ダークソウルⅢの薪の王の一人「神喰らいのエルドリッチ」についての考察。
ゲーム中のテキストを基にして考えているが、情報が少ないので相当推察も入っていることをご了承ください。
*2019年11月14日に「ダークソウル」の世界の考え方をまとめて、考え直しました。
- 人間が語る「おぞましいエルドリッチ」像
- 「エルドリッチの真実」は、意図的に隠されたのではないか。
- 沈黙の騎士ホレイスについて
- エルドリッチ=グウィンドリン説
- 法王サリヴァーンについて
- ここまでの話を踏まえたエルドリッチ周辺の話、まとめ
人間が語る「おぞましいエルドリッチ」像
登場人物の中で、エルドリッチについて語るのはホークウッドとアンリの二人だ。
「例えばエルドリッチさ」
「聖職者だった奴は、反吐が出るような人喰いを繰り返し、溺れた豚のように膨れ、蕩けた汚泥となり、深みの聖堂に幽閉された」
「そしてエルドリッチは王となった。人品など関係ない。ただその力ゆえに」
(脱走者ホークウッド)
「私たちは聖堂を、あのおぞましいエルドリッチの故郷を目指しています」
「私たちはあの後、深みの聖堂に向かいましたが、エルドリッチの棺は空でした。あの人喰らいは、本当の故郷を目指したのです。空の棺に残された小さな人形が、私に教えてくれました。エルドリッチの本当の故郷は、冷たい谷のイルシール。とても古い、幻の都…」
(アストラのアンリ)
この二人の話を総合すると、
エルドリッチは元々、冷たい谷のイルシール出身の聖職者だった。しかし何等かの理由で人喰いを繰り返したため、深みの聖堂の棺の中に幽閉された。アンリは火のない灰として、エルドリッチを倒し、玉座に戻すために旅をしている。
ということが分かる。アンリは「私にも使命があります。火のない灰として、王の探索者として。いえ、それよりもただあの子たちのために、一人でも向かうべき使命が」と言っているので、もしかしたら子供を食べていたのかもしれない。
この時点で、以下の疑問点がわく。
①エルドリッチはなぜ人喰いをするようになったのか。
②誰がエルドリッチを幽閉したのか。
③「神喰らい」ではなく「人喰らい」と呼んでいるのは、神を喰らったこと自体は人間には伝わっていないのか。
これらの疑問を考えていきたい。
「エルドリッチの真実」は、意図的に隠されたのではないか。
まずは、なぜエルドリッチは人喰いをするようになったのか?
ホークウッドの言葉からは、狂気に陥って人喰いを始めたエルドリッチを、周りの人たちが聖堂に閉じ込めた、という風に読める。
ホークウッドとアンリがエルドリッチを「神喰らい」ではなく「人喰らい」と呼んでいるように、人間には分からないことや伝わっていないこともある。
この辺りは小説と同じで、アイテムの説明文などいわゆる「地の文」のほうが信頼性が高い情報になっているのではないか、と考えている。
「彼は陰った火の先に深海の時代を見た。故に、それが遥か長い苦行と知ってなお、神を喰い始めたのだ」(エルドリッチのソウル)
「エルドリッチの神喰らいを待ち続ける神喰らいの守り手たちが、その使命を果たした証」(人の澱み/太字は引用者)
「深みの聖堂のホーリーシンボル。火の先に深海の時代を見る者たちの証」(神喰らいの守り手の誓約)
深みの聖堂関連のアイテムや誓約の説明文をそのまま考えると、「深みの聖堂の者たちは深海の時代を求めており、エルドリッチはそのために人喰らい神喰らいを始めた」と考えられる。
しかしそれだとホークウッドを始め人間たちに伝わっている「人喰らいを始めたエルドリッチを深みの聖堂に幽閉した(エルドリッチの人喰らいを止めようとした)」という物語が、何のために必要だったのかが分からない。(意図的に広めたのではなく、自然に物語が変質した、とも考えられるが)
