作者は「僕だけがいない街」の三部けい。
裏社会に生きる殺し屋・黒松とネグレクトされている妹思いの少年・湊の心が入れ替わる話。
黒松はその筋の人間と警察から追われており、湊の身体をちょうどいい隠れ蓑と考えている。湊は妹・渚を守るために何とか元の身体に戻ろうとするが、黒松が今までやってきた殺人のせいで色々な厄介事に巻き込まれる。
序盤からぐいぐい話に引き込まれて面白かった。
複雑な状況がうまく整理されているので、話が素早く進むのにわかりにくさがない。
無抵抗の女性だろうが何の躊躇いもなく殺す黒松と自分と妹を何度も捨てる母を恨まず妹を思う健気で真っすぐな湊は、両方主人公として魅力的だし、コントラストも効いていていい。
謎が多く先が気になる。
2巻までだとまだ情報が少なく、わからないことばかりだ。今の時点で疑問に思ったことと考えたことをメモとして残しておきたい。
*以下2巻までのネタバレがあるので未読の人は注意。
疑問と引っかかりまとめ
①渚の誕生日は5月15日と17日どちらなのか?
*入れ替わる前。
(引用元:「水溜まりに浮かぶ島」1巻 三部けい 講談社)
*入れ替わったあと。
(引用元:「水溜まりに浮かぶ島」2巻 三部けい 講談社)
これが今のところ一番の疑問。単行本でも直していないということは、ミスではないと思うんだけどな。
②湊と黒松が二人とも「雨が嫌い」というのは偶然なのか?
(引用元:「水溜まりに浮かぶ島」1巻 三部けい 講談社)
(引用元:「水溜まりに浮かぶ島」1巻 三部けい 講談社)
「雨は嫌い」というフレーズはここの他にも何度か出てくる。「雨が重要なキーワードになる話なので、イメージを合わせている」程度のものではなく、湊と黒松の共通性、というより同一性を匂わせているのかなというのが今のところの考え。
③母親の顔が描写されないのは何故なのか?
④母親は何故「サヨナラ」と言ったのか?
母親はこの先も物語に何か関係してくるのではと思う。
⑤湊が頻繁に見る「水溜まりに浮かぶ島」の夢は何なのか?
これが分かったら話が終わりなのだろうが。
⑥湊はなぜ黒松のような殺気が出せたり、黒松の過去の夢を見たりするのか?
身体に黒松の記憶がしみ込んでいる、という説明では話として面白くない。
「入れ替わっていない説」だと、二人の共通性が結びついてこないので、他の疑問も組み合わせて考えていきたい。
⑦「田北知宏」の住所である302号室に留美が住んでいたのは何故か?
⑧「二度とこの女を叩いたりするな」「あの女に手ェ出したら殺すぞ」は、「留美を」ということなのか?
留美に対して危害を匂わせると黒松(湊)は元の黒松に戻ったようになる。ただ留美は、黒松のことを知っている気配がない。
⑨留美を見て、なぜ唐突に渚を思い出したのか?
(引用元:「水溜まりに浮かぶ島」2巻 三部けい 講談社)
(引用元:「水溜まりに浮かぶ島」2巻 三部けい 講談社)
単純な「当たり?」つながりなのかとも思うが、このシーンと留美に危害が加えられたときの湊の激高のしかたは留美ー渚に何等かのつながりがあるのかと感じさせる。
⑩中淵が仕事を頼んだのは誰だったのか?
探し屋に頼んだのは椿だったので、中淵は誰に何の仕事を頼んだのか? このシーンの「探し屋に依頼したのは中淵」というミスリードの意味が今のところ何もない。このあとの展開につながるのかな。
まだまだ疑問が多いがちょっと考えてみた。
最初に考えたのは、平行世界説。
渚の誕生日が15日の世界と17日の世界で分かれている。ただ余りうまく話しが組立たなかったので没。
次に考えたのが集合観念説。
「水溜まりに浮かぶ島」が記憶の倉庫のような場所で、湊と黒松はそこに接続できる回路を持っているので、記憶を共有している部分がある。
母親はこの回路を開く日だと知っていたので、「サヨナラ」と告げた。
ただそうすると渚と留美のつながりや渚の誕生日の違いがうまく組み込めない。
ちょこちょこ引っかかる描写が出てくるが、登場人物が誰も拾ってくれないのでなかなか考えるとっかかりが見つからない。謎が謎と認識されないまま、話は止まらず進むところが面白いのだけれど。
最新刊が出たら、また都度都度考えてみようと思う。