うさるの厨二病な読書日記

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【鬼滅の刃キャラ語り】二人が結ばれることを阻む「おばみつ世界」とは何なのか。

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考えれば考えるほど面白い、沼のように深いこの二人の関係について、どう考えていてどこに面白さを感じているかを、今まで考えたことも含めてまとめてみた。

※すべて個人的な解釈です。

※本編23巻と公式ファンブック1の情報のみを参考にしています。

※ネタバレあります。 

 

今まで考えたこと要約:「二人は別次元に引き裂かれている」

この二人はストーリー上は、同じ世界(現実)にいるように見えるが、実は別次元に引き裂かれている。

なぜそう思うかについては、過去記事で書いたので興味があるかたは読んでもらえると嬉しい。

【「鬼滅の刃」キャラ語り】「伊黒小芭内はなぜ甘露寺蜜璃に靴下を贈ったのか?」という疑問から、二人の関係について考えた。 - うさるの厨二病な読書日記

 【蛇恋考察】謎だらけの関係を考えたまとめ|うさる|note

 

とりあえずこの先は、今まで考えたこと「この二人は、真の意味では別世界に存在している」という前提で話を進める。

そこからさらに考えが発展して「二人が結ばれることを阻むことを目的とした、自律的に世界を増殖させる体系」が存在していると考えた。

「物語の現実世界」の外側の枠組みが存在し、その中に閉じ込められている作りになっている。

ループすることで、世界が自律的に増殖されていく「ルールXYZが存在するあの作品」の構造が近い。

「二人が結ばれることを阻むことを目的とした、自律的に世界を増殖させる体系」を、この記事では「おばみつ世界」と呼ぶ。

「おばみつ世界」とは何なのか、何故そんなものが存在する(と思う)のかを書きたい。

 

伊黒は正規ルートにいる

「蜜璃と伊黒は別世界にいる」世界とは何なのか。メタで見たときの設定の差だと考えている。

蜜璃→当初の設定の世界

伊黒→後付け設定の世界

を生きている。

設定に基づいて物語世界は構築されるため、二人の世界線は実は交わっていない。

二人の関係性において伊黒と蜜璃に、認識の齟齬があるのはこのためだと思う。

本編では、最終的には後付け設定の世界を生きる伊黒が提示した目的「無惨を倒して、蜜璃と結ばれる」が成就した。

この本編の結果を以て「後付け設定が正規ルート」として固定されたので、「伊黒が生きる後付け設定の世界」を「正規ルート」と呼称する。

 「正規ルート」(=本編内の蜜璃の言動は考慮に入れず、伊黒の言動から二人の関係を推測したもの)は、

 「二人が出会い、文通をしたり食事に行ったりし、伊黒が蜜璃に好きと伝える(←重要。理由は後述)ことで二人が結ばれ、伊黒が蜜璃に縞々の靴下を贈る。ここまでが本編手前まで」

本編開始時点で二人は既に恋人同士なのが本来の姿だ。

 

おばみつ世界を支配するルールXYZ

なぜこの正規ルートに蜜璃がいないのかというと、「傍にいることすら憚られる」という伊黒の特大の罪悪感が機能しているためだ。

別の世界に蜜璃を跳ばすことで、物語内では同じ空間にいるとしても「傍にいることすら憚っている」状況を成立させている。

この「伊黒の罪悪感(深すぎる業)によって、蜜璃は正規ルートから遠ざけられている」

これを他作品リスペクトで、おばみつ世界のルールXとする。

次に「『別世界にいる蜜璃』が本編内で『正規ルート』を忘れている」という事実から、「蜜璃は、他ルートに飛ばされると正規ルートで起こったことを忘れる」というルールがあると考える。

これがおばみつ世界のルールY。

最後に「伊黒は、どの地点においても座敷牢に閉じ込められている」ルールZ。

「生きたいから」親族が皆殺しにされるのをわかった上で座敷牢を脱出した伊黒が、結局は「無惨を倒して死にたい」という心境になっているため、伊黒が「生きたいと思える場所→生きられる場所」は、この世では座敷牢しか存在しない。

