うさるの厨二病な読書日記

生涯中二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好きも嫌いも全力で語るブログ。

「杉田水脈氏を支持する人」や「ルカクをコンゴ系ベルギー人と呼ぶ人」は、自分の中にもいるのかもしれない。

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 「LGBTには生産性がない」という言葉が批判されている、杉田水脈氏の主張を全文読んだ。主張の是非以前に論旨が混乱していて、何が言いたいのかよく分からなかった。

本人は「切り取って批判するな」と言っているようだが、読んでも主旨が分からないので枝葉しか取り上げようがないのではないか、と思う。

全体としては、「LGBTには生産性がない」の言葉から想像したよりも、ずっととんでもないことを書いている、というのが感想だ。

こういった認識の人、内容以前にこんな支離滅裂な主張の仕方しかできない人間が国会議員である、という事実に暗い気持ちになる。

あくまで自分の個人的な意見に過ぎないので、気になる人は全文を読まれることをお薦めする。

 

彼女の主張以上に、こういう主張を積極的に支持する人、そして積極的に支持しないまでも容認する人がいることに怖さを感じる。そしてその数が自民党の支持層の中で少なくないからこそ、自民党も杉田氏の発言を問題視しなかったのだろう。

にわかには信じがたいことだが、そういうことなのだろう。

そのことについては、この記事で頷く部分が多かった。

杉田水脈氏と民意の絶望的な関係:日経ビジネスオンライン

 

もうひとつ、ワールドカップでも活躍したベルギー代表のルカクが自分の生い立ちを綴った記事も読んだ。

【ルカクが語る壮絶な過去】「ずっと言いたかったことがある」

彼のルーツはコンゴにあるが、生まれも育ちもベルギーだ。

にも関わらず、試合で活躍すると「ベルギー人のルカク」と呼ばれ、活躍できないと「コンゴ系ベルギー人のルカク」と呼ばれると書いている。

記事全般を通して貫かれている、自分のルーツに対する不当な扱い、差別意識、貧困などに対する怒りの強さに圧倒される。これほどのやり場のない怒りを、成功と成長へのエネルギーに変えられた強さをただただ尊敬する。

 

杉田氏の件にせよ、ルカクの件にせよ、自分は差別する人間に強い憤りを感じる。

だが一方で杉田氏の主張に対して声高に賛成しないまでも認める人間について考えるとき、ある小説のワンシーンを思い出す。

というより、「差別」について考えるとき、自分はたいていこのシーンをいつも思い出す。 

「どうしてこんなことになったか教えてやろう。みんなニガー*1のせいさ」

私は何も言わなかった。

「それとラテン野郎。黒人と中南米人」

私は黒人とプエルトリコ人の警官について弁護するようなことを言った。彼はその話題に即座に乗ってきた。

「まあ、黙って聞けよ。おれのパートナーはラリー・ヘインズっていうんだが(略)

こいつがいい野郎なんだよ。命をかけていいくらい信用できるやつなんだよ。いや実際おれは命をかけてそいつを信用している。石炭みたいに真っ黒な奴なんだが、警察の中でも外でもおれは彼みたいないい奴に会ったことがない。

でも、おれがいま言っていることとそのことはなんの関係もないことさ(略)

あんたは地下鉄に乗るかい?(略)

たまに地下鉄に乗って周りを見回した時、どんなふうに思うかってことなんだよ。おれはまるでろくでもない外国に来たかのような気分になる」

「なぜ?」

「周りにいるのは全員黒人か中南米人だからさ。さもなきゃ東洋人か(略)でも、そんなことは何かの一部だ」

「何の?」

「くそっ、こんなことを言うと阿呆みたいに、頑固爺みたいに聞こえるかもしれないが、言わないわけにはいかないね。ここは昔は白人の市だったよ。それが今じゃ、おれだけがただひとりの白人みたいに思わなきゃならない時がある」

(引用元:「八百万の死にざま」 ローレンス・ブロック/田口俊樹訳 早川書房) 

 

 少しだけこの文章の背景を説明する。

「八百万の死にざま」は、主人公のマット・スカダーが自分の依頼主であるコールガールを惨殺した犯人を捜す物語だ。

この会話の話し手であるジョー・ダーキンは、 その事件の担当刑事であり、二十年近くニューヨーク市警に勤めている。

スカダ―の依頼主であるコールガールのキムは、全裸のまま全身を八十か所近く滅多刺しにされ、文字通り切り刻まれた姿で発見される。

しかしそんな悲惨な死に方ですら、ニューヨークでは日常茶飯事になっている。ダーキンとスカダ―はソーシャルワーカーが呼び出されて輪姦されたあげくに突き落とされて殺された事件や、地下鉄で煙草を吸わないように注意しただけでいきなり撃ち殺された警官の話で盛り上がる。

