うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

「ゲーム・オブ・スローンズ(GOT)」をシーズン8まで完走した感想。主にデナーリスについて。

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*この記事には、「ゲーム・オブ・スローンズ」の最終章までのネタバレが含まれます。未視聴のかたはご注意ください。

 

 

「ゲーム・オブ・スローンズ」の最終章をやっと見れた。

 

オープニングのギミックに感動

オープニングのギミックが大好きで何度も見てしまう。

その話の舞台になる場所が出てくることはもちろん、その話の時の状態も表していてこだわりを感じる。

今回はどうかな、と思っていたら、ウィンターフェルの城内に入って、キングスランディングの鉄の玉座で終わる作りに感動してしまった。

否が応でも気持ちが盛り上がる。

 

闇堕ちデナーリス

ちらほら耳に入ってきたネタバレで闇堕ちすることは知っていたが、まさかあそこまで徹底してやるとは思わなかった。

 

デナーリスの中にそういう素質があり、それが何かのきっかけに爆発したに過ぎない、という風に物語上はなっていたが、自分が見た感じだと周りがそうするように追い詰めたように見えた。

 

ティリオンが「今までデナーリスが人を罰してきたときは、相手は悪者だったから自分たちはそれを正しいと拍手を送った。だから彼女は自分がやることは正しいと思うようになった」ということをジョンに言っていたが、自分はむしろ「今までそれなりに理由がなければ人を罰しなかったデナーリスが、何故今回に限ってこんな暴挙に出たか」という考え方をティリオンがしないのは何故なのか、と思った。

「誰がデナーリスをああいう風にしたか」という点において、ティリオンが自分の役割を免罪したいのではないか。

自分はそこにデナーリスが闇堕ちした原因を見た。

 

ティリオンもヴァリスもジョンも、何だかんだ言ってデナーリスのことを信用していなかった。「こういうことをやる人間だ」「やってもおかしくない」と思っていたから、その通りにしたんだと思う。

 

カラマーゾフの兄弟」のフョードルが言っていた、この心境だ。

わたしはいつも、人さまの前に出るたびに、俺は誰よりも下劣なんだ、みんなが俺を道化と思い込んでいるんだ、という気がするもんですから、そこでつい「それなら、いっそ、本当に道化を演じてやれ、お前らの意見など屁でもねえや。お前らなんぞ、一人残らず俺より下劣なんだからな!」と思ってしまうんです。(略)

もとはと言えば羞恥心が原因でして。暴れたりするのも、もっぱら猜疑心のせいなんです。

だって、かりにわたしが入っていっても、みんながすぐにわたしを感じのよい聡明な人間と確信しさえしていたら、わたしだってそのときはさぞ善良な人間になるでしょうからね!

(引用元:「カラマーゾフの兄弟」フョードル・ドストエフスキー/原卓也訳P80 新潮社/太字は引用者)

 

特にヴァリスは、デナーリスがこういう人間であることを期待すらしていたと思う。

鉄の玉座につくには、ジョンのほうが都合がいいからだ。

 

サンサやアリアのように知らない人間にとっては、デナーリスは狂王の娘であり、ドラゴンという強力な武器を従えている。連れている兵は、ウェスタロスの人間にとっては文化が違い馴染みもない穢れなき軍団とドスラク人だ。

加えて北部の人間はよそ者を嫌うという特色がある。

不信感に満ちた態度になるのは仕方がない。

グレイ・ワームもミッサンディも「ここには自分たちの居場所がない」という話をしていた。

そういう中でデナーリスたちは命をかけて戦って、我が子であるドラゴンの一頭失っている。

ジョラーの助言を受け入れてサンサと話をしにも行っている。

 

ウェスタロスの人間とデナーリスの間に立つのがティリオンやヴァリス、ジョンの役割だろうと思うのだが、この三人は役割を果たそうとしない。

役割を果たすどころか、ジョンの生い立ちがわかるや「デナーリスに人格的に問題があることはわかっていた」と言い出すのだから(そしてデナーリスが「自分を窮地に陥れることを意味する」とはっきり言っていることを、ことごとくするのだから)デナーリスが不信感でいっぱいになるのは当たり前だろう。