また「汚い血が流れる肉体」の見立てが座敷牢と考えても、伊黒は常に座敷牢に閉じ込められている。

おばみつ世界には、このルールXYZが存在する。

 

おばみつ世界のクリア条件

おばみつ世界の最終目標は、言うまでもなく二人が結ばれることだが、「二人が結ばれるために絶対にクリアしなければならないこと」がある。

「伊黒が蜜璃に好きと伝えること」だ。

「伊黒が蜜璃に好きと伝える」は、おばみつ世界のクリア条件であると同時に禁忌である。

この禁忌は、22巻で伊黒が言及している。

禁忌であるから、自動的にクリア条件にもなる。

「好きと伝えること」どころか、側にいることすら禁忌なのだが、この禁忌を打ち破り結ばれること、それが二人の真エンドだ。

本編内では、「伊黒が蜜璃に好きと言っていない」ため(蜜璃の気持ちに応えているが、「好き」とは言っていない)禁忌を打ち破れておらず、真エンドが迎えられていない。

最初はそれが不思議で仕方がなかったが、この不思議さこそこの二人の関係の最大の面白さだ。

 

(ここまでのおばみつ世界の設定まとめ)

 おばみつ世界には以下の三つのルールが存在する。

「伊黒の罪悪感(深すぎる業)によって、蜜璃は正規ルートから遠ざけられている」(ルールX)

「蜜璃は、他ルートに飛ばされると正規ルートで起こったことを忘れる」(ルールY)

「伊黒は正規ルートのどの地点においても座敷牢に閉じ込められている」(ルールZ)

 

 おばみつ世界の禁忌=クリア条件

「伊黒が座敷牢から救出され、蜜璃に好きと伝える」

 

おばみつ世界のプレイヤーとラスボス

「別世界に遠ざけられていて伊黒への思いを忘れている蜜璃が、正規ルートに戻って座敷牢に閉じ込められている伊黒を救い、伊黒が蜜璃に好きと伝えることを目指す」

これが自分が考えるおばみつ世界の真の姿だ。

おばみつ世界のプレイヤーである蜜璃には、正規ルートに戻り、座敷牢に閉じ込められ蜜璃の救いを待っている伊黒を助けるという役割が課せられている。

伊黒はただひたすら、自分のことを忘れている恋人を座敷牢で待っている。

伊黒はこの構図をわかっているから、本編では一方的に蜜璃に尽くし、「自分のほうが救われた」と言っているのだ。

ゲームに例えると

蜜璃→プレイヤー

伊黒→プレイヤーの救出の目的であると同時に、プレイヤーの目的を阻むラスボス

という構造になっている。

プレイヤーである蜜璃は、別世界に飛ばされている上に記憶がリセットされるので、経験が積み上がらない。

「ルールXYZがラスボスの例の作品」でさえ、プレイヤーの記憶は積み上がる。それが唯一の武器なのだが、蜜璃にはそれすらない。

伊黒が「生まれ変わらなければ、(死んでおばみつ世界を出なければ)好きとは伝えられない」と思うのも無理もない条件の厳しさだ。

というより、この条件の厳しさを作っているラスボスが、この世界から救出されたいと望んでいる伊黒である、というところもおばみつ世界の難しさだ。

伊黒が救出を望みながらも、自ら「禁忌」を設けてしまう(=ラスボスになる)のは罪悪感が大きすぎるためだ。

そしてその「禁忌を破れない=好きと言えない」ため、伊黒の蜜璃への気持ちは「畏れ多くて遠ざけたくなるもの=信仰」めいている。

禁忌を設け守るのが信仰であり、禁忌を破るほどの情熱が恋愛だという見方をすると、「禁忌を破ることで、初めて信仰が恋愛になる」と考えるのも面白い。

 

おばみつ世界のラスボスは、伊黒の罪悪感

「伊黒が座敷牢から救われる」は、「罪悪感が払拭される=自分の血が汚いと感じなくなる」と同義だが、この罪悪感のプロテクトがかなりキツイ。

伊黒の罪悪感の内容を細かく見ていくと、

①自分が逃げたせいで、一族が皆殺しにされた

②「汚い血」が流れている穢れた体を持っている

この二つの要素からなっている。

 

