うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

倒叙形式・犯人視点で「かまいたちの夜」を考えてみた。

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*本記事には「かまいたちの夜」本編の重大なネタバレが含まれます。

 

かまいたちの夜 輪廻彩声 - PSVita

かまいたちの夜 輪廻彩声 - PSVita

  • 発売日: 2017/02/16
  • メディア: Video Game
 

 switchで出してくれないものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「かまいたちの夜」本編を未解決のままデスゲームに突入して終わったケースを、犯人視点ではどう見えるのだろうと考えてみた。

・主人公の名前は透、ヒロインの名前は真理で統一。

・青字はゲーム内テキストの引用箇所。(©チュンソフト/我孫子武丸)

・デスゲーム突入ルートを中心に考察

 

美樹本の内心と言動の動機の推測

・田中殺害の動機は、本編で指摘されている通り、銀行強盗を行った口封じか仲間割れをしたため。

トリックを考えていたことや後述する美樹本の人物像から考えると、最初から殺害するつもりで田中を仲間に引き入れた線が濃厚。

 

会話の内容を見ると、恐らく正規ルートでは美樹本はシュプールの人間を皆殺しにするつもりはなかったと思われる。

 

19時 「田中」として夕食を食べる。

後で「美樹本」として到着したときに、「お腹は減っていない」が伏線になっている。夕食はしっかり食べているのだから、空腹ではない。

 

19時55分 「田中」の部屋に戻る。

窓が割れる細工は到着したときにしてあるだろうから、ここでやることはフロントに美樹本として電話して、窓から外に出るだけだ。

「本当に雪だったのだろうか?」という透の述解があり、後から見るとヒントになっていて意外と親切だ。

「途中で色々ぱくつきましたから、お腹は空いていません」

小林に「紅茶をどこで飲むか」聞かれたときに、「美樹本さんはちらりとこちらを見てうなず」いて談話室を選んだのは真エンディングで透が指摘した通り、アリバイを作るためだろう。

紅茶を飲んでいるときの「泊り客はこれで全部ですか?」は、建物内にいる人間の人数を把握しようとしていたのではと思う。

後の会話を見ると、美樹本は最善策としては田中以外を殺すことは避けようとしていたが、次善の策として泊まり客を皆殺しにしてほとぼりが冷めるまで別荘にいることも最初から考慮していたのではと思う。

 

21時すぎ ガラスが割れる音→バラバラ死体を発見。

 

10分後(21時30分ごろ?)談話室に全員集合。

ここで美樹本は、唐突に「かまいたち」の話を始める。よく考えると、かなり不自然だ。

「自然現象だと考えてみよう。この風の音を聞いてみろよ。これほど激しい風なら、めったにできないような恐ろしい真空ができたとしても不思議じゃない」

突っ込みたくなるような説だが、ここで「バラバラ死体でも自然死かもしれない」と可能性を強引に広げてきている。

このあとに亜希が「プラズマの仕業」と騒ぎ出すので、この目論見は成功している。

演出の効果で「美樹本のかまいたち説」→かまいたちかどうかはともかく、自然死も考慮してもいいのかもしれない、「亜希のプラズマ説」→荒唐無稽という対比ができているため、美樹本が第一声で「かまいたちという自然現象が原因」と主張するおかしさがカモフラージュされている。

真相を知ってから読み返すと、美樹本はところどころで「周りの人間が正常で冷静な思考をしようとすることを妨げるふるまい」をしている。

「犯人のふるまい」として辻褄が合っているのだが、テキストの誘導の上手さでつい見落としてしまう。

「無理だろ。さっき美樹本さんがたどり着いたのだって、奇跡みたいなものだよ」

俊夫のこの言葉を、どんな気持ちで聞いていたのか。まったく疑っている感じがないので、美樹本の性格だと内心嗤っていたのかもしれない。

 