ニューヨークは普通の市民のための死刑制度がある町で、田舎から出てきたコールガールの死など八百万の死にざまのひとつに過ぎない、とダーキンは言う。

 

一体なぜこんな町になってしまったのか、というときにダーキンが口にしたのがこのセリフだ。

後にコールガールのキムを殺したのは、コロンビア人であることが判明する。キムの恋人がコロンビア人の組織を裏切っており、その制裁としてキムも殺されたのだ。

 

自分はこの物語を初めて読んだとき、話の本筋以上にこのシーンに強い印象を受けた。

その時学生だった自分は、「当然、差別は良くないもの、許してはいけないもの」と思っていた。

だがこのとき自分が想像していた「差別」とは、まったく違う「差別」が「八百万の死にざま」の中にあった。

自分が想像していた差別は、特定の属性に対してあからさまにヘイトを投げつけるもの、その属性という理由だけで相手を忌避するもの、排除するもの、不当な扱いをするもの、「この属性はこうだ」と決めつけるものだった。

だから自分が「差別をするかもしれない人間」だとは、夢にも思っていなかった。

だがもし、ダーキンのように、自分がいま住んでいる場所に他の属性の人が大勢移り住んできて、治安や環境がどんどん悪くなっていったら、そして元から住んでいたはずの自分たちがどんどん住みづらくなっていったら、自分は果たしてその原因をその属性の人たちに求めないだろうか。

その人たちさえ来なければ、と思わないだろうか。

 

自分の権利が不当に奪われているような気持ちになって、その人たちを攻撃しないだろうか。もしくはその人たちを攻撃している人を見て、「それも仕方ない」と思わないだろうか。

 

その情景や状況をまざまざと想像してそう問われると、はっきりと「そんなことは思わない」と言い切れる自信がなかった。

 

ダーキンのように「命をかけても信頼できる奴。警察の内でも外でもあんないい奴は見たことがない」という感覚と「自分がたった一人の白人のような気持ちになる」のは、何ら矛盾なく心の中に並び立つものなのだ。

ルカクに対して「ベルギー人」「コンゴ系ベルギー人」と使い分けている人の根底にあるのは、ダーキンが同僚に対して抱いているものと同じ種類の感情なのではないか。

杉田氏は新潮の記事の中で、こう述べている。

しかし、LGBTだからと言って、実際そんなに差別されているものでしょうか。もし自分の男友達がゲイだったり、女友達がレズビアンだったりしても、私自身は気にせず付き合えます。職場でも仕事さえできれば問題ありません。多くの人にとっても同じではないでしょうか。

「自分は友人や同僚が性的マイノリティでも気にしない」ということを根拠にして、性的マイノリティの人が差別されているとは思わないし、自分は差別はしていないと主張している。

ダーキンと同じだ。 

ダーキンも自分が「差別している」という意識はほとんどないと思う。むしろ「黒人の相棒をこんなに信頼している自分を、実際にそういう付き合いがない人間が咎めるなんて」と思うかもしれない。

彼女の主張を黙認している人の中にも、「これは価値観の差であって差別ではない」と考えている人もいるだろう。実際に自民党の二階幹事長がそういう声明を発表している。

その感情は「差別」とは認識しづらく、だからこそ誰もが持ちうるものなのかもしれない。

そして認識しづらいからこそ、「言動に出さなければ、思うこと自体は自由」という抑制も効きづらいのかもしれない。

「八百万の死にざま」を読んで初めて、日本の片隅に住んでいてそれほど多種多様の属性の人と触れ合ったことのない自分が道徳の教科書から想像する差別とはまったく違う「差別」こそが問題なのではないか、と知った。

 

もし本気で「差別と向き合おう」と思うのならば、最終的に向き合わなければならないのは杉田氏のような人物ではなく、自分自身の中にあるダーキンのような部分なのかもしれない。そしてコチラを友達と認める一方で、自分が属する属性を無意識に攻撃するダーキンのような人物かもしれない。

「八百万の死にざま」のあのシーンは、いつもそういうことを自分に思い出させる。

 ということを抜きにしても、とても優れたハードボイルド小説なので未読のかたはぜひ。ダーキンはそういう部分も含めて、血の通った魅力的な人物として描かれている。

 

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ぜひ、合わせてお読みください。

 

*1:内容に必要なため引用