本編では明言されていないが、髪の質感の描きかたや伊黒が「蛇の呼吸」の使い手であることを考えると、蛇鬼は伊黒の祖先なのではと思う。

この憶測が正しいとすると、「人を殺して私腹を肥やす汚い一族の血」の他に「赤ん坊を喰らう蛇鬼の血」も流れているのだ。

 

伊黒の過去のエピソードは一話だけでサラッとまとめているが、考えれば考えるほど重い。

親族という最も身近である人間からも、鬼からも迫害される生まれながらの被害者でありながら、あたかも自分が加害者であるかのような罪悪感を背負わされている。→自分自身からも疎外されている。

世界のどこにも居場所がない。

 

伊黒と同じ罪悪感キャラの猗窩座が罪悪感から解放されたのは、「自分の弱さを認めて、その弱さに対して恋雪から赦しを与えられた」ためだ。

初めは猗窩座のエピソードで既にやったことだから、伊黒と蜜璃の関係の落としどころは無理心中(伊黒の罪悪感を払拭出来ず、蜜璃が道連れで生まれ変わる)しかなかったのか、と思った。

しかしよくよく考えると、罪悪感払拭方法あるあるである「弱さを認める」は伊黒にはうまく機能しない。

猗窩座は罪悪感の出所が恋雪(他人)なので「罪」に対する赦しが与えられるが、伊黒の場合は自分自身だからだ。

 「赦しを与えてくれる他人」が存在しない。むしろ他人は伊黒にとって罪悪感を助長するだけの存在でしかない。

 だいぶ絶望的な状況だ。

 

 (おばみつ世界における伊黒の設定まとめ)

 ①人間からも鬼からも自分自身からも罪悪感によって疎外されているため、世界における居場所が生まれたときから座敷牢しかない。

 ②座敷牢には「生け贄」として閉じ込められているため、常に命の危険にさらされている。

 ③だから死ぬしかないと思っている。

 ④正規ルートの記憶があり、最初から最後まで蜜璃を思っている。

 ⑤「おばみつ世界」から救出すべき存在であると同時に、「おばみつ世界」を作ったラスボス。

この伊黒の設定を踏まえた上で、プレイヤーとして満を持して登場するのが甘露寺さんである。

 

おばみつ世界のプレイヤーは蜜璃以外では務まらない

本編を見ても分かる通り、蜜璃は「普通」の人であり、誰とでもうまくやっていけるタイプだ。

こんなややこしい世界を自作自演で作る伊黒を、わざわざ選ぶ必要はない。(だから伊黒は蜜璃を巻き込まないために、別世界に跳ばすわけだが)

しかし伊黒にとっては、救い手は蜜璃以外は考えられない。

 

伊黒と蜜璃が一緒に食事をする描写は本編内で二回出てくるが、自分はこの時、伊黒は食事をしていないのではと考えている。

食事がどうこうと言うより、包帯を人前では取れないと推測している。

仮に食事をする段階で包帯を取って、食事が終わったあとにつけ直したのだとしたら、お茶が出ている段階でつけ直すのは不自然だ。

蜜璃が「伊黒と食べる食事が一番美味しい理由」を一緒に食事をすると楽しいなどではなく、「食事をする自分をすごく優しい目で見ていてくれる」と言っているところを見ても恐らくそうだろうと思う。

本編で伊黒の包帯が取れたのは、無惨との戦いの最中であり、細かいことを言えばこれも「取った」のではなく、自然に取れている。

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(引用元:「鬼滅の刃」23巻 吾峠呼世晴 集英社)

「脂の匂いに吐き気を催していた」のに、天丼屋に入っているところに感動。この絵すごく好き。

 

この話で重要なのは、蜜璃は一緒にいる伊黒が飲み食いをしないにも関わらず、自分は大量の食事が食べられる人だ、という点だ。

普通に考えれば「え? 食べないんだ。じゃあ私も…」「食べたいなら食べていいのに、自分のせいで…(罪悪感)」のような流れになる。

日常であるあるな話だが、伊黒はこれくらいの罪悪感の上澄みでも破綻する。つまりほとんどの人間は、伊黒を救うどころか一緒に食事をする、日常で何かを共にすることすら難しい。