「人殺しがおるかもしれんっちゅうのに、安心して眠れるわけあらへん。何とかせな(略)そら、捕まえるしかないやろ」

「下手に手を出すより、ここでみんなでじっとしていた方がよくありませんか?」

香山が家探しをして犯人を捕まえようと提案すると、美樹本は反対する。

「外部犯の可能性」がなくなると容疑がいっきに絞り込める。犯人としては是が非でも、「外部犯の可能性」は残しておきたい。

「クローズド・サークル」は、本来犯人が望む状況じゃない、という「魔眼の匣の殺人」で出てきた指摘は尤もだ。

 

今村昌弘「魔眼の匣の殺人」は、遊び心満載の上質なホワイダニットだった。

 

美樹本が殴られたフリをしたのも、同行者に嫌疑を向ける、自分から疑惑をそらす効果よりも、「刺激しなければそのまま消えていなくなる外部犯」という像を他の人間の心から消したくなかったからでは、と思う。

「自然死の可能性」「外部犯の可能性」と、可能性自体を無限に広げていくのは「犯人が見つかって欲しくない人間(犯人であることが多い)」の常套思考だ。

美樹本も「犯人であれば当然の言動」(逆の『可能性を広げる言動をしているから犯人である』は成り立たないのが難しいところだが)をしている。

「外部犯の可能性を残すと可能性が無限に広がり、犯人に有利になる。逆に内部犯に可能性が限定されると、発覚する危険が非常に高くなる」

犯人側から見たこの辺りの事情は、「うみねこのなく頃に」でずっと言及され続けている。

 

その常套手段的なふるまいが、みどりの「ちょっと思いついたことがあるから、田中さんの部屋を調べたいの」という言葉によって軌道修正を余儀なくされる。

シュプールはそれほど広い建物でもないし、吹き抜けで談話室から2階の廊下の一部が見える形式になっている。

みどり殺害は部屋の配置を考えても、「2階の物置の隣りの部屋に女の子三人組がいる」「1階の談話室に人がいる」「小林夫妻が下りてすぐに」「田中の部屋でみどりを殺害。廊下をみどりをかついで運び、物置に押し込める」

窓が割れたときに各自が部屋の確認をするシーンを見ると、女の子三人組の部屋が物置隣り、物置の反対側の突き当りが田中の部屋なので、廊下の端から端まで、吹き抜け部分も通ってみどりの遺体を運んだことになる。(画像はいくつか使いまわされているので、田中の部屋は、設定では廊下の物置側なのかもしれない。)

誰にも気づかれずに行うのは可能なのか、と思うが、逆にそこまで綱渡り的な殺害をみどりの言葉だけで瞬時に決意したところに、犯人の人物像が現れている。

恐ろしいほどの勘の良さと決断力の速さ、そして冷酷さだ。

クリスティの「ナイルに死す」の犯人もこういったアクロバット的な殺人(針の穴に糸を通すような綱渡り的な殺人を瞬時に決意して行う)を、ポアロがその決断力の素早さ、やってのける胆力に驚嘆している。

「殺人に驚嘆する」のもおかしな話だが、こういうところから「犯人がどういう人物か」を推測することができる。

どう考えてもそこら辺のチンピラではなく、冷酷で冷静、抜け目がない根っからの極悪人……というより、犯人だと判明したあとの透とのやり取りを見ても、人間というよりは底が知れない悪意そのものに見える。

犯人がわからない段階でも事件の背後にいるこういった人物像は想像がつくため、デスゲームに突入してもそれほど違和感がない。

 

