うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

世界一の投資家、唯一の公認伝記「ウォーレン・バフェット伝 スノーボール」感想

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文庫・スノーボール ウォーレン・バフェット伝 (改訂新版)〈上・中・下 合本版〉

文庫・スノーボール ウォーレン・バフェット伝 (改訂新版)〈上・中・下 合本版〉

 

 

大好きな美雪さまが目をキラキラさせて、「投資の神様」「私の憧れ、超スーパースター、いとしのバフェット様」と語っていたので興味を惹かれて読んでみた。

 

結果、かなり面白かったので大満足している。

読む前は「世界一の投資家」の投資の手法や業績に一番興味があったが、生い立ちや性格、交友関係などの私生活の部分も面白かった。これは筆者の力量が大きいのかもしれない。

「私の話とだれかの話が食い違っているときには、恰好悪いほうの話を使ってくれ」

冒頭でバフェットが筆者にこう語っているように、「偉大な人物のきれいな偶像」を残そうとするお神輿本ではない。

ここまで恵まれているように見える人でも「こんな部分があったんだな」「こういうこともあったんだな」と思わされる。

 

「オマハの賢人」の二つ名が示す通り、金銭を稼ぐ能力に見合わない物質的な欲を超越した人物か、もしくは能力が煙幕を張っているだけで冷徹で金にしか興味がない人物かどちらかかと思っていた。

どちらの予想も外れた。

 

「スノーボール」を読んで自分がバフェット個人に抱いた印象は、「投資オタク」だ。(勝手に親近感)

「お金にしか興味がない」のではない。投資にしか興味がない。

食べるものはジャンクフードでいいし、着るものはよれよれの着慣れたものでいいし、住む場所は住めればいい。子供のことは奥さんに任せきりで、面倒を見てくれる人がいないと日常生活がやっていけない。

 

本人が語っているように、バフェットがとった方法論は、それだけを聞くと恐らく今日広く知られている方法をやっただけではないかと思う。

ただネットがある現在とは違い、一般の人には情報が余り入らず「株式市場が黒魔術で動いている」ように思われていた時代に、バフェットは毎日毎日図書館にこもって、隅から隅まで徹底的に情報を読み漁った。

 

グレアムは株式を評価する合理的で数学的な手法を教えた。投資は体系的であるべきだ、とグレアムは説く。(略)

ウォーレンが探していたのは、信頼できる働きをするシステムだった。(略)

『賢明なる投資家』を見つけたときには、ほんとうに何度も読み返した。

「まるで神を見つけたみたいだったよ」

 (引用元:「ウォーレン・バフェット伝 スノーボール」日本経済新聞出版社 アリス・シュローダー 伏見威蕃訳P238-P239/太字は引用者 )

 

バフェットのメンターであるグレアムの考え方は印象的なものが多い。

面白いなと思ったのは、「株価は会社の真の価値を表すのではなく、多くの投資家の幻想が合致したもの」「内在する価値は、いつか必ず現れる。それがいつかはわからないが」というふたつの考え方だ。

 

バフェットはグレアムの語る方法論はいくつか違うのではないかと思っていたようだが(分散投資には否定的だった)、根本にあるこの考え方は固く信じ忠実に守っていた。

だから自分が「いい」と思った企業の株を、内在価値が表れるそのときまで持っていられる「安全マージン」という概念を編み出した。いつまでだったら、自分がその株を持ち続けられるかを考えて、「内在する価値が表れるまで」長期保有できるものを買っていた。

 

グレアムの考え方を通してみると、数字やデータの無味乾燥の面白くなさそうな世界だと勝手に思っていた投資の世界は、人の心理や物語的な面白さを含んだ世界なのだと気づく。

バフェットが考えた「株価を気まぐれに操る投資家の集合体であるミスターX」という概念や、システムを神になぞらえている考え方は民俗学を思わせる。

またグレアムが言う「株価は事実ではなく、投資家たちが全員で作り上げた共同幻想」という考え方は「うみねこのなく頃に」に通じる。

今まで数字の上がり下がりすることの何が面白いのかまったくわからなかったが、そうやって見ると「合理的な思考と客観的なデータと数値だけが存在する世界」という自分が勝手に抱いていたイメージとはまったく逆の、「不完全な人間性」が深く関わる世界なのかもしれない。

少なくともグレアムはそう見ていたし、バフェットもグレアムの考えに影響を受けていた。

 

バフェットは図書館にこもって「ムーディーズ・マニュアル」(四季報みたいなものだろうか?)を読み漁って、少しでも利益が出そうな割安の株「シケモク」を見つけては、最初のスノーボールを固めた。

想像したよりずっと単純で地味なことをやっていたんだなあと思ったが、その単純で地味なことをグレアムという「自分の神」を信じて、常人には真似できない徹底さでやったところにバフェットの異能があったのだと思う。

バフェットが成功した最初の一歩を見ると、天才たちが言う「才能とは、人より努力すること」という言葉が成功した人たちの生存バイアスでも「平凡」がわからないゆえの筋違いなものではなく、もしかしたら本当に「天才とは当たり前のことを強烈な信念で徹底的にやり続けた人」なのかもしれないと思わせる。

「熱意こそ抜きん出る対価」

はその通りなのかもしれない。その「熱意」が異常なのだけれども。

バフェットは子供のころから、努力してそういうことをやってきたわけではない。ただひたすらそういうものを調べたり、数字に没頭したりすることが好きなのだ。そして没頭した結果、儲けや利益が出たりすることがただただ好きなのだ。

 

バフェットは「極端な熱意」で投資の神様になったが、その他の部分、人付き合いや趣味嗜好もかなり偏っている。

ソニーの会長だった盛田昭夫の家に招かれて日本食を出されたとき、一切手を付けなかったという話はちょっとどうかなと思った。また人を好きになるとその人に夢中になってしまう、など一点に没頭しがちだった。

バフェットと妻のスージーがお互い好きな生き方をするためにアストリッドを利用した(としか言いようがない)のは、さすがにどうかと思う。

バフェットだけではなく、スージーも二重生活をおくっていたと聞いたとき、アストリッドが「騙された」と思ったのも尤もだ。スージーも悪い人ではなくむしろ慈善的な性格で、たくさんの人を助けたいという思いがあったのだろうが、それにしてもアストリッドに対しては余りに不誠実だ。

スージーの二重生活についてはバフェットもショックを受けたようだが、それでも夫婦でいることを選んだのだから夫婦には夫婦にしかわからない絆があるのだろう。

アストリッドの扱いはどうかと思うスージーだが、バフェットと結婚する前、親と仲が良く誰もが祝福しそうなバフェットよりも、当時は偏見と差別の対象だったユダヤ系の男性との恋を選ぼうとしたなど、「世界一の投資家の妻」という肩書を差し引いても面白い人に見える。

バフェットの母親もかなり後までバフェットに会うことすら拒否されるなど、私生活は決して平穏無事なものではなかった。バフェットの姉ドリスへの対応を見ると、今の時代でいう「毒親」だ。

 

余りにも巨大な成功と業績に目を奪われがちだが、一人の人間として見ると当たり前だが色々とあったんだな、と思わされる。

「世界一の投資家の伝記」という冠を外しても、興味深い人生が読めて面白かった。

 

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