子供のころ、ラノベが大好きでした。
自分が心の底からハマれる作品を求めて、キュウリをかじるかのごとく、片っ端から読んでいました。
自分の血肉の大部分は、ゲームと漫画とラノベでできています。(キリッ)
最近のラノベはまったく読まないのですが、自分が読んでいたころのラノベとは装丁を見ただけでも違うなという印象です。
きっと今の時代のラノベには、またあのころのラノベとは違う魅力があると思います。
今回は、子供のころの自分を夢中にさせた、昔懐かしのラノベについて語りたいと思います。
「スレイヤーズ」神坂一
いきなり、超有名作品からです。
アニメにもなったので、ラノベ好きならだいたいの人が名前くらいは聞いたことがあると思います。
RPGがそのまま小説になったかのような世界観、天才魔導師でもある美少女が大活躍する物語で、まさに王道の「ライト」ノベルでした。
基本はコメディでギャグが満載の内容なので、笑い転げて読んでいました。
「翔封界(レイ・ウィング)」とか「竜破斬(ドラグ・スレイプ)」とか未だに覚えています。
ドラグ・スレイプは、呪文も唱えられそうな気がする。唱えないけれど。
「スレイヤーズ」は、王道に徹したファンタジー系ライトノベルのお手本のような作品でした。
ゲームのようなファンタジーが好きな人なら、誰でも楽しめると思います。
第一回ファンタジア長編小説大賞の準入選作だったのですが、いま考えると「自分が書きたいものを書いた」というよりは、「どういうものなら、この賞のターゲット層に受けるか」ということを内容から文章からキャラクターから、ぜんぶ計算して書かれているような気がします。
あのころはラノベでもあそこまで際立ったキャラクター小説が少なかったので、「スレイヤーズ」は馬鹿にしている人も多かったのですが、(ごめんなさい、実は自分もちょっとバカにしていた時期がある…。)今は、アニメ化もして、ここまでシリーズが長く続くほど人気が出た理由もよくわかります。
読み手のニーズを徹底的に追及した、職人型作家が生み出す作品の鏡のようだと思います。
「星の大地」冴木忍
「スレイヤーズ」が準入選した、第一回ファンタジア長編小説大賞で佳作をとってデビューしたのが冴木忍です。
自分はこの人の作品が大好きで、有名なシリーズはだいたい目を通しています。
一番有名なのは、たぶんこれだと思うんですけれど。
「卵王子カイルロッド」の苦難シリーズ。
卵王子もそうなのですが、この人の作品は「えっ??そんなのあり??」と言いたくなる、お約束を裏切った展開が多かったです。
ひと言でいうと、容赦がない。
ほのぼのとした展開から、突然、どうしようもない辛い運命に転換するところが(しかもいきなり転換する。)好きでした。
そんな容赦がない運命の転換の中でも、ダントツにすさまじかったのがこの「星の大地」です。
一巻の裏表紙に「痛快なコミカルファンタジー開幕♪♪」と(うろ覚えですが)書いてありますが、大嘘です。
王女さまと侍女が楽しく冒険をする一巻からは想像もつかない、絶望しかない鬱展開に衝撃を受けました。
作者に私生活で何かあったのだろうか??と勘繰るレベルです。
(展開自体がどうこうというより、とにかく一巻との落差がすごかった。というか、編集者は、先の物語を知らされていなかったのだろうか?)
