うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

漫画版「十角館の殺人」1巻が発売。読んでみたら、やっぱり面白い。

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「十角館の殺人」が漫画になっていた。

TwitterのTLで綾辻行人が「漫画版『十角館の殺人』の一巻が発売されました」とつぶやいていたのを見かけたので、さっそく購入して読んでみた。

十角館の殺人(1) (アフタヌーンコミックス)

十角館の殺人(1) (アフタヌーンコミックス)

 

 

未読のかた(羨ましい)のために説明すると、「十角館の殺人」はミステリー作家綾辻行人のデビュー作で、そのあとシリーズ化する「館シリーズ」の第一作。

有名な建築家・中村青司が、絶海の孤島を買い取り十角形の形をした奇妙な館を建てた。青司はその後、島の中の屋敷で妻ともども放火殺人で命を落としている。

大学のミステリ研究会に所属する男女7人が十角館で合宿を行うなかで、次々と人が死んでいくというミステリー。

 

僕にとって推理小説とは、あくまで知的な遊びの一つなんだ。小説という形式を使った読者対名探偵の、あるいは読者対作者の、刺激的な論理の遊び。それ以上でもそれ以下でもない。

だから、一時期日本でもてはやされた“社会派”式リアリズム云々は、もうまっぴらなわけさ。(略)

ミステリにふさわしいのは、時代遅れと云われようが何だろうがやっぱりね、名探偵、大邸宅、怪しげな住人たち、血みどろの惨劇、不可能犯罪、破天荒な大トリック……絵空事で大いにけっこう。

要はその世界の中で楽しめればいいのさ。ただし、あくまで知的に、ね。

 (引用元:「十角館の殺人」綾辻行人 講談社)

 

社会派ミステリが人気の時代、カー、クリスティ、クイーンの御三家に代表される「本格」と呼ばれるジャンルは「人間が描けていない」「殺人をゲームのように扱うのは、道徳的にどうか」「ただのパズル」と色々な面で批判を浴びて、だいぶ下火だった。

自分も子供心に、「今の時代は、なんでクリスティやカーや横溝正史みたいに、孤島や一族の中で見立て殺人で人がどんどん死んでいって名探偵が事件を解く、みたいな小説がないのだろう(あるにはあったが、子供の観測範囲で見つかるものは昔のものばかりだった)」と不思議だった。

上記の引用文はエラリイの鼻につく感じが伝わりつつ、(このあとカーが噛みついている)内容には「そうだ!」と激しくうなずいた人もたくさんいたと思う。自分もその一人で、エラリイのこの言葉が嬉しくて、わくわくしながら続きを読んだ。

 

社会派ミステリも(余り読まないが)いいものはたくさんあると思う。「人間の証明」は、棟居が犯人の前で西条八十の詩を読むところで、何度読んでも泣く。

先日読んだ「罪の轍」もすごく良かった。

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社会派ミステリには社会派ミステリの良さがあり、「本格」には「本格」の良さがある。決して「人間が描けていない」「こんな事件あるわけがない」「荒唐無稽」だからダメだ、と言われるようなものではない。

「荒唐無稽上等」と宣戦布告して、新本格というジャンルを切り開いてくれた作家陣には感謝と敬服しかない。そのおかげで、今は小説でも漫画でもゲームでもたくさんの作品が楽しめる。

 

原作を読んでいても楽しめた。

漫画版は、絵柄が女性向けの同人誌ぽく感じる。自分は好きな絵柄だが、好みがわかれそうだなと思う。

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(引用元:「十角館の殺人」1巻 綾辻行人/清原紘 講談社)

 

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(引用元:「十角館の殺人」1巻 綾辻行人/清原紘 講談社)

 

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(引用元:「十角館の殺人」1巻 綾辻行人/清原紘 講談社)

 

エラリイはこれくらいがいい。ポウは想像通り。カーのキャラ変は笑ったが覚えやすくていい。(ミステリを読みそうに見えない……というのは、偏見か)

アガサは美しいし、オルツィが可愛いと女性陣は大満足だ。服の好みやバリエーションも見ていて楽しい。

ヴァンとルルウは狙いすぎな気が…。いいんだけど。

 

「トリックはどうするんだ?」という点が一番気になったけれど、うーん、原作未読組も「うん?」と思うんじゃないかな。

トリックで驚かせることを狙っているのではなく、原作ファン向け、もしくは原作未読の人へは紹介としてと考えているのかもしれない。

 

原作は探偵の島田以外は余りキャラ立ちしていないけれど、漫画は絵面が華やかだし、オマケ四コマもある。犠牲者たちがただの舞台装置ではなく愛着がわく。

既読組や原作ファンも十分楽しめる作りで、ストーリーや結末を知っていても続きが楽しみだ。

 

綾辻行人作品のここが好きだ。

館シリーズは、シリーズの中で異色の「人形館」が一番好きだ。

次に好きなのが「暗黒館」。

傑作と思うのが「時計館」

「迷路館」と「十角館」も好き。

 

綾辻行人の小説で一番好きなところは、「恐怖による支配」(造語)が上手いところだ。

ミステリ…特に「クローズド・サークル」ものは、冷静に考えたら「そんな行動を取るかな」とか「少し考えればわかるのでは」と思うことが多々ある。

「恐怖による支配」がうまい作品は、読者を登場人物たちの心境と一致させるのがうまく、「考える余裕がない」「恐怖に支配され冷静さを失う」状況を疑似体験させる。自分が登場人物たちと同じ恐怖に支配されているとき、登場人物たちが普段であれば取らないような行動や短絡的な思考も「尤もだ」と納得できる。

例えば「そして誰もいなくなった」や「インシテミル」はこのあたりが非常にうまい。「あれ?」と思う違和感があっても、立ち止まって冷静に検証するなどとてもできない、そういう恐怖に支配されている心境とはどんなものなのかを丹念に味合わせてくれる。

綾辻行人はこの「恐怖による支配」を確立する描写や演出がべらぼうにうまく、「時計館」や「迷路館」、「人形館」などは真相がわかった後もそこはかとなく怖い。だから結末を知っていても、何度読んでも面白い。

「恐怖による支配」を味わえる作品はそれほど多くない(ホラーはちょっと違う)ので、これを高水準で味合わせてくれる綾辻行人は、自分の中では代わりがいない作家だ。

 

 そう言いつつ「残穢」もすごく怖かった。

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