うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

「ブラック・エンジェルズ」の男女観は、当時としては革新的だったのかもしれない。

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少し前に、少年漫画に出てくるステレオタイプな女性キャラについての話題を読んだ。

創作においては、ある程度はキャラの造形が現実とはかけ離れた、画一的な部分があっても仕方がないのではと思っている。少女漫画における男性キャラについてもそうだ。

キャラというのは、極端に言えばその創作物の部品に過ぎないので、現実の価値観で良し悪しを語るというのは余り好きではない。

 

ということを前提として、確かに少年漫画で「この女性キャラは魅力がないなあ」と思うことはあるし、「性差の価値観が残念だな」と思うことも多い。

かなり前の漫画なので仕方がないのだが、「北斗の拳」は漫画としては大好きだが、女性キャラの描き方や扱いは残念だ。

レイがマミヤの服を破いて、「女は戦う必要はない」「女は自分の幸せだけ考えていればいいんだ」というシーンは何度読んでもげんなりする。

レイの言葉に対するマミヤの返答が「女を捨てた」というところも残念だ。そこは「女も戦っていい」という価値観を主張して欲しかった。

 

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(引用元:「北斗の拳」2卷 武論尊/原哲夫 集英社)

戦おうが戦わまいが、女は捨てなくていいんですよ、マミヤさん。

 

「北斗の拳」と同じころ連載されていた「銀牙」も、「雌犬であるクロスは『男』として認められている」という描写がある。ここでも戦うためには「女ではなく男でなくてはならない」という価値観だ。

そう考えると、当たり前のように「戦う女性」が少年漫画に出てくる現代は、このころとはだいぶ価値観が変わったんだなと思う。

「進撃の巨人」のように、肉体的な強さが主人公よりも幼なじみの女子のほうが強いという漫画や、「ハンター×ハンター」のように師匠が女性という漫画も出てきている。

 

現実の世界では暴力自体が法律に触れるので、男女関係なくそもそも暴力も戦闘も認められない。

ただ創作の世界での戦いは、特に超常能力がある設定では「女性である」ということは戦いにおいてハンディになりえないのではないかと思う。

にも拘わらず、少年漫画において、男性キャラが全力を出して挑み倒すべき強力な女性キャラというのはそれほど多くはない。

もうひとつ言うと、少年漫画において善悪の対立軸で「特に同情すべき事情も、共感できる背景もない悪役女性キャラ」というのは、それほど思いつかない。

道徳的にも能力的にも、主人公が全力を尽くして挑み、憎み、倒すべき巨大な力を持つ女性キャラがいない、というのが割と不満だった。

 

「敵とはいえ女とは戦いたくない」という余裕もないくらい(「駒に性別はないのでご心配なく」)極悪で強力な女性キャラが少年漫画でなかなか見当たらないのは、なぜなのだろう? 善悪や戦いに「女だから」とか関係なくないか?と思っていた。

物理的な力の差がある現実に即した世界ならまだしも、魔法などの超常能力がある世界の場合は、「女性は戦いに向かない」という価値観がどこから出てきたのだろう? という疑問もある。

ここにあげた「北斗の拳」も「銀牙」も大好きな漫画なので、「古い性差の価値観を引きずっている」と批判して、否定したいわけではない。そういう点も含めて「北斗の拳」は「北斗の拳」であり、「銀牙」は「銀牙」だからだ。

ただ個人的にその辺りを残念には思っていた。

 

という中で、出てきたのが「マギ」だ。

「マギ」の悪役である玉艶の顔面を、白龍が顏が歪むくらい全力でぶん殴るシーンを見たとき、ついにここまできたかとある種の感動を覚えた。

少年漫画で、全力で戦い、全力で挑み、全力で憎み、全力で顔面に拳を叩き込む巨大な女性悪役が出てきた。

 

と思っていた。

が、ちょっと待てよ…??

「北斗の拳」や「銀牙」と同じころ連載していた「ブラック・エンジェルズ」では、「特に同情すべき理由のない、全力で倒すべき極悪非道で強力な女性悪役」が出ていた。

「サトリ」の能力を持ち、実質、「竜牙会編」のラスボスだった卑弥呼。弟たちを手下として操り、極悪非道な所業を重ねていた牙たちの宿敵・妖姫。

この二人は「女だから戦いたくない」などと誰も思わず、雪藤も牙も全力で戦っていた。

また「ホワイト・エンジェルズ編」ではかつて恋人同士だった、風剣と魔導沙が戦うが、恋人同士だったころの思い出を引きずる風剣に対して、魔導沙はそんな風剣の思いを利用さえする。

竜牙会の幹部である玲子は、彼女のほうから「武器を持たない女を殺すの?」と言うが、隠し持っていた銃で雪藤を撃とうとしたとたん殺される。

「女だから」と自己申告しても容赦されない。

 

ヒロインであるジュディの扱いが「エロくて主人公の足を引っ張るヒロイン(何度もさらわれたり、服を破られたりする)」なので今までイメージがなかったが、当時の少年漫画にしては意外と革新的な女性観だったのかもしれない。

「ブラック・エンジェルズ」では男である松田も裸にむかれている。(服を奪うにしても、下着まではとらないよな)

 

もうひとつ言うと少年漫画なのでそれほどは描写されないが、「ブラック・エンジェルズ」の恋愛観は「気持ちがフラフラしがちな女性を、男性が文句も言わずに一途に見守る」というもので、少なくとも味方側の男性陣は女性の意思をかなり尊重している。

 

少年漫画の女性像に違和感がある人で読んだことがない人は、モノは試しで読んでみるといいかもしれない。

まあジュディの扱いはひどいと思うけどね。

暴力描写が多いので苦手な人はご注意を。

 

「マギ」はヒロインのモルジアナが強いところもいい。