相も変わらず、空いている時間は「ゲーム・オブ・スローンズ」を見ています。
現在、シーズン5の第5話まで見終わりました。
ところでこの「ゲーム・オブ・スローンズ」という物語の中で、気になる登場人物がいます。
名前はシオン・グレイジョイ。
見たことがない人のために、どういう人か説明すると、
シオンの父親が王国に対して反乱を起こし負けたため、十歳のときから八年、敵だったスターク家で人質として育っています。
人質と言っても、スターク家の人は心優しいので、実子と分け隔てなく家族同然に育てられました。
スターク家の長男のロブとは親友同士。北の王となったロブに忠誠を誓います。そして、ロブに協力してくれるよう頼むために、八年ぶりに実家のグレイジョイ家に戻ります。
ところが、実家のグレイジョイ家に戻ったとたん、速攻でロブを裏切ります。
「この隙にスターク家を攻めるぞ」と父親に言われ止めようとするも、「心までスターク家に売り渡したか」と罵られると、むしろ率先してスターク家の城を襲います。
しかし部下からは認められずバカにされ、荒くれ男たちを顎で使いこなす姉との差を見せつけられます。
スターク家の騎士に「恩知らず」と罵られれば顔見知りにも関わらず殺し、ロブの幼い弟であるブランとリコンが逃げると二人の死体を城壁に見せしめに吊るします。(実は別の子供なのだが。)
なかなかの最低っぷりです。
極度の女好きで、娼婦や行きづりの女性との性行為シーンがしょっちゅう出てきます。
姉のヤーラと再会したときは実の姉だと気づかず、下心満載でおっぱいを触ったら、あとでそのことをめちゃくちゃネタにされバカにされます。
書いていて思いましたが……びっくりするくらい、いいところがない。
確かに劣等感の塊で、居丈高なイヤな奴なんだけれど、それにしても会う人会う人からコケにされ、バカにされ、罵られています。
登場人物で、誰かシオンのことを好きな人いるのかな???
と思うと誰もいない。
ここまで「物語的に」ひどい扱いの登場人物もそうそういないと思います。
原作ではもう少し、その心情をフォローされたりして、いい扱いを受けているのかと思って読んだのですが、ドラマに輪をかけてひどい奴でした。
ドラマでは少しはスターク家に義理を感じているのかな?
実の父親を慕っていたのかな?
と感じられるのだけれど、原作だと完全に自分のことしか考えていません。
確かにイヤな奴なんだけれども、シオンの環境はすごく複雑で苦しいものだし、その苦しさがうまく言葉に表せないものなのが気の毒だな、と見ていて思います。
「自分が何者かわからない」悲惨さ
シオンの悲惨さというのは、「自分が所属すべき場所がわからない」言葉を変えれば、「アイデンティティが定まっていない」点にあると思います。
戻りたい実父や実家には、受け入れてもらえない
「実家であるグレイジョイ家から出され、人質としてスターク家で8年過ごした」
父親であるベイロンをはじめグレイジョイ家の人間は、心の中でシオンを見捨てています。「自分こそ跡継ぎだ」というシオンに、非常に冷たい態度をとります。
父ベイロンは、シオンと再会した時に、「スターク家の人間なのか、グレイジョイ家の人間なのかはっきりしろ」「兄たちがスターク家に殺されたことを、忘れたのか」というキツい言葉を投げかけます。
これはおかしな話で、
そもそもお前が反乱に失敗したから、シオンはスターク家に人質に行かなきゃならなかったし、他の子供たちも死んだんだろ。ぜんぶ、お前のせいやんけ。
と、見ている人の多くが思うと思います。
ベイロンも、本当はそんなことは分かっていると思います。
その事実を直視できないために、自分の問題を全てシオンに押し付け、しかも「自分が反乱に負けて、息子たちを殺した相手に屈服させられている」という事実を思い出させる存在であるシオンを、疎んじているんですよね。
見ていてシオンが気の毒で仕方がありません。
お前、自分の弱さを他人のせいにしてんじゃねーよ。
シオン、それくらい言ってやれ!!と思うのですが、シオンは言えません。(少しは言いますが。)
「父親に息子と認めてもらうこと」
シオンはこの方法でアイデンティティを確立させることを、強く望んでいるからです。
シオンはベイロンにとって、「自分がスターク家に屈した事実の生きた証拠」になってしまっているので、受け入れることが困難です。
