うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

【映画感想】「トランスワールド」は種明かしを知ったあと、もう一度見たくなる良作。

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Amazonプライムビデオで「トランスワールド」を観た。

トランス・ワールド(字幕版)
 

 

寂しい森の中でガス欠で車が動かなくなったため、夫のアダムは助けを求めに行く。残された妻のアマンダは一晩夫を車で待ったが、朝になっても帰ってこなかったため、空腹に耐えかねて外に出る。

森の中でキャビンを見つけたアマンダは、そこで同じように車の事故で立ち往生していたトムという青年と知り合う。

 

という話。最初はかなりサスペンス色が強く、始まって10分くらいで目が離せなくなる。

この話はあるひとつのアイディアで話が作られている。そのアイディア自体も面白いのだが、その種明かしだけに頼らず、細部までそのワンアイディアが生きるように丁寧に作られている。

1時間30分と映画にしては短めで、比較的気楽に観れるので、時間が空いたときに観るにはかなりおススメだ。

 

*以下はネタバレ感想。

 

 

 

ネタバレ感想

仕掛け自体はループものの変形だし、作内でも指摘されている通り、「ハンスを助けただけで、都合よくみんなの未来がいい方向に変わるのか。他にも色々な要素が絡むだろう」と思う。

この家系の四人がなぜここに集まったのかという理由も、「あの金庫がそういうものだから」以上の説明がない。

ただそういうややご都合主義的な設定でも「トランスワールド」がいいなと思ったのは、「四世代の人間が、未来を変えるために集まった」という事実を知ったあとに、四人の様子や関係性の描写が細かく書き込まれていることに気づくところだ。

 

勘のいい人なら、アマンダとジョディとトムが別の年代の人間だと、三人が揃った瞬間に気づくだろう。

「事実」を知る前の三人の関係性や距離感の描写もうまい。

トムが妊娠しているアマンダを気遣う描写も、「妊婦にそれくらい気遣いをするのは当然だ」と言えばそうかもしれないが、それにしても同じ初対面の見知らぬ人間なのにジョディとの扱いの差がすごい。

種明かしを観たあとは、実はアマンダと共にお腹の中にいるジョディのことも、本能的に気遣っていたのだと気づく。

トムとジョディとアマンダ(特にジョディとアマンダ)の距離感は、「育ってきた環境がまったく違うだろう初対面のキャビンに閉じ込められた者同士」にしてはだいぶ不自然なところが、彼らの隠された関係性をちゃんと表している。

急激に心を通わせあったときのアマンダとジョディの関係は、まさに良好な関係性の「母親と大人になった娘」の距離感だ。言葉にするのが難しいが、「お互いを大人として尊重しつつ、母親が娘を常に見守っている感じ」がよく出ている。

 初対面時は尖っていたジョディも、落ち着くとすぐに自分の態度を謝罪するところなど、彼女が根っからの悪い人間ではない、と後の展開を暗示している。

 

最初はサスペンス調で見ている人間を引き込む、細部まで四人の関係を行き届かせて、最後に四人が全員血縁であることを明かすなど、脚本の作りもうまい。

「四世代が集まって、お互いの幸福のために未来を変える」という一個の設定に頼りきりにならず、逆にその設定を生きたものにするために細部まで丁寧に作りこまれている。この点にすごく好感が持てた。

四人が戸惑いながらもそれぞれを思いあう様子もいいし、それぞれお互いの未来のために頑張る姿は応援したくなる。

この手の話では珍しく、大団円のハッピーエンド。後味も悪くない。

 

俳優たちはみんなよかったが、特によかったのがアマンダ役のキャサリン・ウォーターストンだ。この設定が生きたものになったのは、キャサリン・ウォーターストンの力が大きいと思う。

おっとりとした良家のお嬢さん風でいながら、四世代全員を気遣い方向性を決める「大黒柱」感がよく出ていた。特にジョディと接しているときの「お母さんぽさ」が上手い。

「トランスワールド」を見るまで知らなかったが、けっこう有名な女優なんだ。

誰かに似ていると思ったら、エミリア・クラークに似ている。画像を見たら、どの装い、どの角度から見ても美形で参る。

 

こういう「当たり」の映画を観ると、こういうものを求めてさらにたくさんの映画を観たくなる。