「ロードス島戦記」はラノベじゃない?
先日、これを見てびっくりした。
「ロードス島戦記」ってラノベじゃなかったのか???( ゚Д゚)
少し前に、ある記事に「古いけど、ロードス島戦記はラノベの中でも、色々な人に薦めやすい」とブコメしたばかりだったのでタイムリーすぎた、というのもある。
一応、ざっくり読んだところだと
「ストーリーが骨太だから」
「擬音で1ページ埋まったりしないから」
「(中高生向きがラノベだから)ラノベとは言えない」
「ハイファンタジーだからラノベじゃない」
「レーベルはラノベだけど、ラノベじゃない」
「感覚的にラノベと認めたくない」
枝分かれした話題として、「スレイヤーズ」「フォーチュンクエスト」「銀河英雄伝説(田中芳樹全般)」「グインサーガ」「風の大陸」「吸血鬼ハンターD」冴木忍の作品などがラノベかどうか、解釈が分かれるところのようだ。
自分は上記に挙げたものは(田中芳樹は大人向けのものも書いているけれど、たぶん「アルスラーン戦記」「創竜伝」辺りを指していると仮定して)ぜんぶラノベだと思っていた。
「ライトノベル」の基準を考えてみた。
元記事でも言われているけれど、そもそも「ライトノベル」というジャンルの定義ははっきりしていない。
調べてみると
ライトノベルの定義に関してはさまざまな考え方があり、業界内でも明確な基準は確立されていない。
(引用元:Wikipedia 太字は引用者)
ニコニコ大百科だと「明確に定義付けされていない」と断りつつ、以下の条件を上げている。
ライトノベルは中高生や若年層向けに軽妙な文体でズトーリーが描かれており、通常の小説と比べ挿絵が随所に入り、値段も500~600円程度と比較的手頃な文庫本形式であり、表紙がアニメ絵の美少女など特徴的なものが多い。
(引用元:ニコニコ大百科)
ピクシブ百科事典では下記の条件を上げている。
1.ライトノベル専門のレーベル発刊。電撃文庫、角川スニーカー文庫、ファミ通文庫など。
2.表紙、挿絵がアニメ調であること。
(引用元:ピクシブ百科事典)
「定義が明確ではない」という前提はおいて、他の条件を見てみると、
①対象が中高生など若年層向け
②軽妙な文体とストーリー
③挿絵の多さ、または挿絵がアニメ調である。
④値段、形式などを含め、レーベル。
元記事の意見を見ても、この辺りで識別している人が多いのかな、という印象だ。
ピクシブ百科事典によると、2ちゃんねるのラノベ板では「あなたがライトノベルと思うものがライトノベルです。ただし、他人の賛同を得られるとは限りません。」と語られているらしい。これが一番の正解かもしれない。
むかし「銀河英雄伝説はラノベか」という話題を見たが、あれも2ちゃんねるのラノベ板だったと思う。
上記4つの条件だと、「銀河英雄伝説」は③と④はあてはまらない。自分は①と②は当てはまると思うけれど(だからラノベだと思うのだけれど)、これも当てはまらないという人はいそうな気はする。
「スレイヤーズ」はぜんぶ当てはまるし、あれこそライトノベルの王道だと思っていたけれど、「ラノベとは思わない」という人がいてびっくりした。
「ハーレム状態じゃないとラノベとは言わない」という意見があったけれど、ハーレム状態のラノベを読んだことがない…。
今のラノベって、ハーレムものが多いのか? 異世界転生ものが多いというのは、風の便りに聞いたけれど。コバルトやホワイトハートだとどうなるのだろう? 逆ハーレムもの?