伊黒は特大の罪悪感を背負わされていることを初めとして、何かを無理矢理取らされていっぱいいっぱいになっているキャラなのだ。

自分に罪悪感が生じるような他人の言動は一切受け取れないため、「その覚悟や経緯が痛々しく可哀想な」鬼殺隊の女性が苦手なのだ。

食事を取らない人間と一緒に飯が喰える蜜璃は、「一緒にいる相手に、一切の罪悪感を生じさせない」稀に見る特質を持っている。

 

22巻の座敷牢の中が食事の膳で埋め尽くされている描写は、現実とは思えない。伊黒が押しつけられている罪悪感の暗喩だ、と考えるほうが自然に思える。

食事で埋め尽くされた座敷牢から伊黒を救えるのは、この大量の食事(罪悪感)を残さず食べられる人間だけだ。

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 (引用元:「鬼滅の刃」22巻 吾峠呼世晴 集英社)

 甘露寺さんなら余裕そう。

 

 「普通には生きられなかった」伊黒は、蜜璃が「普通の女の子」であることに救われている。

この二人は、「普通」や「食事」を巡る対比のように、ことごとく対照的な存在だ。

伊黒が蜜璃を評して言う「普通」は、「よくいる」「一般的な」という意味ではなく自分は「健全」という語で捉えている。

「健全」とは何かというと、自分を受け入れられているということだ。これも蜜璃を語る上では欠かせない要素で、彼女は「自分自身でいるために」鬼殺隊に入っている。

この点も自分自身から疎外されている伊黒と対照的だ。

蜜璃は谷間や絶対領域を出していようと、とても「健全」なキャラなのだ。

 

 (おばみつ世界の蜜璃の設定まとめ)

 ①プレイヤーである。

 ②伊黒の罪悪感によって、正規ルートから別世界へ飛ばされている。

 ③別世界に飛ばされた瞬間、正規ルートの出来事(自分は伊黒の恋人であること)を忘れる。

 ④伊黒の罪悪感を消失させる(食べられる)能力を持つ唯一の存在。

 

「無限」対「奇跡」の戦い

おばみつ世界における戦いは、「無限」と「奇跡」の戦いだ。(魔女が出てくるあの作品と似ている)

これは、伊黒対蜜璃ではない。

「蜜璃を自分から遠ざけなければならない」と考え、世界を無限に増殖させる伊黒の罪悪感と、「それでも救われ、蜜璃に好きと伝える奇跡を叶えたい」伊黒の恋心の戦いだ。

伊黒のこの葛藤が具現化したものが「おばみつ世界」なのだ。

伊黒の心境は既に「生まれ変わらなければ好きとは言えない=罪悪感勝利」に確定しているため、新たなプレイヤーとして蜜璃が設定されたのだ。

本編では、丸く収まったようでいて「生まれ変わることでしか好きとは言えなかった」(おばみつ世界から脱出できなかった)エンドになってしまっている。

無惨の死にさえ自分の罪悪感を仮託して解消できず、「自分は肉体ごと取り替えなければ、好きな人のそばにすらいてはいけない存在」と思わされたままだった。

こんな風に自分という存在を認識させたままでいるのは、恐ろしいことだ。

「鬼滅の刃」は、こういう恐ろしいことがサラッと描かれて放置されている箇所が多々ある。

「本来の生々しい問題を『鬼』という概念で覆い隠す問題点と、それを百も承知しながら解決しない(できない)現実」という絶望の上に物語が成り立っているところが面白い。

だからこそ色々と考えたくなるところが、自分にとっての「鬼滅の刃」の面白いところだ。

 

鬼滅の刃 14 (ジャンプコミックスDIGITAL)

鬼滅の刃 14 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 甘露寺さんが大活躍する12巻から14巻が好きすぎて、繰り返し読んでいる。

 

「原型」から自律的に無限に世界が創られていくという点は、(自分の中では)新海作品を彷彿させる。

www.saiusaruzzz.com