また「神喰らいが遥か長い苦行」という文言からも、神喰らいをエルドリッチは必ずしも喜んでやったのではないのではないか、と推測できる。深海の時代を招き寄せるためならば、自分が神喰らいをして薪の王の資格を得ないほうが、火を継ぐ者がいなくなり、ちょうどいいのではないかとも思える。
そう考えるとアイテムの説明文は、逆にも読める。
エルドリッチは深海の時代がくることを防ぐために「薪の王の力」を得ることを望み、人喰らいや神喰らいを始めたのではないか。
アンリやホークウッドなど人間たちは、自分たちが伝え聞いたことから「おぞましい」だの「膨れた豚」だの「人品は関係ない」という見方をしている。
確かに「人喰い」自体はおぞましく、ましてや子供を喰っていたとすると最悪な行為だ。だがそれも火を絶やさないために周りから望まれて、もしかしたら強いられてやっていたのだとしたら、エルドリッチに対する見方がだいぶ変わる。
というのもアイテム欄の説明と、登場人物たちのセリフとでは、エルドリッチの印象が大きく異なるからだ。
「イルシールの法王サリヴァーンは旧王家の主神を廃聖堂に幽閉し、ついには神喰らいに供したという」(法王サリヴァーンのソウル)
「守り手はエルドリッチの神喰らいを邪魔されぬよう、廃聖堂に近づくものがあったとき、誓約霊としてそれを狩る使命がある」(神喰らいの守り手)
エルドリッチが幽閉されていたのではなく、エルドリッチに差し出すだめに旧王家の主神がサリヴァーンによって幽閉されていた。そしてエルドリッチが誰にも邪魔されず神喰らいが出来るように、大主教マグダネルを頂点とする「神喰らいの誓約者」たちが聖堂を守っていた。
「神喰らい」は深みの聖堂の人間たち全員がグルになって行っていたことであり、エルドリッチ一人がおかしくなってやっていたことではない。もしかしたらエルドリッチはその能力に目をつけられて、「神喰らい、人喰らいをして薪の王の力を得てくれ」と聖堂の人間たちに圧力をかけられたのかもしれない。
エルドリッチに「人喰らい」をさせることは、サリヴァーンが「薪の王」の側近、法王になるために主導したのではと思う。
「遥か昔、イルシールのはずれ、その地下に罪の都と消えぬ火を見出したとき、若き魔術師サリヴァーンの心に消えぬ野心が灯ったのだろう」(罪の大剣)
「罪の大剣」は「罪の都に縁のもの」という意味の他に、サリヴァーン自身の罪も表しているのではと考える。
しかし自分たちの保身や野心のために、自分たちの仲間に「人喰らい、神喰らいを押し付けた」ということは、外に漏れてはならない秘密だった。だから表向きは「エルドリッチがおかしくなって人喰らいを始めたために幽閉した」という話を広めたのだと思う。
「聖堂はおぞましいものの寝床であり、故に彼らには、大きな物語が必要だった。おぞみと共に深くあり、狂わぬほどの物語が」(深みの指輪)
「深みの聖堂」では「狂わないために別の物語が必要」ということは書かれている。
エルドリッチの人喰らいの物語も、そのうちのひとつだったのかもしれない。
ホークウッドがいう「溺れた豚のように膨れ、蕩けた汚泥となり、深みの聖堂に幽閉された」というのは、エルドリッチよりもむしろ地下深くの澱んだ水の中にいた「神喰らいの守り手」の誓約者マグダネルを彷彿させる。マグダネルとエルドリッチの物語がどこかで混同された、とも考えることができる。
沈黙の騎士ホレイスについて
「エルドリッチの遺児」という情報しかない、ホレイスも謎が多い人物だ。ホレイスについては、
①なぜアンリを殺害し、主人公にも襲い掛かってきたのか?
②そもそもの目的は何だったのか?
③主人公がホレイスを殺さないルート(アンリ殺害ルート)では、彼はどこへ行ったのか?
