ユングのタイプ論を取り入れたMBTIについては、前にも記事を書いた。それを用いて銀河英雄伝説のキャラクター考察をやってみた。自分は専門家ではないので、あくまで個人の遊びだ。
タイプ論をはじめ、ユングの考えかたの入門書としてとても分かりやすくおススメ。
分類表についてはコチラを参照。
*2018年8月に少し考えなおしました。(参考図書は下記)
- 作者: ロジャーペアマン,サラアルブリットン,Roger R. Pearman,Sarah C. Albritton,園田由紀
- 出版社/メーカー: 金子書房
- 発売日: 2002/07
- メディア: 単行本
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基本構造は、NJリーダーとそれを支える優秀なSJの物語
銀河英雄伝説は、基本的にはNJのリーダーが持つヴィジョンを優秀なSJたちが実現化し、管理運営するという物語だ。
現実の社会の枠組みがそうだけれど、フィクションでしかもエンターテイメント系で現実の世界のような構造の話は珍しい。
たいていのエンターテイメント系の物語は、真ん中でEP系が好き勝手に暴れたり、IF系が理想と現実の狭間で葛藤していたり、その反対側でNT系が悪事をめぐらせていることが多い。
SJたちの天下のような世界観は、珍しい気がする。
ラインハルトとヤン
ラインハルトはENTJ。
キルヒアイスが死んでから、感情機能も少しは働くようになってきた。もう少し年をとったらさらに丸くなったかもしれない。
ヤンはINFJ。自分の側にいるユリアンやイゼルローン組には強い影響を与えるが、それが外部までには波及しないし、本人も望んでいない。
ヤンがE系になっていたら、銀英伝の歴史は変わっていた。
というよりはE系になったヤンが、ハイネセンだと思う。INFJだからこそヤンという気もする。
ENTJのラインハルト、INFJのヤンは、どちらも優秀なSJの部下を持っている。SJ系がいないと、システムは動かないし、どこかで崩壊する。
典型的なESTJミッターマイヤー
ミッターマイヤーはESTJの鑑のようなキャラだ。
システムの枠組みの中で自分のなすべきこと、やるべきことをきっちり把握し、実行して生きている。部下や仲間を大事にし、親を尊敬していて、側にいて気心が知れた人と順調に恋愛をして花束を贈ってプロポーズする。その家族観、恋愛観、仕事観はびっくりするくらい保守的だ。秩序の崩壊に激怒して、弱い者を守って独房送りになる。
典型的すぎて、少し怖いくらいだ。
自分はETJ系だと信じているINFPロイエンタール
ロイエンタールは一見すると、ミッターマイヤーと同じESTJに見える。本人はENTJでありたいと思っている。
周りも本人もETJ系だと信じているロイエンタールだが、実はINFPではないかと思っている。あそこまで母親にこだわっているところを見ても、反乱を起こした動機が理屈ではなく、意地や生き方であることを見ても、自分の美学にこだわる内向感情型だ。
ロイエンタールというキャラの矛盾と訳の分からなさ、面白さはここにある。
「ETJ系が有利な銀英伝の世界観に、無理に合わせて生きている人」
自分の中でのロイエンタールは、そんなイメージだ。
鉄血のオルフェンズのマクギリスが、ロイエンタールと同じタイプだ。
この二人にとっては、ETJ系が第一に使う外向思考力、論理性や規律性、周囲に対する影響力が強さに見える。だから無理に自分もそうなろうと思って(もしくは自分もそうだと信じこんで)破綻した。
大人しく見えて、内面に激しく強い価値観を持つ内向感情型は、どの世界でも生きづらい。特に田中作品の世界では、IFP系が持つ繊細さがまったく評価されないので、生きていくのが大変だと思う。
「タイタニア」のイドリスはISFPだと思う。本人はうまく立ち回っているつもりで、まったく立ち回れていない感じが見ていて気の毒だ。「無理するなよ…」と言いたくなる。
ロイエンタールがINFPだとすると、親友のミッターマイヤーと真逆になる。
内向感情が劣等機能であるミッターマイヤーは、ロイエンタールがなぜ反乱を起こしたか?ということをまったく理解していないロイエンタールの内面に、本当の意味では興味がない。(投降をすすめるミッターマイヤーとロイエンタールの会話が、まったく噛み合っていなくて怖く感じるのは自分だけだろうか…)
この距離感が、ロイエンタールにはちょうどいいのだと思う。このタイプは繊細すぎて「触れるな、危険」なタイプだ。