ただ、絶望しかない世界の中で、必死に希望をつかもうとする登場人物たちの姿がとても印象深いです。
人間の醜さや愚かさの中でこそ、強さや美しさも光り輝くそんな物語でした。
自分は、今でもラノベの中でこの「星の大地」が一番好きです。
何回繰り返して読んだか分かりません。
結局、処分してしまいましたが、また買って読みたいなあと思います。
ザヴィアが大好きだった。
「バセット英雄伝エルヴァーズ」ひかわ玲子
伝説の巨人の生まれ変わりの少年が、圧制をしく帝国と戦う物語です。
もともと作者のひかわ玲子のファンだったので読みました。
ひかわ玲子という人は、王道のファンタジーを書くのがとてもうまい人で、キャラクターも物語もさほど癖がないので、どの作品もスイスイ読めます。(逆にそれが物足りないという人もいるかもしれません。)
特徴的なのは、「巨大な力」や「英雄・王族などの立場」を持つ人間の葛藤を描いていた点だと思います。
「巨大な力」を持っていても「英雄」と呼ばれていても、その器は当たり前の人間であり、自分が持っている力の大きさに苦悩したり、それが足かせとなる話が多かったです。
この「バセット英雄伝エルヴァーズ」は、そのテーマが最も顕著に、しかもうまく描かれた作品でした。
「伝説の巨人であり救世主の生まれ変わり」とはいえ、主人公のセイトは少年です。
自分が持つ巨大な力を制御できず街を壊滅させてしまったり、好きな女の子を助けたいと願う余り暴走してしまったり、そういう「英雄であることに苦しむ姿」が非常にリアルに描かれていました。
最初読んだときは「なんか地味だな」と思いましたが、読めば読むほど味が出てくるスルメのようなお話でした。
恋愛色も強めなので、小中学生よりは、高校生くらいの自意識にぴったりはまる作品かもしれません。
作画が美樹本晴彦でした。
「マヴァール年代記」田中芳樹
田中芳樹は、真性厨二だったころの神の一人です。
やっぱり、なんだかんだ言って面白いんですよね。
最近、銀英伝も読み直しましたが、たいへん面白かったです。
その中でも一番好きだったのが、この「マヴァール年代記」です。自分は「アルスラーン戦記」よりは、断然マヴァール派です。
全三巻で話が綺麗にまとまっているし、魅力的な登場人物が多かったです。隻腕将軍オルブラヒトとかラザールが好きでした。
あと、田中芳樹って、性格が悪い女性のほうが描くのがうまくないですか?
銀英伝だったら、ベーネミュンデ侯爵夫人が一番面白いキャラクターだなと思うし。
マヴァール年代記もアンジェリナよりも、エルセベートとかアデルハイドのほうがずっと魅力的です。
好みの問題かもしれませんが。
「精霊ルビス伝説」久美沙織
ドラゴンクエストに出てくる精霊ルビスは、どのようにして世界を作り、勇者ロトはどのようにして生まれたのかという物語です。
ドラゴンクエストのノベライズは複数出ていると思うのですが、これがダントツに面白かったです。
複数の種族が共存する世界観がよくできていましたし、物語全体に漂う、世界の終末を思わせる不穏な空気もよかったです。
ただ子供の自分が、この物語で一番衝撃を受けたのは「こんなに性格が悪くても主人公になれるんだ」ということです。
そのころ自分が読んでいた物語の主人公って、みんな素直で明るくて誰にでも優しいようなハウス名作劇場に出てくるような人物ばかりだったでので、ルビスの傲慢で自分勝手な我儘ぶりに度肝を抜かれました。
これは別に「性格が悪い」というキャラクター設定だったわけではなく、「この年くらいの美しくちやほやされて育った女の子なら誰でも持っているような、自己中心さ」だったので、いま考えると非常にリアルです。
心は優しいけれど影が薄い婚約者が気に食わないので、「あんな男と結婚するくらいなら死んだほうがマシ」と言ったり、好きな男が自分を家に連れ帰ろうとしたら、「今すぐさらってくれなら、ここから飛び降りて死んでやる」と言ったり、身元を隠して参加した祭りで自分の種族がバカにされたら、ブチ切れてケンカを売ろうとしたりします。
しかも「自分は偉い身分で若くて美人だから、そんなふるまいも許される」と思っていることがナチュラルに伝わってきて、その性格の悪さがいま思うとルビスというキャラの最も魅力的なところだったと思います。
実際問題、そんなルビスに周りの男たちは全員惚れこんでいて、なんだかんだ言って言いなりになります。
美人は何をしても許されるんだな~~。
ルビスの親戚に、クリプトカリオンというヘヴィメタみたいな恰好をした遊び人の男がいますが、この人はルビスと結婚できることになったとたん、真人間に更生します。
礼儀作法なども覚えこみ、ルビスにプレゼントを贈ったり、涙ぐましい努力をします。しかし結局、ルビスは初恋の男と駆け落ちしてしまいます。
「女は自分が好きな男以外には、とことん残酷な生き物なんだ」ということが痛いほど学べました。
駆け落ちしている最中に追手が追いかけてきたときも、ルビスは相手の男に「何で逃げるんだよ、戦えよ」とか思っていますしね。
十代後半のモテ女子の残酷な本音を余すことなく味わえる点が、この本の一番の魅力だと思います。
まだまだ語りたい作品があるのですが、アッという間にかなりの字数になってしまったので今回はこれで終わりにしたいと思います。
ご清聴、ありがとうございました。
また書きたくなったら、第二弾で語りたいと思います。