2021年8月22日に放送されたNHKスペシャル「ミャンマー衝撃の映像」を見た。
市民たちがそれぞれ取った、動画や写真をつなぎ合わせて状況を把握する試みをしている。
ネットも軍の監視を受けて情報統制が行われているらしいので、それをかいくぐった貴重な映像だ。
ここで検証されたことが本当だとしたら、考えていたことよりも十倍は厄介でひどい状況だ。
なぜ軍がこれほど過酷に自国民を弾圧できるのか。
軍の内部でも何か疑問は出て来ないのか。
軍部のほうが選挙で選ばれた政治家よりも圧倒的に力が強いように見えるが、どうしてこんなパワーバランスになっているのか。
こんな風に弾圧をしたあと国をどうするか、何か展望があるのか。
など疑問が山のようにあったが、そもそも前提が違うのだと言うことに気付いた。
「まがなりにも国家に所属する軍隊が、権力を握るためにクーデターを起こした」と考えていたが、そもそもミャンマー軍は政治からは……というより国家(国民)から完全に切り離された組織のようだ。
「国の軍隊」というより、「国の内部に存在する、国家とはまったく利害の方向性が違い外部とは隔絶した独立した集団」というほうが感覚としては近い。
「国(民)を守る」という意識は、建前としてさえ共有していない。
現代日本で生きている感覚だと「軍」としてもかなり異常な成り立ちで、こういう組織が何故、「国の軍隊」として国の内部に存在するのか理解できない。
今まではロヒンギャなども含む少数民族との闘争や緊張した関係から、軍が強権を持つに至ったと思っていたけれど、どうもそうではないようだ。
サラっと調べた程度だと、過去に何度もクーデターが繰り返され、軍が強権を持つに至った経緯があるらしい。
今年4月9日のミャンマー南部の街・バゴーの制圧の様子には言葉を失った。
街の主要な道路を抑え込んで包囲網を敷き、夜明けと共に警告も呼びかけもなしに行動を始めている。
自国民のデモを抑える、というレベルではない。
武器を持った敵対勢力に対する掃討戦を行っている、と言われても違和感がない。
土嚢を積んで歌を歌うことで抗議している住民に対して、40ミリグレネードを使用している、それに対して市民は手製の花火で威嚇して応酬している、という話はそんなことがあり得るのかと思う。
ミャンマー軍とはどういう組織なのか、現状について軍内部の人間はどう思っているのか、という疑問に脱走した元将校が答えている。
ミャンマー軍に所属している軍人と家族は、外の社会からは完全に切り離された場所で監視されて生活している。
情報は軍の統制下にあるものしか目を通すことはない。
そこでは「民主化を求める市民は悪である。弾圧しなければ1988年の民主化運動の時のように、軍の人間が市民によって殺される」という洗脳(と表現していた)を受けている。
自分が想像する「軍」ではなく、ある種の思想集団に近い。
軍は内部で巨大な利権構造が出来上がっており、関係各企業の株主の九割は軍関係者で巨額の配当金を受け取っている。
こういう構造にNLDがメスを入れようとしたために、軍はクーデターを起こした、というのが反クーデター側の主張だ。
反クーデター側の主張を鵜呑みには出来ないにしても、生き残った人の証言、脱走した将校の証言、映像を見ると、少なくとも軍が自国民を弾圧することに特に抵抗がない組織であるということは確かなようだ。
最初は平和的なデモを行っていた市民も、武器を手に取りその使い方を学ぶために、ゲリラたちとつながるようになる。
「平和的な手段をとってもただ殺されるだけだ」という言い分はわかるが、泥沼化する内戦の入り口を見せられたようで暗澹たる気持ちになった。
ミャンマーはずっと軍事力によって支配されていた国で、軍事力に軍事力で対抗して仮に成功したとしても「力」の内実が違うだけ同じことの繰り返しでは、と思う。
かと言って「どうすればいいのか」ということはわからない。
コロナだけでも大変な時に……というより、コロナによる動揺や世相の変化がこういうことを引き起こす土台を作っているのかもしれない。
日本も他人事ではないかもしれない。