*この記事には、人によっては気持ちが悪いと感じるかもしれない画像を載せています。苦手なかたはご注意ください。
「進化とは何か?」という説明がわかりやすい。
人類が地球の資源を食いつぶし滅んだあとの地球は、どんな生物が生きるどんな世界になっているのか?ということを描いた「アフターマン」を読んだ。
自分はクトゥルフ神話の神性などに代表される、少し気持ちの悪い外見の生き物の絵が好きなので、表紙の生物の気味の悪さに惹かれて興味本位で購入した。
自分の想像の枠外のエキセントリックな外見の生物を楽しめるだろう、くらいの気持ちだった。
だが想像に反して、まず「生物の進化とは何か」ということから始まる。
学校の授業のように眠たい講義かと思いきや、この部分が意外と面白い。
生物の進化は「安定」「定向進化」「多様化」に分かれる。
また別の分類では進化は「平行進化」と「収斂進化」がある。
平たく言うと「平行進化」は同じ祖先から分化して独自の系統を辿った進化であり、「収斂進化」は祖先はまったく異なるし、進化の系統もまったく違うのに、いつの間にか似たような形態になっている進化。(例:サメとイルカなど)
「収斂進化」を見ると、生物の進化が環境に適合するために合理的なものであるかが分かる。
新しい食物と新しい生活空間を持つ新しい環境に適合することが最大の目標である進化には、決まった目標もなければ、定められた道もない。
とにかく、環境に合理的に適合すること。それを第一に、生態は変化する。
また食物連鎖の中で、ある一種が絶滅すると、すぐにその地位を占める生物が出てくる。
象という種が滅亡すれば、象のような食生活をする種が出現して、すぐに食物連鎖のバランスが保たれるようになる。
「自然は空白を嫌う」
自然ってよくできているなあ、と関心する。
「進化」というものがどういうときにどういう形で現れるかということが書かれており、この説明に基づいて5000万年後の生物を考えますよ、と説明される。
生物の知識は高校一年生のときの「ヘンデルの法則」(*末尾に追記あり)で止まっている自分にも、すんなりと理解することができたし、面白かった。
学校の授業もこういう感じなら、生物を好きになれたかもなあと思う。
本書に出てくる生物たちも絵だけを見ると「どうしてこうなった??」というものが多いけれど、「進化の法則」を前提に、細かい説明を読むと「ああなるほどな」と思う。
どれほど奇怪な外見に見えても、そう進化するだけの理由があるというところが面白い。
5000万年後の生物たち
樹木上に住むリス、チリット
(引用元:「アフターマン 人類滅亡後の地球を支配する動物世界」ドゥーガル・ディクソン ダイヤモンド社)
一見、かわいいリスだけれど、よく見ると胴体が異常に長いチリット。
温帯気候の地域で生息しているため穴居生活をする必要がなくなった。ずっと樹木上で生活するために、木の実がとりやすいように、胴が異常に長くなって可動域が大幅に上がっている。
砂漠を這いずるデザート・シャーク
(引用元:「アフターマン 人類滅亡後の地球を支配する動物世界」ドゥーガル・ディクソン ダイヤモンド社)
砂漠に住むデザート・シャーク。
日中は砂の中にもぐって生活しており、砂の上を這いずるようにて移動する。高温の地域に住んでいるので、毛がない。
小さい赤ちゃんがまったく可愛くない。動物園にいても、不人気そうだ。
樹木上の凶暴な肉食生物キッファとストライガー
(引用元:「アフターマン 人類滅亡後の地球を支配する動物世界」ドゥーガル・ディクソン ダイヤモンド社)
熱帯林の樹木上で生活をしているキッファ(上)とストライガー(下)。
樹木上の移動に都合がいいように、前脚だけが異常に発達している。両方とも肉食だが、キッファはわざとストライガーに追わせて罠にかけ、殺して肉を食べるらしい。恐ろしや。
蝙蝠の島の王者ナイト・ストーカー
(引用元:「アフターマン 人類滅亡後の地球を支配する動物世界」ドゥーガル・ディクソン ダイヤモンド社)
表紙にも採用されている、衝撃的な生物ナイト・ストーカー。
祖先は蝙蝠なので、感覚器の中で目は退化している。
なかなか気持ち悪い角度から突き出している前脚は、翼が変形したらしい。どうしてこうなった。
ナイト・ストーカーが闊歩するのは、バタヴィア列島という島。
大陸から離れた島というのは、鳥類が一番始めに辿りつき、独自の進化をするパターンが多いが、バタヴィア列島には鳥ではなく蝙蝠が辿りつき、様々な進化を遂げた。
大型の肉食生物が辿りついていない段階で、蝙蝠の一部がその地位を占めるために進化したのがナイト・ストーカー。
「夜になると甲高い金切り声をあげながら森の中を歩き回り、哺乳類であろうと爬虫類であろうと、みさかいなく恐ろしい歯とかぎ爪で襲い、餌食にする」
このバタヴィア列島の生物は、水棲生物も含めてほとんどが蝙蝠を祖先としている、いわば蝙蝠の島。
蝙蝠という一種類の祖先から、環境によってこんなにも多種多様な生物になるんだ、ということは面白いが、絶対に行きたくない。
「生物」の授業が好きになれるかも。
一見、ただ過激さや衝撃だけを売りにしたトンデモ本かと思いきや、割と真面目な本だった。
それだけに「不気味の谷」効果で、ちょっと気持ち悪いなと感じる部分もあるけれど、自然の叡智は人間の感覚や想像力を遥かに上回る。
学生時代、生物が苦手で余り興味が持てなかった人にこそおススメの一冊だ。
追記:「メンデルの法則」でした、すみません(恥)へンデルって誰だ。
- 作者: ドゥーガル・ディクソン,今泉吉典
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姉妹書も購入して、読んでいる最中。
- 作者: ドゥーガル・ディクソン,ジョン・アダムス,松井孝典,土屋晶子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2004/01/08
- メディア: 単行本
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検索したら出てきた。これも面白そう。
おまけ:人間の進化を描いた「マンアフターマン」もある。
こちらは廃刊になっているらしい。
「アフターマン」とは違い、遺伝子操作などSFよりな内容のようだ。
ネットで画像を見てみた。ちょっとグロいし人によっては不愉快になるかもしれない。
- 作者: ドゥーガルディクソン,Dougal Dixon,城田安幸
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- 発売日: 1993/12
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読んでみたいけれど、値段が20,000円以上と高騰している…。高い。