久しぶりに「このゲームでしか味わえない面白さを味わえた」と思うゲームをプレイした。
不穏な空気はあるものの、それなりに平和だった「高ツ原五国」の壱の国に、突然「高ツ原の三傑」と呼ばれる英雄たちが結託して攻め込んでくるところから物語は始まる。
主人公である若く平凡な文官ライゼ・インカルナの日常が、青天の霹靂のような王宮への強襲によって破られる。
城の防備がなぜ破られたのか、なぜ図ったように兵が出払っているのか、英雄たちの目論見は何なのか?
様々な疑問の中、ライゼは愛する王女と主君である王を守るために、英雄たちの前に立ちはだかる『今日』を繰り返す。
文官として編募室にこもって資料を調べ整理するだけだったライゼが、いきなりボス戦に放り込まれる。スタートで圧倒的な力の差、「生き残ることさえ難しい」という感覚を叩きこまれる。
どうすれば伝説となっている三人の英雄+錬銀術士フィオレンティナの攻撃から逃れられ、王や王女、友人を守れるのか。
序盤のこのループが面白い。
ループものは一ジャンルを築いているのでは、と思うくらいポピュラーになったが、他のコンテンツの場合、どこか他人事の部分がある。
ゲームブックの場合は、ループしている主人公=自分なので「ループする」ということがどういうことなのか、ということが実際に体験できる。
ループしていて一番怖いと思ったのは、「本当にこれを抜けられる『正解』があるのか」ということだ。
ストーリーであれば「いつかは終わるだろう」と外側から眺めていられる。
しかし実際に自分がループしていると、「終わりが保証されていない」というのは恐ろしいことだ、と心底思う。何回も何回も繰り返していると、心がくじけそうになる。
「護国記」のすごい点は、この「心がくじけそうになる」感覚をわき起こさせるところだ。
何回も同じところをループしていれば、「くじける」のではなく「飽きてくる」。ゲームであれば飽きればプレイヤーはやめてしまう。
「飽きる」のではなく「くじける」のは、少しずつ進んでいる感覚を与えられているからだ。
「これが正しいのではないか」と思う展開が、各所に埋まっている。ゲームとしては「間違い」のルートなのだが、ストーリー全体を見たときには「ああ、だから城の防備が簡単に破られたのか」など様々な疑問が解けるようになっている。
また「間違ったループ」の中に「正しいルート」のためのヒントが隠されている。ただの「正解ルート探し」ではない。「間違っているループ」を繰り返すことが「正しいルートの一部」になっているのだ。
ただそれはループを抜け出してから、そういう構造になっているとわかるのであって、ループの中にいると「それが本当に正しいのか」「無駄なことをやっているのか」がわからない。そのわからなさが怖い。
このループは、「ゲームブックに慣れている人」がどういう思考をしているかということも考えられている。「同じ文章、同じイラストならパラグラフが使いまわされているのだろう」と思って前の展開に戻ってしまいがち、もしくは読み飛ばしがちになるが、きちんと踏んだフラグを踏まえて、そっくり同じような別のページに飛ばされている。
ノベルゲームでも、
どの選択肢を選んでも次の展開が同じ→この選択肢はストーリーに影響を与えないのか→じゃあ、どれでもいいや→と思ったら、次の次の展開くらいが変化する→どこでフラグが立ったのかわからない
といういやらしい面白い作りのものがあるが、それが再現されている。
「護国記」は他の多くのゲームブックと比べると、RPGよりもノベルゲームに近い。
ゲームシステムを楽しむためにストーリーがあるのではなく、ストーリーに没入するためにゲームシステムが取り込まれている。
ゲームブック自体がそもそも「ループシステム」を取っていると考えると、それをストーリー内に組み込むのはなるほどピッタリなんだなと思う。
「護国記」は序盤のループも面白いが、ループを抜け出したあとに更なる驚きが待っている。
武田すん「グレイプニル」に見る、自分の好きなストーリー展開のパターン4つ。
この記事で書いた「主人公だと思ったら脇役でした」パターンの亜流だが、本筋だと思っていたことが、大きな流れのほんの一部に過ぎず、物語の構図が何度か反転する。
王さまに「王女とままごとするだけの奴と思っていた」と言われたときには笑ってしまった。そんな風に見られていたのかよ。
残念だったのは、高ツ原の旅が短かったこと。
世界観が作りこまれているので、もう少し楽しみたかった。弐の国の王宮は美しく面白そうな場所なのに、行った瞬間に崩壊した。史の国と碁の国も行ってみたかった。(*行けるそうです)
「壱の国の『今日』のループ」で一作、「高ツ原五国をまとめる旅」で一作、「最終決戦」で一作の三部作くらいが、自分の感覚ではちょうどよかった。
同じストーリーでも、ゲームブックは普通の小説よりもテキスト量が膨大になるので贅沢な望みだとは思うけれど。
たまに思い出したようにプレイするたびに、「何で無料で手軽に色々なゲームができる時代にわざわざ文章のみしか情報のないゲームをやるんだろう」と思わずに、「やっぱりゲームブックにはゲームブックにしかない面白さがある」と思える作品に出会えることは幸せだ。
余談
序盤のループがどうしても抜けられず、ン十年ぶりにチャート表を作成した。総当たりは本来はダメだけど、どうしても抜けられず…スミマセン…。
でもすごい作りがいがあって楽しかった。
最初のヒントだけ言うと「本は読まない」(*ネタバレ反転)。
でも「本を読む」ことにも意味はある。
防風室はなぜ作動しなかったのか、副兵長のオグマはどんな人間なのか、壱の国の王の葛藤はどんなものだったのか、そういうことを知ることが「間違っていない」ところも、「護国記」がいいなと思うところだ。
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