うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

【アニメ感想】代わり映えしないからこそ、いつでも迎えてくれる場所「空の青さを知る人よ」

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アマプラで「空の青さを知る人よ」を見た。

「公開当時見ておけば良かった」とずっと思っていたので、見れて良かった。

空の青さを知る人よ

空の青さを知る人よ

  • 発売日: 2020/06/10
  • メディア: Prime Video
 

 

全体の印象としては、「誰かに支えられているとはどういうことなのか」というテーマで「こじんまり綺麗にまとまっている話」だった。

テーマは「あの花」と被るけれど、まったく違う角度から見せている。

「少しでも青臭要素のある話は受けつけない」という人以外にはおススメできる。

 

*以下ネタバレ感想なので、未視聴のかたは注意。

 

ネタバレ感想

ひと言で言うと「ある種の人にとって、地元とはどうしようもなく飛び出したい場所だが、同時に自分の一部である場所だ」という話だった。

「あかね」は慎之介やあおいにとって、「地元」が具現化した姿だ。

 

物語の最初に描かれる、あかねとあおいが置かれた現状の閉塞感がリアルだ。

子供のころから大人に至るまで人間関係が変わらない。

寄り合いや仕事とプライべートの境界が曖昧。

学校の先生の進路指導の微妙なやる気のなさ……「成績が微妙な子は当然就職」のようなテンプレをなぞるかのような思考回路。

ひとつひとつは悪いことではなく、むしろいい面もあるのだろうけれど、漆塗りみたいに重ねられると見ていて息苦しい。

この土地で生まれた子供たちは、みんなこういう人生を歩んできてこれからも歩んでいく。

その道を歩んできた大人たちは紆余曲折あれど当たり前のようにそう思い、大人たちが疑いもなくそう思っていることを、自分でも何となく受け入れてしまうことに閉塞感を感じるのだろう、と体感できるようになっている。

極めつけが親を亡くして幼い妹と二人で残されたあかねに、

「あおいちゃん、お姉ちゃんの言うことを良く聞くのよ。これから二人で頑張っていかなきゃなんだから」

このセリフだ。

こういうサラっ言われがちな自然なセリフで、二人が置かれた状況とあかねが背負わなければならない物の重さ、世の非情さを表せるのは、岡田麿里の真骨頂だ。

18の時に慎之介と別れなければならず、そのあとあかねが生きなければならない状況がどういうものであったかが、冒頭で説明しつくされている。

ここまで詰め将棋のように、丹念に「あかねの閉じ込められ具合」が描かれているのだから、あかねの代わりにあおいがこの閉塞感を打破する話なのかと思った。

「空の青さを知る」あかねに感謝しつつ、あおいはそこから旅立つ話なのかと思ったら違った。

 

あかねの状況は、あおいが指摘したようにみちんこが感じていたように、他人はつい「好きなことを選ぶことができなかった状況」のようにとらえてしまいがちだ。事実としては、恐らくそうなのだろう。

しかしあかねはその状況を「他人に振り回されたのではなく自分で選んだのだ。自分は大海は知らなくとも、空の青さを知っている」といい、自分の人生に誇りを持っている。

 

人間関係が生まれたときから代わり映えなく続いていく、周りにいる誰もかれもが昔から続く現状維持を望んでいる息苦しさはあれど、その「変わらなさ」で飛び出した人間をいつでも温かく迎えてくれる、そしてまた飛び出すことを許してくれる。

そういういつでも帰れる場所があるからこそ、思い切って広い世界に飛び出していける。

あかねの現実離れした人格者設定は、この話のそういう「地元観」を表している。 

 

「空の青さを知る人よ」はとても温かく力に満ちた話だ。

ある場所に閉塞感を感じて飛び出すことも否定しないし、その場所に残ることも否定しない。

「若いころ夢を追いかけて情熱に満ち溢れていた自分」と「歳をとって現実を知り、葛藤しながらもそれなりに今を受け入れている自分」が対立軸となっているが、そのどちらも否定しない。しんのと慎之介も、どちらかが肯定されどちらかが否定されるのではなく、どちらの自分も否定せずに統合された。

「自分がこれまでやってきたことが、例え若いころ夢見たようなものでなくとも否定されるものではない。どんな今であるにせよ、とにかくお前は前に進んだのだ。そして今が結論だ、と思う必要もない。情熱と夢を思い出すたびに、今はまだ途中だ、と思っていい」

年を取るとどうしてもそこにすがりたくなる諦めや悟りや冷笑に、喝とエールをくらわすような話だった。

若いころの自分に「お前になってもいいかもしんねえ、って思わせてくれよ」って言われるってしんどいな。実際に言われたら、その場で気絶しそうだ。

 

この話は「昔の人間がそのまま残っている」という突飛な設定の割には、物語が終わっても余り現実に大きな影響がない。

「慎之介の心構えが変わった」程度の話だ。(変わったからあかねと結婚したのでは、ということはおいておいて)

何となく人生はそういうものなのかもしれない、と思った。

「自分の内部ではすごい変革が起きた」と思っても現実には余り変化はなかったり、逆に現実に変化がなくとも「自分の内部で何かが起きた」と思ったときに見える景色が変わったりする。

そういうことの連続だったような気がする。

これからもそういうことが続いていくんだろうな。

 

余談

見たあと気持ちが浄化されるようないい話だったけれど、多少不満もある。

一番の不満は、慎之介に余りに魅力がないことだ。

「しんの」との対比で魅力が失われてしまっている設定にしているのは頭ではわかっていても、見ていてつまらないキャラだった。

大抵こういう場合、「魅力が失われている設定」でも何かしら魅力があるものだけれどな。

「お前になってもいいかもしんねえ、って思わせてくれよ」

そりゃあこういう破壊力のあるセリフのひとつも言いたくなる。

しんのと統合されてからのシーンがほぼないため、あかねと結婚するのもイマイチ納得がいかなかった。

あか姉が好きで幸せならそれでいいんですけれど。

 

あおいも主人公にしてはキャラが尖っていて、好き嫌いが分かれそうなタイプだ。

周りもとんがっているならいいのだけれど、あかねを始めツグも大滝さんもあおいに寛容なので、それをいいことに周りに甘えているように見えてしまう。自覚しているところはいいんだけれど。

それにしてもツグはいい男だ。

途中から慎之介としんのの統合よりも、ツグとあおいの話が見たいと思ってしまった。

大滝さんもいい子だし、脇役のほうが好きなキャラが多かったな。

小説 空の青さを知る人よ (角川文庫)

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  • 作者:額賀 澪
  • 発売日: 2019/10/10
  • メディア: Kindle版