を多様化しておく」ということを目的にするならば、人間関係も多様化しておき、信頼関係も分散しておくことが一番だと思います。
②については、先に述べた自分が「こうしたい」と述べているのに、それを受け入れず「こうしたほうがいい」と自分の行動をコントロールしようとしてくる人が身近におり、その人の意思を尊重して自分の意思を抑圧するというパターンを子供のころから持っている。
自分はこのパターンを持っている人間が、数ある条件の中でも一番危ないと思っています。
文字にすると「どういう意味?」と思うかもしれませんが、親子関係でこういうパターンは非常に多いと思っています。
「自分はこっちの高校に行きたかったのに、親にこっちにしろと言われて、仕方なくこっちに行った」とかね。(経済的な条件で「行くことが困難」などではなく。)
自分の行動において、自分の意思を抑圧して相手の意思を尊重するパターンを植え付けられている。(自分の意思を殺してでも相手の意思に従わないと、のちのちイヤな目にあうことになる、という風に学んでしまっている。)
他人をコントロールする方法としては、高圧的な態度で「こうしろ」とはっきり言うパターンもありますが、相手の望む行動をしないと不機嫌になる、泣く、病気になる、「あなたのためなのに」という、など相手に罪悪感を植え付ける手法もあります。ちなみにこちらの手法をとるのは、女性が多いという印象があります。
こういう人間関係における思考のパターンを子供に植えつけてしまう親は、非常に罪深い存在だと考えています。
「自分で選んだ選択で引き起こした失敗を、自分自身で責任をとる」
ということは、一人一人の個人に与えられた権利であると考えています。
「自分のほうが判断力に優れているから」という理由で、子供の選択権を奪うというのは権利の侵害であり、子供に「自分は権利を侵害されてもいい存在なんだ」という認識を与えることになります。
この「自分は、自分の行動を他人に決められてもいい存在、という認識」こそが、洗脳されやすい条件のひとつではないかと考えています。
行動の選択権は子どもに与え、その行動を見守りつつ、子供が自分では責任を負いきれない失敗をしてしまったときに助ける、それが本当に「子供のためになること」ではないか、そう思っています。
(ただし失敗した場合、親自身も責任を負いきれないこと(犯罪行為など)の場合は、全力で止めるべきだと思います。)
もうひとつ②に関連して言うと、「支配、被支配という人間関係のパターンを持っている」。これを支配者側として持っている場合も、洗脳されやすいのではないかと思っています。むしろ、元々は「支配者側」の人ほど、自分よりも強い権威を持つ存在の前には弱いのではないかと考えています。
先にも述べたとおり、実はこの「支配、被支配の人間関係のパターン」を持っている人はけっこう多いと思います。
まとめ
自分が考えた、こういった事件に巻き込まれない方法としては、
自分の行動において、どんな理由であれ自分の意思を無視しようとする人間とはただちに距離をおく。
これしかないのではないかと思います。
強い信念を持つ組織に所属する人は、本気で「これはこの人のためなんだ」と思って嘘をついてでも勧誘してきたりしますからね。
そういう意味では「いい人」なのでしょうが、いい人だからと言って無害とは限らないのが、人間の怖いところです。
ToShlは本書の最後のほうで、「ホームオブハート」から逃げ出した自分を家においてくれた「お父様」に非常に傾倒しています。
「被害者の会」の人に会いに行くかどうかも、いちいち相談したり。
行き場のない人を家においてくれたのですから、きっといい方なのでしょうが……、これがフィクションであれば、Toshlの見えないところで「お父様」がニヤリと笑う姿が描写されて終わりそうな気がします。
一度、こういうパターンが染みついてしまうと、第三者から見ると「それは守谷さんのときと同じでは……」と思うのに、本人は気づかず繰り返してしまうんでしょうね。
そうするとあとはその依存先の相手次第、という、自分ではコントロールできない要素に自分の人生を委ねることになってしまいます。
そうならないためには、「どんなに苦しくても自分の行動の選択権は自分が持ち、自分が考えて行動し、その選択から引き起こされた結果は自分で責任を持つ」というパターンを繰り返して、自分のものとしていくしかないのではないかな?、と思っています。
あとは「オレオレ詐欺」などでもよく言われる、「自分だけは大丈夫」と思わないことも大切なんでしょうね。
Xジャパンについては有名な曲をたまに聞く程度でよく知らないのですが、今のToshlを見ると、繊細で気持ちの優しい人なんじゃないかなと思います。こんな悲惨な目に合わされたのに、歌声がまったく衰えていないことに驚きました。
今後の人生は幸せに過ごして欲しいなあと思います。
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hideのベストは、よく聞きます~。