うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

中学時代の自分の度肝を抜いた江森備「私説三国志 天の華・地の風」を読み始めたが、これを理解するには当時の自分が子供すぎたと思った。

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今読んでいる「グイン・サーガ」×増田で「鶏肋」の話が出てきた相乗効果で、突然「天の華・地の風」のことを思い出したので、どうなったか見にいった。

 

全十巻で完結していた。

Amazonで九巻のレビューを見ると凄いことになっているとのことなので興味がわいた、さらにkindle版の一巻が440円と安価だったため購入して読んでみることにした。

作画は小林智美。孔明が美しい。

 

中学時代に、今で言う「腐女子」の子が滅茶苦茶ハマっていた、というところから内容を察して欲しい。(そういうジャンルが苦手、というかたはそっ閉じ推奨)

ある意味「蒼天航路」の逆(?)を振り切っている。

「蒼天航路」も途中で読むのを止めてしまったが(それこそ孔明が出てきたあたりで)一から読み直したい。

 

粗筋は「三国志」の流れをなぞっているが、そこに同性同士の愛憎劇が加わっている。

孔明が呉に単身で乗り込んだ赤壁前夜から話が始まる。孔明は、昔、董卓の待童をしており、そのことをネタにして周瑜にゆすられて関係を持つ。

文章で書くとすごいな。

 

中学時代、周りで読んでいる子が多かったので、自分もその場で読ませてもらった。

 

度肝を抜かれた。

牀の下に女細作(隠密)が隠れている中で濡れ場が行われるという凄い状況から話が始まる。

横山三国志が大好きな自分が、突然、孔明と周瑜の濡れ場を読んだのだ。

目が点になった。

 

この当時は、BLというジャンル自体をよく知らなかった。

子供だったので同性同士がそういう関係になることが理解できなかったし、そういう設定がないキャラクター(歴史上の人物だが一応)で同性同士の性愛の話を作る、ということ自体が想像の枠外だった。

 

「え? 孔明と周瑜? 誰か女性の登場人物が化けているとか……ではない?」

何か読み落としたのかと思い、三回くらい冒頭のシーンを読み返した記憶がある。

「自分が知っている三国志と違う」と思い、そのまま返して終わってしまった。

 

そして中学時代からン十年たったいま読んでいる。

中学時代の自分が読まなくて正解だった。たぶん、冒頭のシーン以上に、そのあとの展開が理解出来なかったと思う。

 

一巻を読んで、この話は怜悧な理性と知性を持ちながら、暗い過去から生まれた情念や執着や葛藤、矛盾、白黒つけられない生の愛憎の狭間で揺れ動き煩悶し、時にその知性と感情が同時に出ることすらある、孔明という一人の人間を隅々まで描こうとしているのだと思った。

 

何よりいいのは、孔明をそういう風に描くための世界観がしっかり確立しており、話の雰囲気、文章、登場人物の性格の全てがその世界観を構成するための不可欠な要素になっているところだ。

設定は好みが分かれるだろうが、世界観の一貫性と完成度という点では群を抜いている。よほど苦手という人以外は、設定で切ってしまうのはもったいない。

 

真鉄の剣がはじく月の光が、もし形になるとしたら、おそらくこの様になるだろう。

(引用元:「私説三国志 天の華・地の風1」江守備 復刊ドットコム)

 

孔明の容貌を表した文章。言葉の選び方が好き。

 

自分が持っていた先入観に反して、基本は「三国志」の出来事を忠実に追っている。

背景や状況、人物の説明がそれほど詳しくないので、大まかな流れを知っていた方が話についていきやすい。(驚いたが、作者は「三国志」を知らず、正史や演義を読みながら書いたらしい)

 

恋愛シーンは思ったよりずっと少ないが、冒頭に代表されるように、直接的な行為の描写以上に心情や状況が凄まじくエロい。

興味がある人は実際に読んでみて欲しい。

 

愛情や憎しみ、嫌悪、欲望、執着や依存は全て同じものであり、それらに支配される自分に対する忌まわしささえも、人に強烈に引きつけられる気持ちを止めることは出来ない。

理性では抑えきれないものが、こんな風に表現できるのかと思う。

 

難を言えば、世界観がしっかりと構築されているだけに、たまに出てくるカタカナ語が悪目立ちしすぎている。(スパイやドックなどはまだいいが、プロフェッショナルはちょっと)

間諜や港湾の補足説明として出てくるのでわかりやすいようにという配慮だと思うが、ないほうがいいと思った。せっかくの閉じられた完璧な世界観を損ねていて、すごくもったいない。

今のところ気になる点はそれくらいだ。

 

言葉では区切ることが出来ない人の感情の複雑さを理解するには、当時の自分は子供すぎた。

二十代の時でさえ「結局、好きなのか嫌いなのかどっちなんだ」というしょうもない感想を言いそうだし、何ならこの年齢になってもいまいちよく飲み込めない部分がある。

周瑜の死に方には「こええ」という小並感しか出てこない。

中学生でこの内容を理解してのめり込んでいたMちゃんは、いま考えると凄いな。

 

作者の師匠である栗本薫の「グイン・サーガ」と並行してのんびり読もうと思う。

 

続き。二巻途中まで読んだ。

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