このまとめに彗星の如く突然出てきた、映画「タイタニック」の話が面白かった。
「タイタニック」におけるローズとジャックの恋愛は「発情」に過ぎず、あんなものが「純愛」だなんてギャグか? と言ったら周りの女性陣に総スカンを喰らったとか、「キャルドンが良い人の方がタイタニックがロマンチックになる説」など、興味深く読んだ。
「タイタニック」でローズがイケ好かない男と結婚するのが嫌でジャックとくっ付くのの何が「純愛」なのか?あんなの「発情」。それが証拠に死んだと分かったらアッサリ、ジャックの亡骸を海に捨てて「私、生きるわ」ってギャグか?と言って女子の総すかんを食った思い出。
ローズとジャックの恋愛は「純愛」だと思わないけれど、「発情」だけだとも思わない。
「タイタニック」におけるローズの恋愛は、日常からの逸脱願望、冒険願望を表した物語だと思っている。
それはいいとしても、「素敵な男性が突然自分に一目惚れして、それまでの人生から連れ出してくれる(誰かが変身させてくれる)」という描写の仕方、しかも「今いる環境がクソだから仕方ない」というエクスキューズが配備されている、という徹頭徹尾受け身な描かれ方なのは残念に感じていた。
見ている人が「それは逃げ出したくなるよな」と賛同してくれそうな日常がお膳立てされていて、自分を愛してくれるいい男が両手を広げて待っていてくれて、あとはそこに飛び込むか否かだけというのは、相当萎える。
この点はまとめ内の意見と同じく「婚約者も普通のいい人で、普通の幸せが約束されているのに、それを蹴ってでも」というほうがよかった、と自分も思う。
「タイタニック」における恋愛描写がいいなあと思うのは、「『純愛』を胸に封じ込めて悲しみを抱えながら、それでも愛する人がくれた人生を精一杯生きる私。それがあの人の望んだことだから」という発想は、実はローズがかなり確信犯的に抱いていた願望ではないか、とも思えるところだ。
ローズの話が真実とは限らない、という解釈の余地を残している。演出的にローズの話が事実とも想像ともとれるところがいい。
残っているのは絵と宝石だけで、それだけではローズの話が全て真実だという証拠にはならない。
ジャックは乗船する前に賭けに勝って乗船切符を手に入れたから、名前が乗船名簿には載っていなかった、という設定も、実はローズの妄想を支えるための脳内設定かもしれない。
ジャックが実在していたとしても、ローズの話が事実ではないかもしれない。ローズが確信犯的に脳内で拡大解釈している、とも考えられる。
「都合のいい妄想乙」と言いたいわけではなく、「タイタニック」の中の恋愛描写は、そういう曖昧なものを信じる強さを描いていると考えたい。
「都合のいい妄想」と他人から言われようと、自分の中の大切なものの強度を高めて、人生を強かに生き抜く。
人はみんなそういうものを持っていて、その強度を支えにして生きているんじゃないかと思うし、それが人の強さじゃないかとも思う。
現実とごっちゃにして現実の相手に干渉するようになったら迷惑だけれど、ローズの場合は過去の思い出、記憶だ。
ローズとジャックの恋愛がローズの話通りだったとしても、そのあとこの二人が一緒に生きていくのは難しい気がする。
ただの想像だけれど、ローズもそれが心のどこかで分かっていたのではと思う。でもキャルと結婚して変わらない毎日を過ごすのも嫌で、その二つの気持ちの落としどころが「ジャックとの一瞬の純愛」だったのではと思う。
それをローズの身勝手さや狡さと見ている人が解釈できる余地を残したところが、この恋愛の好きなところだ。
最後は長いこと(少なくともジャックよりは)連れ添った夫でも家族でもなく、「純愛相手ジャック」の下にみんなから祝福されながら帰っていくのか、おいおい。と突っ込みたくなる。「ジャックに愛されて、生かされた私」という他人から見たら筋違いで身勝手かもしれない想像を、でも自分にとっては大切なものとして信じて生き抜いた強さがいいなあと思うのだ。
個人的にはそういう話だと思っている。
余談
「タイタニック」について話をしていたとき、友達が「救命ボートに乗り込んだローズをジャックが寂しそうに見送るシーンがすごく好き」と言っていた。
自分はそのシーンをまったく覚えていなかったので、驚いた覚えがある。ローズとジャックの恋愛自体まったく感情移入できなかったので、上の空で見ていたのだろう。
後から見たら、確かにいいシーンだった。このときのディカプリオは美青年ぶりが凄いけれど、その中でもとりわけ美しいシーンだった。
同じものを見ていても注目するところがまったく違う。こういうことがあるから、人の感想を聞くのは面白い。
自分が映画を見ている間中気になったのは、もし自分がこの映画の中にいたらどの辺で死んだだろう、ということだ。根っからのモブ気質なので、ついそういう目線で見てしまう。
キャルのボディガードの徹底したクソっぷりというか、冷酷さがかなり好きだった。人間としてのクソさ、というよりは、職業的冷酷さみたいな感じで、この人はプライベートではどんな感じなんだろうと気になった。
後はマードック航海士関連のエピソードが好きだ。最後の最後でキャルに金を叩き返したり、守るべき乗員を撃ってしまい、自責の念から自殺してしまうところも。極限状態だと人間は自分でも思いもよらない面が出てくるよなあと思う。
ただこれに関しては、遺族から「事実ではない」と抗議があり映画会社が正式に謝罪したとそうだ。知らなかった。
実在の人物にはその人の名誉があるし、それはもちろん大切にしなくてはいけない。フィクションの中で描くのは難しい面があるかもしれない。
やっぱり名作。