23時30分 銀行強盗のニュースを見る。

「残った人間に恐怖を味あわせるのが目的だと。(略)つまり犯人は、ぼく達全員、あるいはこの中の誰かに、相当な恨みを抱いていて、ただ殺すだけじゃ飽きたらない」

「僕は頭を殴られたわけだけど、不思議と殺意は感じなかったな。(略)無関係な人間は殺すつもりはないのかもしれないよ」

銀行強盗のニュースについてはひと言も口を挟まなかった美樹本が、終わったとたん急に話し出す。

動機が判明しそうになったので、動機の可能性を「怨恨」に広げている。加えて「無関係の人間を殺すつもりはない」とさりげなく伝えている。

美樹本は「殺人は自分にとってはリスクである」と捉えている。殺人は目的ではなく、目的のために取りうるひとつの手段なのだ。だから「殺さないほうがリスクである」と判断した場合は、即座に殺害を決行する。

 

「犯人はどうしても殺さざるをえない時だけ殺しているような気がしたものだから…」

この点「下手なことをしなければ、殺しはしない」ことは再三再四、手を変え品を変え美樹本は周りに伝えている。

当たり前だが周りには伝わっておらず、むしろこの言葉をきっかけに透がみどりの「思いついたこと」を調べようとするところが皮肉だ。

透の意識下では「みどりさんは何を思いついたのか」に結びついたが、案外無意識下では美樹本の言葉の意味深長さを感じとっていたのかもしれない。

このシーンで同伴者に俊夫を選択しなかったら、殺害されてバッドエンドになる。そのあとどうやって誤魔化すかは気になるが、どちらにしろみどりと同じように瞬時に殺害している。

 

「でも、あれが犯人の態度でしょうかね」

「でも、殺されそうになったら、逆に殺してしまう事だってあるでしょうね」

香山を犯人だと決めつける俊夫には反対するようなことを言い、春子の言葉には乗っかるようなことを言う。

これも「殺人者や殺害の動機の可能性を広げるため」と考えると、言動が一貫して見える。

このあとなぜ皆殺しにする決意をしたか、理由を考えるのは難しい。

メタ視点で見た「そのほうが面白いから」という理由はおいておいて、ストーリー内の条件で考えると「みんなが内部犯である、と確信し始めている」「それでいながら香山犯人説を押し通すのは難しい」と感じたためではないか。

冷静になれば、みどり殺害が香山には不可能なことはすぐにわかる。「吹雪で閉じ込められる」ことも想定されているので、泊り客やペンションの関係者から連絡がきたり、ペンションにやってくるのもだいぶ後になる。

「殺さないほうがリスクである」と判断して、皆殺しを決意したのではと思う。

香山に対する俊夫の激高ぶりやそのあとの混乱を見ても、何人か殺害すればお互いに殺し合うのではという計算も働いたのかもしれない。

実際にそうなった。

 

まとめ

「かまいたちの夜」本編の戦慄するような恐怖とその面白さを支えていたのは、犯人・美樹本の人物像だと気付いた。

計算高く抜け目なく、冷静で冷酷、残忍で大胆。殺人をあくまで自分が取りうる手段のひとつと割りきっていて、なるべくそのリスクを取らないように状況をコントロールする用心深さ。それでいながら必要だと判断したら、何のためらいもなく殺人を行う。

大柄な髭面の男、と一見すると、殺人という暴力的な行為について最も疑惑の眼をむけられがちな外見なのに、それを隠し通す愛想の良さや愛すべき情けなさを演じられる能力。

こういう人物の残忍な悪意に支配されているから、出口のない悪夢に迷い込んだような感覚になるのだ。

「かまいたちの夜」の最もすごい点は、冷静に考えればちょっと無理な設定でも、とても冷静に考えていられない心理に引き込む演出力だと思う。そのストーリーは、こういう人間離れした悪意そのものの人物が、見えざる犯人として底に眠っているから成り立っている。

もう何度目かわからないけれど、本当に面白いゲームだったなあと感心してしまった。

 

 

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www.saiusaruzzz.com

 

アクロバティックな綱渡り的殺人が出てくる。状況によっては犯人も追い詰められこういった賭けに出なくてはならないことがある、というところが面白い。

 

ぴこぴこぷるぷる。