うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

PS4「イース8 Lacrimosa of DANA」のストーリーに納得がいかないので、色々と話したい。

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PS4版「イース8 Lacrimosa of DANA」を真エンドでクリアした。

イースVIII -Lacrimosa of DANA- - PS4

イースVIII -Lacrimosa of DANA- - PS4

 

 

任天堂スイッチ版。 

イースVIII -Lacrimosa of DANA- - Switch

イースVIII -Lacrimosa of DANA- - Switch

 

 

クリア時間は50時間を超えるくらいでかなり遊びごたえがあった。

未プレイの人で、

・ストレスなく爽快さを味わえるアクションゲームをやりたい。

・ゲームのストーリーは、好感の持てるキャラたちがそれなりの冒険譚している程度のものでよく、細かいことは気にならない。

 

この二つに当てはまる人は、買って十分に楽しめると思う。

 

ゲーム部分は高評価

「イース8」はゲームとしての評価は、ほぼ満点に近い。

ラスト近くは同じことの繰り返しでちょっとうんざりしたが、ほとんど何のストレスもなく、アクションゲームが苦手な人でも楽しく遊べる。

楽しさと爽快さを最大限追求した作りで、自分がアクションゲームが上手いかのような錯覚に陥れる。

音楽も良かったし、フラッシュムーブやフラッシュガードのようなアクションの仕様もやっていて楽しい。

また歯ごたえのある難易度にしたい人のために、難易度をあげて遊ぶこともできる。

 

ゲームで気になったのは、以下の二点。

ひとつめはアイテムを手に入れる方法が物物交換のため、後半は思うようにアイテムが手に入らなくなる。

料理のための食材など最初は余るほど手に入ったのに、あとのほうは前半のフィールドにわざわざ拾いにいかなくてはならない。

困るというほどでもないが、ちょっと面倒臭かった。物々交換の範囲をもう少し広くしても良かったのでは、と思う。

 

ふたつめは後半のフラグ管理が雑なこと。

「イース8」は事実上、一本道のストーリーだが、前半は一本道とは感じさせない。フラグ管理に工夫がされていて、「人数がそろわないといけない」「強いモンスターを配置していかせない」「道具がないといけない」など、その先にいけない理由が「物語内の様々な事情」として組み込まれているからだ。

ところが後半に行くと「(目指す目的地は)こっちじゃないな」と、よくある強制モードになる。これは「ゲームの事情」をプレイヤーに思い出させる行為で、「決められたストーリーを歩まされている」という感覚が非常に強くなる。

ストーリー自体は一本道でも、「その一本の道を強制されている」という感覚をいかに薄めるか、という点に前半は工夫がこらされていたので、後半、ここが雑になったのは残念だった。

後半に行けば行くほど強制するために使えるものが少なくなるが、であれば無理に管理しなくてもいいのではと思う。

 

このふたつも強いてあげれば程度で、ゲームとしてはほぼ問題なく楽しめた。

 

ストーリーは問題点が多い。 

ただストーリーのほうは、かなりキツかった。

この話はなぜこんなに「ご都合主義の出来レース」に見えてしまうのだろう、と思ったとき、いくつか原因を思いついた。

 

ひとつめは、物語の構成のまずさだ。

ストーリーが、前半の「漂流村の物語」と後半の「ラクリモサの危機」で、分離してしまっている。

前半で積み上げた「漂流村」の生活が、後半では影が薄くなってしまっているので、いくら「ラクリモサはこの地上の危機」と強調されても置いていけぼり感が強く、白けた気持ちになる。

「境遇も性格もバラバラな人間たちが寄り集まり、力を合わせて脱出すること」か「人類の歴史が始まる前から行われている、進化の必然から起こるラクリモサの危機」か、どちらかに焦点を合わせるべきだった。

この二つを並べてしまえば、前者が「ちっぽけで取るに足らないもの」になってしまうのは当たり前だ。

 

この二つをただ並べるのではなく、前半でやってきたことが後半につながるという風にしたつもりなのだろうが、実はこれがそうなっていない。

そうしたいのであれば、前半と後半の目的を一致させるべきだ。

例えば前半からダーナを記憶喪失の少女として登場させて、「彼女の記憶を取り戻すために、島の各所を調べること」と「漂流生活のために、セイレン島を探索すること」が行動の目的として一致するようにする。