この辺りの世代間や性別の差もあるので、「明確な定義はないけれど、何となくこうじゃないか」という基準さえ噛み合わない。
ちなみに「ハイ・ファンタジーだから、ラノベじゃない」となると、「スレイヤーズ」も「フォーチュンクエスト」も「精霊ルビス伝説」もラノベじゃなくなる。
ハイ・ファンタジー:異世界(現実とは別の世界)を設定し、そこで展開する物語。
ロー・ファンタジー:現実世界を舞台にし、そこに魔法や妖精など異質な存在(ファンタジー的な要素)が介入してくる物語。
(Wikipediaより引用 太字引用者)
自分がライトノベルだと思っていたものは、「ハイ・ファンタジー」が非常に多い。
「ハイ・ファンタジー」はファンタジーというジャンルの細分化であって、「ライトノベルか否か」という分類分けにはまったく関係ないと思うけれど、この辺りは発言した人が「ハイ・ファンタジー」の定義を違う風にとらえていたのかもしれない。
4つの条件で「ロードス島戦記」を考えてみる。
仮に上記四つの条件①対象年齢層 ②文体とストーリー ③挿絵 ④レーベルで考えると「ロードス島戦記」はどうなのだろう。
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調べたら、新装版が出ていた。パーンが少し格好良くなっている。自分の中では坊ちゃんカットのイメージが強い。
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こっち。懐かしい。
まずは①対象年齢だけれど、これは④のレーベルとかぶる部分があるので一緒に考える。角川スニーカー文庫というレーベルが「少年向け」の「ライトノベル系文庫レーベル」というコンセプトで創刊されている。
「ロードス島戦記」は元々は角川文庫で出版されたけれど、スニーカー文庫創設と同時に移ったので、読者の感覚はともかく、出版社側としては「十代の少年向けの小説」と考えていたのではないかと思う。
②ストーリーと文体だけれど、十分、大人の読み物としても通じるものだと思う。「感覚的にライトノベルと認めたくない」という意見は、ここらあたりから出ているんじゃないかと思う。世界設定もしっかりしているし、「灰色の魔女」と言われるカーラの存在の概念とか、ウッド・チャックがなぜ自らカーラになったのかとか、善悪の概念だけでは割り切れない複雑な人間の心理も描いている。十代半ばだと、完全には飲み込みづらい部分も多い。
③の挿絵。イラストレーターは出渕裕で、アニメ調ではないと思うけれどアニメ化はしている。挿絵の量も多い。
以上の点から自分の考えを述べると、①③④の条件はライトノベルに当てはまる。意見が分かれるのは②だと思うけれど、白黒分かれる完全な子供向けではないけれど、「大人向け」かと言われれば、厳しい部分が多いと思う。この辺りは「銀河英雄伝説」にも感じる。
「対象年齢としては、十代半ばから十代後半あたりを設定しているが、大人でも十分楽しめる」というところが妥当ではないかと思う。
ライトノベルの定義が世代でも変わっている。
元記事を読んで一番思ったのが、「ライトノベルか否かを判断する基準が、世代でも大きくずれている」ということだ。
自分が子供のころ感じていたライトノベルの定義は、「大人(社会人)が読まないもの」だった。「大人が読むもの」と「子供の読むもの」ははっきり分かれていた。
自分の親世代は「漫画・アニメ(ゲームも)」というものをまったく見ない世代だった。「漫画である」「アニメである」というだけで、「子供向けのもの」とはっきりしていた。(もちろん、少数の例外はあるけれど。)親が漫画を読んでいるところも、アニメを見ているところも、ゲームをしているところも見たことがない。
友達には漫画を読むのを禁止されていた子もいたし、「漫画ばかり読んで」というフレーズはおなじみのものだった。
今は子供と一緒に「ワンピース」を読むだの、子供が寝てから「ゼルダの伝説」をやっているという話もよく聞く。「君の名は。」だって、たくさんの大人が観に行った。
「漫画やアニメ、ゲームは子供向け」どころか、「大人向けの漫画やアニメ、ゲーム」が出ているのが現状だ。
大人も漫画やアニメやゲームを楽しむし、自分も漫画もアニメもゲームも大好きだ。