ちなみにこの距離感を間違えたパターンが、「鉄血のオルフェンズ」のマクギリスとガエリオの関係だ。
【ネタバレあり】「鉄血のオルフェンズ」オルガはなぜ火星の王になれなかったか?など、物語内の人間関係について。
距離感を間違えると殺されそうになったり、反逆を起こされたりする。
恐ろしいほどの繊細さだ。
人間に興味津々なINTJオーベルシュタイン
オーベルシュタインはINTJ。ラインハルトにすべてをかけたり、どんな手を使ってでもゴールデンバウム王朝を倒そうとしたり、未来指向が半端ない。
オーベルシュタインは、意外にも他人にかなり興味を持っている。
キルヒアイスに「卿は丸腰の相手は撃てない。そういう男だ」と言ったり、ロイエンタールの討伐に「自分が行く」と言ったミッターマイヤーの心中を洞察したりしている。
銀英伝の登場人物は人間の内面に興味がない人が多いので、オーベルシュタインのようなキャラは実は珍しい。
そういうところを見ても、抽象的な会話大好き、分析大好きなNT系だ。
INTJは内向直観を主機能として使い、思春期の頃に第二機能である外向思考と第三機能の内向感情の狭間で揺れ動くらしいけれど、一見感情がないロボットのように見えながら、ゴールデンバウム王朝を滅ぼすほどの憎悪を持つオーベルシュタインはまさにこのタイプだ。
同盟軍・女性陣
キャゼルヌが典型的なESTJ
同盟軍ではキャゼルヌが典型的なESTJ。
ESTJは「自分の言いなりになる人に囲まれていることを好む」と言われるが、これはどちらかというと「自分の認識や理解の範囲内に収まる物事や人に囲まれることを好む」だと思う。
ミッターマイヤーとキャゼルヌは、日本の高度成長期を支えた典型的な勤め人の像と重なる。
入社した会社で堅実に誠実に仕事をして、順調に出世する。親を敬愛し、自分の側にいるよく知っている人と恋愛をして結婚して、その家庭を守って生きていく。
組織を支え、仲間を守り、部下には優しく時には厳しく接する。自分が所属する組織をぶち壊す行動は間違ってもとらない。(ゴールデンバウム王朝や自由惑星同盟は、組織がすでに壊れかかっているので、これを壊すことがむしろ国の秩序につながる。ただそれでも、自分では壊さない)
ビュコックとメルカッツもESTJ。この二人は年齢的な要素も大きいかもしれない。
N系は厨二病と重なる部分がある。一歩間違うと現実無視の怪電波発生装置になってしまう。
ムライはISTJかな。
ISFJが多い女性陣
フレデリカはISFJだと思う。
個人的な好みになるが、銀英伝の女性キャラは面白い人が少ない。男性に従う保守的な女性が多い。
この点「タイタニア」の女性キャラは善玉も悪玉も面白い人ばかりなので、ちょっと残念だ。
ベーネミュンデ夫人がかなりがんばっているけれど、テリーザ夫人の災厄じみた横暴さやテオドーラの手段を選ばない冷徹なエゴイズムに比べるとかわいくみえる。テオドーラと戦ったら、利用されたあげく、人差し指でつぶされそうだ…。
ベーネミュンデ夫人のエピソードは、結局男社会の秩序に従って従順に守られている女性のほうがいいという文脈に読めてしまい、余り好きではない。
ベーネミュンデ夫人はISFJだと思う。
ESFPくらい吹っ切って「あんなじじい、どうでもええわ」と影で遊びまくれば面白かったのに。体制を否定できない、ぶち壊せないJの悲しさが出ている。
アンネローゼはISFPだ。
一見穏やかで自己主張をしないように見えて、自分の価値観を脅されると暴発するタイプ。
ラインハルトとは真逆なので、この二人はまったく分かり合えない……ということにごく最近気づいた。
「アンネローゼというキャラの面白さに今さら気づいた」&銀河英雄伝説プチ物語論
キルヒアイスはISFJなので、ENTJのラインハルトと相性がいい。
ヒルダは「人の感情はこういうもんだ」とラインハルトに意見を行ったり、キュンメル男爵に対する対応を見てもENFJかな。旧貴族への対応やヤンの性格を利用するところはENTJっぽいので微妙だが。
ヒルダは面白いキャラだと思うけれど、成長したラインハルトの女性バージョンみたいな感じなので、キャラがかぶっているのがもったいない。
エンターテイメントに必須のSP系が、銀英伝には少ない
ここまでほとんど出てこないSP系。
銀英伝はSP系が少ない。収拾がつかなくなるので、余り多くても困るんだけど。
同盟ではシェーンコップがESTPで、ポプランがESFP。
ポプランはヤンが死んだ後、一人だけ荒れ狂ったところを見てもF系だと思う。ポプランは軍隊でやっていけているのが不思議なくらいだ。(何で入ったんだろう??)