もしくは元々アドルがセイレン島やダーナの夢を見ていて、ダーナを探す目的でセイレン島にやってくるなどでもいい。

そこからダーナを知る、記憶が戻る過程でラクリモサに話をつなげていくなど、最初からの目的にするのは、そんなに難しいことではないと思う。ここが切れているため、(前半の目的であった島からの脱出に到達しても、ラクリモサから逃れられないため)ラクリモサやダーナ関連のことが「自分のこと」として感じられない。

 

物語の最終目標(創作者が到達したい結末)を仮に「大目的」と名付けると、「イース8」の大目的は「ラクリモサを止めて人類を救うこと」だ。

物語は基本的には、この大目的に至るまでの因果を描いたものを指す。

なので物語に描かれている事象は、大なり小なり「大目的に関係すること」になる。「その事象は、大目的にとって何の意味があったのか」を説明できなければならない。

「イース8」であれば、「ラクリモサを止めるために、漂流村は(アドルは、ではない。)必要だったのか」ということを、説明できるかということだ。

この疑問に対して、「漂流村がなくとも、アドルさえいればラクリモサは止められる」という答えを証明したのが、後半の漂流村の影の薄さだと思う。

 

物語の開始当初、大目的に見えるもの(仮に小目的と名付ける)は、「セイレン島から脱出すること」だった。この小目的と大目的の方向性が相反する場合(「イース8」であれば島を『脱出すること』と島に『残って』ラクリモサを止めること)、その方向性を変える強力な動機が必要になる。

その動機に「ラクリモサという人外の選ばれた人間にしか関与できないもの(漂流村の人間には関与できないもの)」を持ってきたため、「最初の小目的(脱出)を目指していた漂流村の奮闘が、意味のないもののように感じてしまう」のだ。

身も蓋もない言い方をしてしまえば事実、漂流村の出来事はラクリモサに何の関与もしていないしできない。

 

「主筋にとって、自分達のやってきたことが無意味であること」を描写する物語もある。が、それは変則的な手法だし、多くの場合賛否が分かれる。

そのうえ「輝かしい魂」とやらを持っていない人間には関与できない強大なものの存在という動機で小目的を強制的に放棄させるのは、見ているほうが不快に感じかねないやり方だ。

 

ストーリーラインの「王道さ」とは逆に、「イース8」の物語の構造は、かなり変則的な作りになっている。

「地上に平和に生きる人々のために、ダーナが犠牲になってラクリモサを止める」話を、「ラクリモサという大いなることのためには、漂流村(平凡な人々が努力して日々を生きる姿)など意味がない」という構図で見せてしまっている。

「王道のいい話風」に見えて、実はそれを否定している話なのだ。

「ダーナの犠牲に感動しろ」という物語の結末を、茶番に感じてしまう最も大きな原因がこれだ。

 

ふたつめは「読み手に共感・体感させることをサボりすぎ問題」だ。

「読み手が味わったことがない状況に共感させるために、どのような処置をほどこすか」

例えば「世界の危機」「記憶喪失」「自分以外の自分の同種族が滅亡する」「人類を救うために概念になる」などは、言葉だけで「大変なこと」とわかる。

しかし実際にその状況を経験したことがない読み手は、その状況を想像するしかない。

 

あえて「不誠実な」という強めの言葉を使うが、不誠実な創作は、こういう言葉のみを読み手に投げて「大変な状況」を演出する。しかし読み手はその状況が実感できていないので、いくら言葉で「人類が滅亡する」「ダーナさんは大変な状況なのですね」と言われても、実感も共感もできない。

さらに記憶喪失になってもすぐに戻るし、「ラクリモサを止めることなど不可能」と言われても、普通に戦闘すれば止められるし、「概念になった」と言われても会うことができるので、言葉だけで「大変な犠牲」と言われてもその重みを体感できない。

 

言葉でただ説明するだけではなく、「その重みを体感させる」。

これは他のコンテンツよりも、読み手をプレイヤーとして世界に参加させられるゲームが得意な分野であるはずだ。

ゲーム以外でも「シンゴジラ」や「ドラゴンヘッド」は「死ぬかもしれない」という恐怖を味あわせることに成功している。

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読み手が恐怖を自分自身で体感したとき、「主人公だから死ぬはずがない」などの物語をメタで見る視点は吹き飛ぶ。

この逆が「しょせん物語の都合」という、読み手が終始、物語を外から眺めている状態だ。

 

「イース8」は、プレイヤーを物語内に引き込む努力をほとんど放棄している。

そのうえで「人類の滅亡」「人の死」「自分を犠牲して概念になる」などの、ただ物事を大袈裟にすることで悲劇性を演出している。

よく「人が死ねば、感動の物語になると思っている」という言葉を聞くが、「イース8」は「人類が滅亡すると言えば、壮大な物語になると思っている」

 