この三人は口では何のかんのと言いながら、デナーリスの立場や心情を慮ろうという様子が一切ない。

デナーリスはウェスタロスの人の絆を見るたびに不安そうな顔をしているのだが、ジョンは「大丈夫だ。自分も最初は嫌われていた」*1というばかりで何もフォローしない。

サンサと話すように説得したのもジョラーだった。

 

シーズン7くらいから、ティリオンやヴァリスはデナーリス(ドラゴン)の力が、自分たちの手に負えないということに薄々気づき始めている。

だが夜の王と戦うためにはデナーリスの力が必要だったので、自分たちの懸念を誤魔化し、従い続けた。

ジョンはデナーリスを愛していたので、そういう都合の悪い部分はサンサやアリアが警告しても気づかないふりをした。 

 

この三人のデナーリスに対する「何もしなささ」「無能さ」は、立場やこれまで描かれてきた人物像から考えると不自然に感じる。

「何も出来なかった」のではなくて、「ああいう結果を期待して何もしなかったのではないか」と思えてしまう。

いわゆる「期待の堆積」によってデナーリスを暴発に追い詰めたように見える。

 

ストーリー的にはまったくそういう文脈ではないので、たぶんメタ視点で見たときの作り手の思惑がそのまま出てしまったんだろう、と思う。ティリオンの「俺たちが彼女に喝采を送った」みたいなセリフも、メタ視点が強い。

 

「ゲーム・オブ・スローンズ」は、どの登場人物も「愚かで正しくない」、先が見えない、限られた選択肢の中で必死に生きているから面白いと思っていた。

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この結末自体は面白かったし、アリだとは思うが(シーズン8は単体見れば、ものすごく面白かった)「愚かさと正しくなさ」の業を全てデナーリスに背負わせる展開や見せ方は余りに不自然だし、これまでの人物やストーリーの描写を見ても納得がいきづらい。

 

デナーリスの暴発の責任の半分くらいは、ティリオンとジョンで分け合うべきだろう。

「二人はちゃんと分け合っている」という風に見せているつもりなのだろうが、自分の感覚だと「二人の無能さ」の見せ方が物足りなかった。

特にジョンはわざとか?と疑いたくなるくらい、やったほうがいいことはやらず、やらなくていいことばかりをする。「何が『マイクイーン』だ、寝言はいい加減にしろ」と、見ていてイライラした。

サーセイも割りを食っていて、あれだけあっさりやられると、ただの間抜けにしか見えない。

 

「デナーリスの闇墜ちエンド」を成立させるために、全員突然無能になっているのが残念だ。

主要登場人物の全員が貧乏くじを引いているので、もう少しうまいやり方があったのではと思ってしまう。

 

良かったのはスターク家の生き残り三人組だ。

特にサンサの株が自分の中でうなぎ上りだ。

まさかあのサンサが、こんなにしたたかで冷徹で格好良い女王になるとは思いもしなかった。

王冠を戴いたときのドヤ顔も良かった。

ティリオンがブランを王に推したときの「物語性」という意味では、サンサのほうがあると思うけどな。

父親を目の前で殺されて捕らわれの身になったが、そこから脱出し、故郷を取り戻し、夜の王に立ち向かって人々を守った。

まあブランは「人々の記憶の集積だから」なのだろうけど。あと女性はもうこりごり(失礼)というのもあったのかもしれん。

 

アリアが最後にサンダーの名前を呼んで、感謝の言葉を伝えたのも良かった。

サンダーは、GOTの中で五指に入るほど好きなキャラだった。アリアと二人で、また旅に出て欲しかったなあ。

 

ジェイミーとサーセイは、まあこうなるだろうという納得感があった。

この二人、最初はどういう経緯で関係を持ったのだろう? 気になる。

 

ティリオン、ダヴォス、ブロン、サム、ブライエニーの五人が話し合う場面が面白かったので、このメンバーが国造りをしていく後日談を見たい。

気は合わないけれど仲が良さそうなところがいい。

 

何だかんだ書いたが、色々含めて最終章まで面白かったし、納得の終りかただった。

 

 

*1:恋人と妹の確執の板挟みになっている男の態度としてはリアリティがあるが、この場合は家族だけの問題ではないからなあ