イワン・コーネフはISTP。
田中作品で、ISTPはかなり珍しい。考えてみたけれど、他に思いつかない。フィッシャー、シュタインメッツ辺りがそうかな?という気もするけれど、エピソードが余りないので何とも言えない。
元々銀英伝内の人口分布がE系、J系に偏っているのもある。
ちなみにESTPは銀英伝の中では少ないけれど、他の作品ではギーヴやクバート、ファン・ヒューリックなどけっこういる。
帝国軍はビッテンフェルトがESTPかな。
ギーヴやビッテンフェルトはF系に見えるけれど、心の奥底のクールさというか、他人に興味がない感じはT系だと思う。
J系世界(田中作品)の最凶の悪夢ENTP
前に「トリューニヒトは、銀英伝のドラマツルギーに則ると倒せない悪役」という言葉を読んで、深くうなずいた覚えがある。
銀英伝の世界だと、トリューニヒトは正攻法では倒せない悪夢のようなキャラクターだ。銀英伝の世界で最も尊ばれている、民主主義が生み出した怪物だからだ。
トリューニヒトを倒すことは民主主義の否定につながるので、民主主義という思想を信じ、テロを否定するヤンにはできない。トリューニヒトが民主主義という思想を食いつぶすのを、むざむざ見ていなければならない……どころか、トリューニヒトの号令で戦わざるえない。
ヤンが最後まで悩まされるこのアンビバレンツが、銀英伝の面白さのひとつだ。
J系にとって自分が作り上げたり、守っている体系をぶち壊すEP系は厄介だ。
それでもFP系はまだ、「理屈じゃないから」と割り切れる。ESTPは瞬間的な楽しさを最も尊ぶので、意外と対立軸は生まれない。
その場その場だけは論理的に喋れるENTPは悪夢の四倍返しのような存在だ。
ラインハルトが「自分が見捨てた国の統治なんて、まさか引き受けないだろう」と考えた役職をトリューニヒトが引き受けたのを聞いて呆然としたように、P系の自由さと思考の柔軟さはJ系の想像を絶する。
ラインハルトの統治下でもトリューニヒトは生き残る。
ラインハルトもヤンも、J系にはENTPトリューニヒトは倒せないのだ。
結局は理屈ではなく、実はFP系だったロイエンタールの感情的暴発と嫌悪で問答無用で殺すしかなかった、という点にそれがよく表れている。
とにかく自分の中の一貫したものに沿おうとすると、ENTPに翻弄されまくる。
「嫌いだから殺す」みたいなのが一番有効な対処法になる。
もしくは同じENTPと千日手をしてもらって、持久戦に持ち込むとか。
銀英伝の中でトリューニヒト以外でENTPなのは、アッテンボローだ。
アッテンボローがトリューニヒトのやることなすことにケチをつけまくって停滞させる、というのもある意味倒したことになるかもしれない。
そしてENTPは実はそうやって終わらない論争をしているときが一番楽しいんじゃないかな、と思う。
「タイタニア」のアジュマーンもENTPだと思う。
「マヴァール年代記」の主人公カルマ―ンの父親・ボクダーン二世もENTPっぽい。これまた問答無用で殺すしかなかった。
J系が規律正しく、一貫性をもって生きる田中作品の世界では、ENTPが常に得体のしれない怪物扱いなのが面白い。
まとめ
帝国軍
ラインハルト:ENTJ
キルヒアイス:ISFJ
アンネローゼ:ISFP
ヒルダ:ENFJ
ミッターマイヤー:ESTJ
ロイエンタール:INFP
オーベルシュタイン:INTJ
ビッテンフェルト:ESTP
同盟軍
ヤン:INFJ
フレデリカ:ISFJ
キャゼルヌ:ESTJ
アッテンボロー:ENTP
シェーンコップ:ESTP
ポプラン:ESFP
イワン・コーネフ:ISTP
ムライ:ISTJ
ビュコック:ESTJ
メルカッツ:ESTJ
トリューニヒト:ENTP
銀英伝は国家規模の話をマクロ視点で見ていることが多いので、EJ系のキャラが多い。
これが例えば「鉄血のオルフェンズ」のように、ミクロ視点が中心だと人口分布が変わってくると思う。
理想を持つNJ系リーダーを、優秀なSJ陣が支える。
という世界観に何とか適合しようとするIF系、そんなJ系が目指す理想の世界を引っ掻き回す悪夢のトリックスターENTP。その辺で好き勝手に遊ぶESP系。
こうやって考えると、その作品の傾向が見えてきてとても面白い。
思いついたら、他の作品でもやってみたい。
余談:「タイタニア」について
最終的に悪夢のトリックスターENTPを倒す構造は一緒なんだけれど、反タイタニア陣営のファン・ヒューリックがESTPなので、対立構造が二転三転するのが面白い。
ファン・ヒューリックはP系なので、ヤンやラインハルトほどこだわりがない。現状を正確に把握して、その場その場で判断をしていく。
自分が持たない(興味がない)大局的なビジョンは、ドクター・リー(INTJ)から補給している。
ドクター・リーの「タイタニアの滅亡の過程が見たい(どんな形でも、とにかく滅べばいい)」という指向が、反タイタニア陣営の行動原理になっている。
タイタニア陣営はリディアがENFJ。彼女が世の中を治めるのが一番、民衆にとっては幸せな気がする。
漫画は道原かつみ派。
完結してよかった…。
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