うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

栗本薫「グイン・サーガ」36巻まで。モンゴールの復活するも大丈夫か? アリ、カメロン、イシュトの三角関係など。

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前回、30巻まで。

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モンゴールが復活するも……大丈夫か?

27巻でアムネリスを奪還したあとから、モンゴールの復活までが思ったより早かった。

ヤヌスの戦い一戦だけで復活したが、意外と国の存亡は一戦だけで決まってしまうものなのかもしれない。

楚漢の争いを終結させた垓下の戦いや、桶狭間の戦い、ミッドウェー海戦などを見ると、一戦だけで国の存亡や歴史の流れそのものが変わってしまう戦いは多い……というより、そういう意義のある戦いだから歴史に残っているのか。

 

アリが言った通り、モンゴールの場合は、戦でどうにかするというよりは、周辺国がいかにモンゴールを認め、クムに与さないかが重要だから、戦よりも政略が要素として大きいのだろう。

だがその割には、国を取り戻したあとのことを誰も考えていない。

 

いくらなんでもいままさに国を取り戻したばかりのモンゴールとして、もう少しすることがあるのではないか、とカメロンとしては云いたいところである。(略)

この国は本当に大丈夫なのだろうか、それが、この二日間トーラスに滞在してみて、カメロンの抱いたひそかな危惧にほかならなかった。

(引用元:「グイン・サーガ36 剣の誓い」栗本薫 早川書房)

 

たぶん、この辺りが歴史上、佞臣が台頭する素地なんだろうな。

「管理運営」という地味な実務的なことに向いている人がいないと、国(というより組織)は成り立たない。

組織が滞りなく動くシステムを整えて、それを管理する能力は、戦に強いとか政治家として優秀などとはまったく別の素質なのだと思う。

「銀英伝」のキャゼルヌや「項羽と劉邦」の蕭何がこの分野のエキスパートだ。

 

「家事が仕事よりも簡単」みたいな言説を昔はよく見たが、家事はこの「組織の管理運営」の一番ミニマムな形なので、向いていない人はけっこう大変だ。

目に見える「すること」のひとつひとつは簡単なことばかりに見えるけれど、本当にしていることは、ひとつひとつの雑務全てが効率的に遅滞なく動くように「維持すること」だ。

 

「目に見えること」だけで「地味でつまらないこと、誰にでも出来る面倒くさいこと」と思って「やりますよ」という人に押し付けると、組織自体がその人がいないと回らないブラックボックスになり、無事に(?)乗っ取られる。

 

モンゴールの描写は「管理運営」を面倒くさがっている様子、そんなものは自然と回るものだとナチュラルに信じている人間の心模様、そういう人はそもそも実務的な能力に欠けているということがよくわかる。

アリは国を乗っ取ろうとしてそういう実務は全て引き受けているけれど、そういう思惑があっていてさえ、いざ全てを引き受けると一人では回せなくなる。

こういう「面倒くさいうえに地味な仕事」は、出来る能力がある人の下へどんどん集まってしまうし、しかも出来ない人は「(目に見えるすることしか見ていないから)自分だってやろうとも思えば出来るけれど、面倒くさいから押し付けているだけ」くらいの認識だから評価もされづらい。

 

自分はこういう色々な種類の仕事を調整することが苦手なので、出来る人は尊敬してしまう。

蕭何が好きなのも、多分にそういう尊敬の念がある。

 

アムネリスはイシュトに惚れている場合ではない。

いま国が復活するかどうかの瀬戸際で、その後はその国を維持できるかどうかの瀬戸際なのに、イシュトへの恋に溺れて何もかも見えなくなっているアムネリス。

この人は、話が進めば進むほど「なんだかな~」と思う。「何だかなあ」の底が見えない。

 

もっと国のことに目を向けるべきでは、というのもあるし、いまは夫の座を空けておいたほうだよいのだから、誰にも惚れないように気をつけるべきでは、とも思う。

「気をつけていても恋に落ちるときは落ちてしまう」のかもしれないないが、自分から惚れに行っている感があるところが何とも。

カメロンが言う通り「二十歳の娘では無理もない」とも思えないこともないけど(そうかなあ)、フロリーのことも「いなくなったらもういいや」となるところにはがっくりする。

「もう少し、言ってくれれば私だって宿下がりを許した」と言っているが、いやフロリーが頼んだのに、お前「絶対に許さない」って言っていたよな?

フロリーが不憫すぎて辛い。

 

ナリスにあんなに夢中だったのに、「イシュトへのこの気持ちに比べたら、あれは恋ではなかった」というのはちょっと笑った。

 

超パリピ陽キャのイシュト。

(つまらねえ。ここは何も面白いことがない。誰も、誰もおれのダチがいやがらねえ)(略)

いつも彼のまわりにはさまざまな仲間たちが実はいたのだった。その仲間たちは彼をこよなく崇拝し、愛し、そして彼もまた、かれらをこの上なくいとしく思って心にかけた。

彼とかれらにとって人生はお祭り騒ぎの毎晩であった。

酒宴をし、略奪し、のんだくれて大さわぎをし、戦うのも逃げるのも全て一緒だったのだ。

(引用元:「グイン・サーガ35 神の手」栗本薫 早川書房/太字は引用者)

 

イシュトについては、これまでさんざん「若い」「まだ子供」と言われ続けてきたけれど、確かに「はしゃいでいる、超陽キャの二十歳くらいの若者」だ。

毎日毎日、友達と一日中遊んで、明け方まで飲んで大騒ぎしまくる。

 

最近、「若いときのエネルギー」というのは体力よりは持続力だとつくづく感じる。

飲み続ける、遊び続けるというと体力の問題に聞こえるが、本を読み続けるなども若いときは集中すると何時間でも読んでいられたけれど、今は目が疲れて読んでいられなくなる。

あと集中力というか、吸収力が保たない。

 

この「若さ」こそがイシュトの魅力だとはわかるけれど、王にはまったく向かない。

「大公や王になってから」ではなくて、将軍になって組織に入った途端そう思うのは、自分をわかっているなあと思った。

アムネリスが自分に合わないことにも、初めから感づいている。

そしてイシュトがそう感じていることに、アムネリスはまったく気づいていないところがまたもやなんだかなあ。

 

アリ、イシュト、カメロン

カメロンはイシュトに親子的な愛情を抱いているだけで、アリの当てこすりは完全な言いがかりだと思っていたけれど、イシュトとカメロンがひと晩飲むシーンは、完全に恋人同士の雰囲気だな。

年上の包容力がある彼氏と彼氏に甘える彼女の会話だ。

自分の目が邪になっただけ……ではない、と思う。

 

アリの執着については、そんなものじゃないかなと思ってしまった。

現実でいたら迷惑だろうが、創作の中ではこういう執着系のキャラは嫌いではない。

相手がイシュトなところが、イマイチ共感できないけれど。

 

 

この後はリンダとナリスの結婚か。

37巻を読み始めたら、意外とイチャイチャしていてびっくりした。

 

 

次。41巻まで。

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