「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」の16巻の石上とつばめ先輩のエピソードが、読んでいてぞわぞわしたのでちょっと考えを整理したい。
おさらいのためにエピソードを説明。
生徒会会計の石上優は体育祭委員で一緒だった、つばめ先輩に恋をする。
石上は無意識のうちに告白してしまい、石上のことを恋愛対象として見ていなかったつばめは現在、返事を保留中。
つばめは神奈川の大学に行くことが決定しており、石上と付き合うのは難しいと考えている。
自宅のクリスマスパーティーに石上を誘い、告白を断りつつも「好きになってくれてありがとうの気持ち?」から石上を性交渉に誘う。
石上は「同情で愛しているフリなんてされたくない」という気持ちからつばめの誘いを断り、その場から逃げ出す。
休み明けの学校でつばめから呼び出され、石上は改めて「つばめに好きになってもらえるように頑張る」ことを伝える。
自分でもどこにぞわぞわするのかがよくわからなかったので、少し考えてみた。
このエピソードでつばめ先輩は
①「私だってこんなことするのは初めて」で
②石上が「私のことが好きだよね」なことも知っている。
③「付き合うとかそういうのはちょっと」だが、「これ位はしてあげようと」思った。
④「傷つけるつもりはなかった」
と言っているけれど、つなげると意図がまったく読めない。
例えば自分のことを好きな石上と好奇心でしてみたかった、「④」は嘘だというならそれはそれで面白いキャラだと思うけれど、描写を見ると「自分がちょっと面白い思いをしたかった」ようには見えない。
自分のほうに何もメリットがなく、言葉通りただただ「自分を好きになってくれたお礼に寝ようと思った」なら、石上のことを分かっていない……というより、他人のことをまったく見ていない。
実際に石上は喜ぶどころか傷ついて逃げ出し、混乱して伊井野に怪我をさせてしまったくらいだ。
「石上の気持ちに対するお礼」と言いつつ、石上のことをまったく考えていない、かといって自分のことを考えているわけでもない。「何を考えているのか、何のためにこんなことをしたのか」がさっぱりわからないところが、最初のぞわぞわポイントだ。
自分のことを考えているわけではない、石上(相手)のことも考えていないなら何のためにこういう行動に出たのか。
考えた末、一番腑に落ちた答えは「石上は自分のことが好きだから、性交渉を持ち掛ければ喜ぶに違いない。自分も求められて嬉しいし、喜んでもらえるし、付き合うことができない罪悪感も払しょくされる」
「好きになってくれた感謝」ではなく「断ることへの罪悪感の軽減」ではないか、というものだ。
休み明けに石上に会ったとき、つばめ先輩は一連の行動について「私、考え無しで」と言っている。
確かにつばめ先輩の行動は、考えがあってやったようには見えない。
「他人を拒絶したり断ったりすることが怖くて、犠牲を払ってしまう」
「NOと言えない」というより「YES、NOの選択を迫られる場面を回避するためなら、自分を差し出してしまう」
「相手に不快感を抱かせない」ことと「自分」が等価で「相手に不快感を抱かせたら、自分を支払わなくてはならない」なら、相手の顔色次第の「考え無し」の行動になる。しかも石上が相手の場合は、その「相手の顔色」すら読み違えている。
「顔色を見て」というより「断るのだからこれくらいしなければ」という反射でやっているように見えて、大丈夫かと不安になる。
前の彼氏とひどい別れ方をしたことが原因で臆病になっているだけ、ならばいいけれど、むしろその体質のせいで前の彼氏からもそういう扱いを受けていたとしたら…と考えるとかなり根深い問題を抱えているのでは、と思ってしまう。
「私の価値の耐えられない軽さキャラ」は他の作品でたまに見るけど、何らかの被害を受けていて自分の価値を感じられていない(そう思わせられてしまっている)ケースが多い。
好きな相手に「好きになってくれたお礼」に迫られて泣いてしまう石上には、ちょっと荷が重いのでは、と思うけれど、周りの空気や圧力に「Noと言い続けた経験」がつばめ先輩との関係にも生きてくるのかな。
「かぐや様は告らせたい」は基本はめちゃくちゃ面白いラブコメだけど、たまにこういうドキッとするようなエグみがあるエピソードが出てくるところが好き。
つばめ先輩視点だと「ラヴァーズ・キス」の里伽子編になるのでは、と思うからぞわぞわするのだと思う。「もっと大きく根深い問題がありそう感」というか。