と色々と謎が多い。
ゲームの行動だけを見ると、ホレイスはアンリと同じように「エルドリッチを倒す」という目的を持っていたわけではない。アンリ殺害ルートのあと、エルドリッチの下に行ったのであれば、彼の装備品が残っているはずだからだ。
ただそもそもアンリを殺すつもりだった、というのも協力するふりをする必要性を感じない。
アンリとはぐれてから事情が変わった、というのが妥当な考え方の気がする。
ホレイスの背景として、彼が「青の守護者の誓約」を持っているということがあげられる。
「神々の不敬を罰する暗月の剣を起源とする。『暗月の光の力』はすなわち復讐。色あせた羊皮紙に暗月と剣の印が記されている。青の守護者は古い約定を引き継いでおり」(青の守護者の誓約)
「『青の守護者』の由来でもある。暗月の剣は、古く青教との約定を結んでおり、青教の誓約者が闇霊の侵入に苦しむとき、暗月の剣として助け、闇霊を狩る使命がある」(暗月の剣の誓約)
「青の守護者」と「暗月の剣」は、非常に関係が深い。「暗月の剣」の民間用の名称が「青の守護者」という解釈でもいいと思う。
ホレイスは「暗月の剣」なのだ。
ホレイスがグウィンドリンがエルドリッチに喰われたことを知っていたか、というのはアンリやヨルシカが知らないことを見ても、知らなかった可能性が高いように思う。
アノール・ロンドの異変に気付いて、ヨルシカやグウィンドリンを救おうとしていたのかもしれないし、「暗月の剣」としてエルドリッチに喰われた人間から復讐を引き受けたのかもしれない。
前述したようにその事情が突然変わったと考える。どう変わったのか?
ひとつめの仮説は、「深みの聖堂の真実=エルドリッチは半ば強制的に神喰らいをさせられたこと。薪の王の真実」を知ったのではないか。
自分の親が貶められたこと、薪の王にしようとしていることに怒り、「火のない灰」である主人公やアンリの殺害をくわだてた、という筋だ。
ただ個人的には、もうひとつの仮説のほうを推したい。
エルドリッチ=グウィンドリン説
最初にエルドリッチを見たとき、グウィンドリンに明らかに似ていることが気になった。
ホークウッドが語る「溺れた豚のように膨れ」という姿からは似ても似つかない。(この辺りの違いが、人間たちが語るのは伝聞によって事実が歪められたものにすぎない、ということを表しているように思う)
「他人の空似」「グウィンドリンを喰らったため、能力も外見もコピーした」という説も完全には否定できない。
だがエルドリッチは人喰いをしていたのに、喰われた人たちの外見はコピーしていない、そもそも食べれば能力だけでなく外見も手に入れられる、という話はどこにも見いだせない。
また仮にそうだとしても、エルドリッチ自身の意思がなさそうで、外見も能力もグウィンドリンのものであれば、エルドリッチとグウィンドリンどちらが主体なのか(どちらがどちらを食べたのか)というのはほとんど意味をなさないような気もする。
またグウィンドリンは「男子であるのに女性として育てられた」という元々が二面性がある存在だ。
二人はほとんど同じ存在であるが「神であるグウィンドリンが食べられ(消失し)」「人間であり澱みであるエルドリッチが食べた(残った)」と考えてもいいのではないか。
エルドリッチ=グウィンドリンと考えるには、色々と理由がある。
「ダークソウル」で出てきたプリシラがグウィンドリンの母親だ、と考えると、グウィンドリンを絵画世界で産んだことになる。
「冷たい谷」であり、人形がないと結界を破れないイルシールは、絵画世界と同種の世界だと考えられる。エルドリッチとグウィンドリンは、故郷が同じなのだ。
またエルドリッチと縁が深いホレイスとサリヴァーンは、共に暗月の力を持っている。
ホレイスは前述したように「暗月の剣」であるし、サリヴァーンは「裁きの大剣」の説明で「暗い月よりもなお暗い青色は、魔術師サリヴァーンの本質であったろう」と書かれている。
