読んでみたら、意外と面白かった。
正直なことを言うと、読む前は余り期待していなかった。
ノウハウ本によくある、核心的なことは書かずに精神論や価値観の主張に終始している本じゃないかと思ったからだ。
仮に細かいノウハウが書かれていたとしても、本書が出版されたのは三年以上前だ。
三年前の情報では、ネットの世界ではその知識や技術は恐らくほとんど役に立たないと思う。動画投稿は、特に変化が激しそうな世界だし。
とりあえず「実際に動画収入で生活できる人は、どんなことを考えてどんな風に活動しているのかな」ということが何となく分かればいいかな、という気持ちで読み始めた。
だが意外にも、読みだすとかなり面白かった。
本書で書かれているのは、どうすれば受ける動画投稿ができるかという技術的な話でもなく、YouTuberという生き方がいかに革新的で素晴らしいかという価値観でもない。
「自分たちが何を目的として、そのためにはどうすればいいのか」という目的に至るための試行錯誤の道筋や方法論が書かれている。
本書では著者を含めて何人かのYouTuberが出てくるが、彼らはタイトルにある「YouTubeで食べていくこと」を目的としているのではない。
そういう意味では、タイトルに語弊がある。
「自分の目的を達成するための方法として、YouTubeを用いている」に過ぎない。
YouTube、動画投稿というのはただのツールに過ぎず、「目的を達するためにどういう思考を経て、どう考えて今のやり方を選んだのか」という普遍的なことが書かれている。
アイディアや仕組みを考え出す過程が楽しい本。
例えば著者は「動画は90秒程度が最適ではないか」と考えて作成している。
この時の状況と現在の動画投稿の世界の状況は恐らく変わっているので、「今も90秒が最適な長さなのかどうか」ということは分からない。
そういう事実関係やテクニックのようなものが知りたい人には、この本は大して役に立たないと思う。著者が言っているように、自分で考えた理屈でその90秒を導きださなければそれはただの模倣に過ぎず、模倣で食べていけるほど甘い世界ではないだろう。
「なぜ、著者が90秒が最適な長さだと思ったか?」ということも書いてあるのだが、そういう他人のアイディアや思考過程、仕組みの構築を読むのが好き、という人は、YouTubeにまったく興味がなくてもたぶん楽しい。
また他人の考え方に触れることによって、自分のアイディアが触発されることもあると思うので、何かやりたいけれどイマイチはっきりした形にならない、という人も試しに読んでみてもいいかもしれない。
タイトルから想像することとは逆に「とにかく動画投稿で食べていきたいから、やり方を教えてくれ」という人には、期待はずれの本ではないかと思った。
それほどはっきりは書いていないのだけれど、恐らくそういう「誰かが何かをしてくれるのを待っている人」には、YouTuberのような生き方は向いていない、と考えているんじゃないかと思う。趣味で楽しむならばいいんだろうけれど。
実際にこの本で取り上げられているYouTuberたちは常に試行錯誤を続け、とてもアグレッシブで、そして目的のためならばなりふり構わない。
読んでいてその姿は、「単純にお金や時間のためならば、普通に働いたほうが楽じゃないか」と思わせる。それ以上に何か得たいものがあるからここまでやるのだろうし、ここまでやるから求めるものが得られるのだろう。
これからの時代は動画だと思う……けれど。
これからの時代は、ブログのような長文の文字サイトは、個人メディアとしてはどんどん廃れていくだろうなと思う。
動画のほうが分かりやすいし、情報量、刺激量も多い。子供や外国の人にも伝わりやすいから、視聴者層も広がる。
ただ自分にとっては「情報量や刺激量の少なさ、分かりにくさ」が、動画よりもテキストのほうが「逆に優れているところ」だ。またもうひとつの好きな点は、情報を受け取るスピードを、受け手が細かく調節できるところだ。
映画やテレビよりも本が好きなのも、この部分に依るところが大きい。
自分の調節できないスピードで情報が流れてくると、「その情報を自分なりに理解したい」という思いが強ければ強いほどイライラしてしまう。だからよほど興味があるものでない限り、動画も見ない。
なのでこれからもっと動画が盛んになっても、たぶん細々と文字を書き綴っていると思う。
ただこれからの時代は動画のほうが受け入れられやすいし、多くの人に情報を受け取ってもらえるのは間違いないと思う。また大多数の人にとっては、情報伝達手段としてならば文章よりも動画のほうが楽しいし、親切だとも思う。
これからの時代は動画投稿も今よりもっと手軽にできるようになっていき、個人メディアもどんどん動画や映像に切り替わっていく、今はその過程なんだろうな。
そう考えて、ちょっと寂しい気持ちになった。