変則的な物語構造(表層で描いているものを深層で否定している)、危機や悲劇を言葉のみで表すだけの演出の放棄、これらに加えてキャラクターの平板さも悪い方向に働いている。

「イース8」で一番驚いたのは、キャラクターのほぼ全員が「このキャラはこういう設定で、だいたいこういうことを話すだろう」という予測から一ミリも外れた言動をとらない点だ。

キャラの言動もイベントの内容もテンプレの見本市のようだ。

シルヴィアなど意外性があるキャラもいる、と思いそうだが、「老婦人が最強の剣闘士だった」という意外性はあっても、正体が現れたあとは「元最強の剣闘士」というテンプレから離れた言動はとらない。

そういうキャラクターのテンプレ具合に加えて、備品が全て揃ったキャンプ体験のような漂流生活も、話の出来レース感を高める。

ゲームだから余りうるさいことは言いたくないが、いくらなんでも「漂流した感」を放棄しすぎだろう。

 

「イース8」のストーリーがつまらなく感じるのは、王道のストーリーだからではない。逆だ。

王道のストーリーを描いていると思い込みながらそれを否定するという訳のわからないことをしているうえに、「読み手に物語を体感・共感させる」という部分で手を抜いているからだ。

「ダーナが犠牲になった」というのも、概念になっても実体化できるのであれば、それは犠牲とは言わない。その後、別れて会わないのは全員同じなのだから。

「ダーナが犠牲になったこと」を感動させたいのであれば、アドルが見た夢落ちで「ダーナという存在が実在したのかしなかったのか分からない(これがまさに概念化だろう)」が真エンドのほうが、ダーナが概念になることを選んだ切なさが伝わってくると思う。

「いい話」にするために簡単にくつがえるような設定だから、犠牲だの大変な状況だの言われても共感も感動もできない。

 

まとめると「イース8」のストーリーは「小中学生向けの王道のストーリー」だからつまらなく感じるのではない。そういうストーリーでも、大人が感動できる話はたくさんある。

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「彼方のアストラ」が素晴らしかった部分を、反転してやらかしているのが「イース8」だ。

説得力というのは、言葉だけではその力を持たない。その事象を描いて見せて納得させてこそ、力を持つ。(略)

言葉にすると至極当たり前のことだが、実際にやるのは難しい。(言葉で物事を説明して、読者はまったく納得できないが何故か周りのキャラたちは納得して終わり、という話も多い。)

そしてそういうお互いを仲間だと思いあう彼らに好感や共感を持つと、絵にかいたような大団円でも意外性がなくてつまらない、予定調和をただ見せられただけだなどと思わず、心の底から登場人物たちが幸せになってくれて良かったと思う。

「彼方のアストラ」の感想を書いたときに「こういうことを出来る創作は少なく、一見似ているようで非なるものも多い」と思っていたが、そのときに想定していた「似て非なるもの」が正に「イース8」のような物語だ。

 

「世界が滅亡しそうになって、それを助ける健気な女の子が出てくれば感動するだろう」のような安直な思考で作られ、共感させるための措置を怠っているうえに、そういう発想で作られた設定ですら「いい話になりそう」なら簡単に覆す安易さが、そしてそれが受け入れられると思っているところが、気持ちを冷めさせる。

「こういう話を語りたい」という気持ちや、「そういう話が多くの読み手に届くように作ろう」という姿勢を感じない。

そこがプレイしていて、終始残念だった。

 

ここまで書いておいてなんだが、ゲーム自体は最初に言った通り面白い。個人的には漂流村の迎撃戦が楽しかった。好感度がイベントを見るためだけのものではなく迎撃戦のサポートに影響を与えるなど、システムも工夫されていた。

「ストーリーさえなければ、いいゲームだった」というのがクリアしたあとの感想だ。

 

余談

言葉ですべて説明することがストーリーを語ることでそれで終わり、というものを見せられると、「ワンダと巨像」のようなゲームの凄さが改めてわかる。

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ストーリーについて言葉での説明が一切なく、プレイヤーの体感やプレイ体験から生まれたものがそのままストーリーになる。

 

ウーラとサライの設定もひどかった。

「他人の中で、自分の都合のいい部分しか認めないひどさ」は、「カオスヘッド」でさんざん批判したので割愛。

ああいうことを平気でやられると、どんなに「危機的状況だ」と言われても「しょせん自分以外の物事(他人)は、すべて自分に都合のいいように変えられる出来レースの世界」という風にしか思えない。

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