でも、シオンはベイロンに、受け入れてもらおうと必死に頑張る。
この負のループが、見ていて本当に辛いです。
「憎むべき敵」を憎めない
シオンの立場がさらにややこしいのは、ネッドをはじめスターク家の人々が、シオンに対して優しく公平だった点です。
スターク家の人々がシオンに冷たく、人質として虐げていて、シオンがスターク家の人々を心の底から憎んでいれば、まだしも父親と「スターク憎し」でつながれる可能性がありました。
しかしシオンはスターク家を憎んではいません。だから、父親の気持ちがまったくわかりません。
父親にとって何が気に障るか分からず、ベイロンがシオンに対して「お前は心まで、スタークに売り渡したんだろう」と攻撃できる絶好の理由を与え続けてしまっています。
いくらシオンが否定しても、ベイロンは「シオンがスターク家に心まで売り渡している」ほうが自分の罪悪感が刺激されなくて都合がいいのです。
「グレイジョイ家の人間であれば、スターク家を問答無用で滅ぼすほど憎んでいるはずだ」
自分のプライドを守るためだけに作り上げた「グレイジョイ家であるための基準」を、正当なものだと信じきってシオンに押し付けます。
こういう構図は見ていて、本当にイヤな気持ちになります。
シーズン2の最後でシオンがメイスター・ルーウィンに述懐した
「オレは、オレ以外の者になろうとしすぎた」
これが、シオンのすべてだったと思います。
なんて悲しい言葉なんだろう、と思います。
「スターク家を憎み子供まで殺戮する、グレイジョイ家の跡継ぎ」に無理になろうとせず、「ネッド・スタークこそ真の父だった」と感じた自分の気持ちを信じて、ロブの親友兼臣下でいればこんなことにはならなかったと思います。
シーズン3以降に、もっとすさまじい「名前を奪われリーク化することによるアイデンティティの殺害」が待っていることを思うと、どれほど性格が悪かろうと、シオンが気の毒で仕方がありません。
自分の過去も尊厳も全て破壊され、自分という存在の象徴である名前を奪われ、屈辱的な名前を与えられる。
人間にとって、これほど悲惨なことはありません。
シオンは、悪党と言うよりは、ただ普通に弱くて普通に狡猾で、普通に自己中で普通にイヤな奴なだけです。
調子こいて悪いことをしますが、「えっ? オレ、本当にやっちゃうの?」というためらいのようなものが常に見えかくれします。
「拷問大好き」「人を虐げることが大好き」なラムジーのような、根っからの残虐な悪党というわけではないのです。
ラムジーに虐待されるサンサのために泣いているシオンを見ると、「何もここまでひどい目に合わなくてもいいのでは」と同情の念を禁じえません。
現代にも、シオンのようにリーク化している人がたくさんいる
ラムジーに尊厳を滅茶苦茶に傷つけられることによって起こった「リーク化」は、シオンの決断次第では避けられたと思います。
でも、真の意味でシオンがシオン・グレイジョイになるためには、
「オレ以外のものにならない」ようにするためには、
誰かに認められることによって「グレイジョイ家の公子シオン」になるよりも、自分自身でシオン・グレイジョイの人生を生きると決めることが大切なのだと思います。
誰かに押し付けられた自分像を演じようと頑張ろうとする限りは、メタファー的な意味での「シオンではないもの=リーク化」は避けられないと思います。
シオンのように「周りから押し付けられた自分像、自分ではない自分になろうとしている」人は、今の時代にもたくさんいると思います。
ラムジーのように悪意からではなく、愛情や善意の名の下に、「シオン・グレイジョイ」の名前を理不尽に奪い、リークの名前を与えるような行為を、現代でも頻繁に見かけます。
「自分ではない自分像」を押し付けてくる人の呪縛を断ち切り、誰もが自分が選んだ自分の人生を生きる自分になって欲しいな、と思います。
今後、シオンがリークの呪縛を断ち切り、自分の名前を取り戻せるのかどうか、見守りたいと思います。
そんな悲しいシオンの運命が見守れる「ゲーム・オブ・スローンズ」と「氷と炎の歌」はコチラ。
老若男女、貴族、平民、奴隷、どんな立場の人にもそれぞれ地獄があり、苛酷で恐ろしい世界で悲惨な運命を、必死に生きている素晴らしい物語です。
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