経験が浅い青年士官が本隊が来るまで、河の唯一の渡河地点「愚者の守り」を50名の小部隊を指揮して守る任務をこなそうと試行錯誤する物語を通して、小部隊の戦術の基礎を学ぶ本。
ループしながら何度も同じ状況を繰り返し、主人公が知識と経験を身に着け強くなり、最終的には任務を達成する物語だ。
「ループして強くなる」という発想は、昔から好まれていたんだな。(本書の場合は夢落ちだが)
この本は「歩兵小隊の戦術に関する優れた入門書として今でも読み継がれて」おり、「米軍でも戦術学を学ぶ参考資料として本書が指定されている」そうだ。(訳者解説より引用)
自分たちと似たような経験の浅い青年士官が視点の物語なので感情移入しながら読めるため、座学が嫌いな人でも頭に入りやすいし記憶も定着しやすそうだ。
物語調で面白く、余分なことは省いて話が進むので、まったく知識がない自分のような人間もサクサク読めた。
主人公が夢のたびに「これなら大丈夫」「やり残したことはない」というフラグを立てまくるので、それがどういう風に折られるかということが知りたくて読みだすと止まらなくなる。
第一の夢、第二の夢くらいまでは、軍事的な知識がなくとも「それはダメだろう」と突っ込みたくなるような失敗例だが、第三の夢あたりから地形や敵の状況も考えての対応をしなくてはならなくなり、面白くなってくる。
訳者の解説を読み進めていくと、この本が書かれた背景には、当時の
陸軍士官学校の教育内容は、軍団や師団といった大部隊の運用に偏る傾向がありました。
その弊害として、部隊に新たに配属された青年将校は、小部隊を効果的に運用する上で必ずしも十分な戦術能力を身に着けていませんでした。(略)
当時の英国陸軍のドクトリンとして、小隊ではなく中隊の戦術を基礎とし、密集体形のまま戦うべきという思想がありました。(略)
スウィントンのように歩兵小隊のための戦術が重要だと考えていた論者は当時としては必ずしも英国陸軍の公式見解と合致していなかったということです。(略)
スウィントンの思想の妥当性は、第一次世界大戦が始まってから改めて認識されることになり、この時期から歩兵小隊が戦術行動の基礎的な単位として考えられるようになりました。
(引用元:「愚者の渡しの守り タイムループで学ぶ戦術学入門」 アーネスト・スウィントン 武内和人訳 国家政策研究会)
こういった事情があったらしい。
実際に第三の夢で主人公は、味方が小部隊で敵が長距離の火力を持っている場合は、セオリー通り密集しているのは危険で、茂みの中に散開していたほうが良いということを学ぶ。
第五の夢のように味方に損害は出なかったけれど、当初の目的を見失っていたなど軍事に限らず日常の仕事でもありがちな本末転倒もあって、業種に限らず仕事の考え方の本としても読める。
惜しむらくは、文字だと状況がちょっとわかりにくい。
どの武器がどれくらいの射程なのか、愚者の渡しの付近の河岸の状況はどうなのか、「掩体ってなんだ? 塹壕とは違うのか?」ということもわからず(訳注で説明されているが、頭の中にイメージが浮かばない)画像で見たり調べたりしないとわからないことが多かった。
敵がインシデンタンバ台から砲撃を放ってきたときも、そんなにすぐに登れるのか、ということがピンとこなかった。表紙の絵で見ても、リグレット・テーブル山と同じくらい高さがありそうだが、遠近感のせいか? 地図はついているけれど簡単なものでしかないので、距離感や実際の視界が想像しづらい。
せっかく問題編、回答編を模した作りになっているので、できれば基礎知識がない人間でも自分で考えて答え合わせができるように、必要な知識が補足されているとさらに楽しめるのでは、と思う。
動画ならシミュレーションゲームのような楽しみ方ができそうだけれど……作ってくれないかな。
「愚者の渡しの守り」は昔買って購入したことを忘れていたのだけれど、「アンセスターズレガシー」をプレイしていて突然思い出した。
最初の五、六時間くらいは意味がわからず、「クソゲーを買ってしまった…」と思ったのに、今や飯を食う時間も惜しんでゲームをしている。