ライトノベルもそうだとすると、自分の子供のころは明確だった「対象年齢層」という条件が見えにくくなっているのかもしれない。
そうすると他の条件である②文体やストーリー ③挿絵くらいしか見分けるものがなくなる。
この二つの条件は、読み手の一人一人が主観で判断することになるので、ライトノベルという存在が出てきたときよりも、さらに定義しづらくなっているのが現状なのかなと思った。
ジャンル分けがなぜ必要なのか。
読み手にとっては「それがライトノベルか否か」なんて、どうでもいいと思う。
ライトノベルでも面白いものは面白いし、純文学だろうとつまらないものはつまらない。媒体やジャンルが何であれ、面白ければ読むし、つまらなければ読まない。それだけだと思う。
漫画でもアニメでもライトノベルでも優れたものはたくさんある。内容も見られずに媒体だけで「下らないもの」と決めつけられない、いい時代になったなと思う。
「漫画を読むなんて、今の大人は昔の大人に比べて子供っぽい」のではなく、「今の漫画は大人が読むほどに、ジャンルとして成熟したのだ」と自分は思う。
ジャンルを成熟させるには、まずはそのジャンルとは何なのかということを意識しなければならないと思う。
この辺りは「バクマン。」で女性読者を獲得するために、女性のニーズにばかり応えると「少年漫画」ではなくなるのではないか、という話があった。「少年漫画」はあくまで「少年」を対象にしている漫画だからだ。
少年を対象にしている少年漫画を、女性が楽しむのはもちろん構わない。
ただ女性のニーズに応える女性をターゲットにした漫画にしてしまうと、それは「少年漫画」ではなくなってしまう。
読者にとっては「自分がライトノベルと思うものがライトノベルだ」でいいと思うのだけれど、ジャンルとして成熟させるという側面から考えると、「ライトノベル」というのはこういうものだ、ということを考えることは大事じゃないかな、と個人的には思う。
「対象をどこに設定しているか」というジャンル分けの違いなので、「ライトノベルというのは子供向けだから、小説としては劣ったもの」とは自分は思わない。それは「少年漫画は子供向けだから、漫画の中では劣ったもの」というのと同じことだ。
「ワンピース」や「進撃の巨人」が「少年漫画」という枠組みの中で描かれていても、大人からも支持を集めているように、ライトノベルもライトノベルという枠組みの中で書かれていても、それが優れたものならば、大人も含むたくさんの支持を集めると思っている。
自分は「銀河英雄伝説」がその成功例だと思っているので、「ラノベか否か」で意見が分かれたり、「ライトノベルとはそもそも何なのか」という定義がはっきりしないのは、こういう時残念だなと思う。
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ライトノベルだと思うもの。ライトノベルかどうか迷うもの。
冒頭にあげられた「スレイヤーズ」「フォーチュンクエスト」「銀河英雄伝説(田中芳樹全般)」「グインサーガ」「風の大陸」「吸血鬼ハンターD」冴木忍の作品、この辺りは自分にとってはぜんぶライトノベルだった。
「グインサーガ」は、普通小説かなという気はするけれど。「風の大陸」は感覚的に入れたくない、という気持ちはわかる。
「銀河英雄伝説」についてはいくつか記事を書いた。
中学生のときに読んで夢中になって、十代後半くらいで「結局はこれは、形を変えた勧善懲悪じゃないのか」と思って「子供向けの読み物」と思うようになった。
しかし、大人になってから読んだらとても面白かった。しかも子供のときに読んだときには感じなかった面白さも感じたし、例えばロイエンタールのようにかなり見方が変わったキャラもいる。
そういうものと一緒に成長してきたので、子供も夢中になれ、大人になってからも再読して別の発見ができるような、そんなライトノベルがこれからも出てきてほしいと思っている。
今のライトノベルの傾向は余り知らないのだけれど、どうなんだろう??
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途中まで読んだんだけれど、35巻まで出ているは知らなかった( ゚Д゚)