「生命狩りの鎌」の説明で「遅々とした」と書かれ、「暗月の長弓」の説明には「喰らった」ではなく「喰らいつつあった」と書かれている。一瞬で飲み込んだ、とか貪り食ったというイメージではない。少しずつ浸食したという雰囲気がある。
エルドリッチが物理的にグウィンドリンを喰らうことで、一方でエルドリッチはグウィンドリンに本質を浸食された。そしてエルドリッチ=グウィンドリンになったのではないか。
この二人を分けて考えること自体、意味がなくなったため、ホレイスは暗月の剣として神々への不敬を咎めてアンリを殺害したのでは、というのがこの説だ。
法王サリヴァーンについて
エルドリッチ以上に気になるのが、法王サリヴァーンだ。
サリヴァーンは深みの聖堂の大主教マグダネルやロイスとグルになって、エルドリッチに人喰らいをさせた。そして法王を名乗り、アノール・ロンドを荒らしてグウィンドリンを捕らえてエルドリッチに喰わせた。「罪の大剣」の説明文から、これらの行動の動機は個人的な野心からでは、と受け取れる。
だがサリヴァーンは、同時にエルドリッチに「法王サリヴァーンが惜しむ者に与える小さな人形」を与えている。「小さな人形」の説明文は非常に情緒的で、サリヴァーンがエルドリッチに個人的な情けのようなものをかけていたようにも受け取れる。
またヨルシカを殺さず幽閉し、彼女が慕うグウィンドリンが死んだことを伝えていない。エルドリッチに神喰らいをさせることが目的であれば、彼女も一緒に喰わせてしまってもよさそうなものだ。ヨルシカの扱いひとつを見ても、それほど冷酷な人間ではないのではないかと思える。
サリヴァーンが使うのは、彼が夢見た野心を「罪」とする「罪の大剣」と、彼の本質であるとされる「裁きの大剣」だ。戦いが進むと二人に分裂するところも、サリヴァーンの二面性を表しているように思える。
「罪」である炎のような野心と、そんな自分をも冷静に裁く暗い月のような本質。
そう考えると、サリヴァーンは同郷でありそれなりに親しかったエルドリッチを「人喰らい」「神喰らい」に堕とす快感に酔い、その野心を一瞬のためらいもなく押し進めつつ、そんな自分を皮肉に見ていたのではないか、と思える。本質的には情が深く人間らしい気持ちを持ち、野心的で卑しい自分のことを軽蔑しつつも、どうしてもその野心を抑えきれなかった。
自分の人間的な卑しさを知りつつもそれを押さきれない、そういう二面性のあるキャラが好きなので、サリヴァーンには非常に興味津々だ。
もう少しエピソードを盛って欲しかったが、断片のようなエピソードから色々なことが想像できるのがソウルシリーズのいいところだ。
ここまでの話を踏まえたエルドリッチ周辺の話、まとめ
深みの聖堂の中で、大きな力を持った聖職者のエルドリッチは、火が消えかけることによって深海の時代が近づきつつあることを知る。火を絶やさぬためには、誰かが薪の王になるしかない。
サリヴァーンと深みの聖堂の主教たちは、エルドリッチならば人を喰らうことで能力を得て、薪の王になれるのではと圧力をかける。
エルドリッチは深海の時代を来させぬために、人喰らいを始める。
サリヴァーンはアノール・ロンドを侵略し、グウィンドリンを捕らえ、ヨルシカを幽閉する。エルドリッチにさらなる力を得させるために、グウィンドリンを喰わせる。
エルドリッチはグウィンドリンを喰らうことで彼の能力と外見を得て、グウィンドリンとの意識が不明瞭になり、エルドリッチでありグウィンドリンであるものになる。
サリヴァーンはエルドリッチ=グウィンドリンと誓約を結び、「裁きの大剣」を与えられイルシールの法王となる。
ホレイスは「暗月の剣」としてアンリと共にエルドリッチを倒す旅に出たが、エルドリッチがグウィンドリンでもあることを知る。
神に不敬を働く者としてアンリを殺し、主人公に襲い掛かってくる。
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