うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

栗本薫「グイン・サーガ」41巻まで。天才ヨナの登場、アリの大活躍、シルヴィアがさらわれた、など。

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「グイン・サーガ」41巻「獅子の星座」までの感想。

 

前回36巻まで。

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天才ヨナ登場

記憶だとナリスとリンダの二人は、婚約~新婚期間も落ち着いているというイメージだったが、まったくそんなことはなかった。

今回読んだら、マリウスとタヴィア以上にバカップルだった。記憶は当てにならない。

 

37巻の見せ場は、ナリスとヨナの出会い→世界の秘密が見えてくるところなので、他の事がうろ覚えなのは仕方がない。

ナリスとヨナの初対面は、いつ読んでも興奮する……というより、ヨナに出会ったナリスの興奮が乗り移る。

この人は私の求めていた人だ。

このやせた若者、苦行僧のようなおもざしをしたヴァラキアの若者は天才だね。

(引用元:「グイン・サーガ37 クリスタルの婚礼」栗本薫 早川書房)

 

ジャンルは色々だろうが、「やっと自分が興味があることを、同じテンションで全力で語り合える人に出会えた」というのは「オタクあるある」だ。

ヨナも「おまっ、ちょっ、何ページ喋るんだよw」という感じだしな。

ナリスは色々なことに秀でているから一見そうは見えないが、基本的には「陽キャに完璧に擬態しているオタク」だ。

 

このときのヨナの話で、だいぶ「世界の秘密」が見えてくる。

カナン帝国が栄えていた時代に、別文明の宇宙船が墜落してカナンを滅ぼしてノスフェラスを作り、その遺産があちこちに残っている。

パロ聖王家は恐らくその時の星船の乗員の子孫で、「星船墜落→カナンの滅亡」や古代転送機の存在を基に「ヤヌス十二神の神話」を作り出した。

グインはその文明元の王であり、何かの罪で記憶を消されて流された。

 

「高次の存在をそれより低い次元の存在である人間がごく一部分だけを認識して、その認識に基づいた解釈がストーリーの世界観となっている」という造りは、クトゥルフ神話を用いた「魔界水滸伝」もそうだ。

「高次元についての、人間の認識の限界が世界観になる」

という発想は、クトゥルフ神話の影響が強いのかもしれない。

それを下部の次元から見上げる形でストーリーを構築して見せられるのは、正に天才の技だと感嘆してしまう。

 

昔は作者がナリスやイシュトに入れ込んでいて、「自分は特別」と言わせているのが鼻もちならないなあと思っていたが、今は仮に作者がナリスと自分を重ねてそう言っているのだとしても(ナリスを滅茶苦茶偏愛していたしな)「確かに」としか思わない。

ナリスやイシュトばりに傲慢なことを考えていたとしても、これだけの才能があったらそりゃそう思うよなと思ってしまう。

 

ナリスもイシュトも「夢見る少年」であり、リンダが二人のその部分を愛しているところを見ても、「グイン・サーガ」は基本的には(実年齢は関係なく)「心の若さ」「夢を見続ける少年の魂」に価値が置かれている。

「少年の心を持つ男がモテる」は、やっぱりそうなのかなあ。

 

アリの大活躍

昔は「イシュトなんかに惚れこみやがって」とがっくりしていたが、いま読むとイシュトに執着しているアリも面白い。

禍々しさがただ漏れなところが、特にいい。

アリは「醜いから」「イシュトに惚れているから」皆から忌まれているのではなく、それを超えて人間離れした恨みつらみと妄執で凝り固まっている、人間というより暗い欲望の塊の暗喩として繰り返し描かれている。

ダリウスやマライア皇后のような悪党に対しても、やったこと以外は寛容なグインでさえ、アリを見た瞬間に「あれはマズイ」とイシュトに忠告している。

 

昔は「イシュトが『僭王』になるのは、全部アリのせいになるのか」と思っていたけれど、アリはかなり早い段階で死ぬ。

イシュト自身にそうなる素質があって(その点については描かれていたし)自分で選んだ方向に行くのであって、アリはあくまできっかけに過ぎない。

「無邪気で純粋なイシュトを、アリの妄執が闇堕ちさせた」という文脈が気に食わないと思っていたが、意外とそんなことはない……というより、「イシュトの中に潜む暗い魂こそ、アリの妄執に形を与えた」と言えるかもしれない。

そう死にたがるものじゃない。(略)

なぜ自分がそう云っているのかわかるかね。

怖いんだろう、私を挑発してまんまと殺されてしまえば、まあ死ねばそれ以上苦しめられることはないからね。(略)

お前は苦痛を恐れているんだろう。死んでしまえばそれだけのことだと自分を一生懸命勇気づけているんだね。(略)

私はこんなに小さいが、誰よりも強いんだよ。人間の心についても、体についても何もかも知っているからね。

(引用元:「グイン・サーガ39 黒い炎」栗本薫 早川書房)

 

カロン相手にイシュトへの妄執を話すアリは輝いているな。(悪い意味で)

こういう暗い執着はけっこう好きだし、そこから生まれる妄言も聞いていて楽しい。

現実ではもちろんごめんだが、創作なのでこういうのもアリ。(アリ)

 

シルヴィアの誘拐

イシュトは自分でアリと組むと決めて闇堕ちしているのだからいくらぶつくさ言っていても大して同情は出来ないが、シルヴィアは可哀想で仕方がない。

みんな「皇女としての自覚がない」と責めるが、二十歳前の世間知らずの女の子が百戦錬磨の男に近づかれて全力でくどかれたら抵抗するのは難しい。ましてやわざわざ世間知らずに育てているのだから。

 

アキレウスが「父としては凄く心配しているが、皇帝としてはそうは言えない」という葛藤で苦しんでいるのがわかるが、「娘の名誉は、回復不可能なまでに地に落ちた」「こうなった以上嫁の貰い手がない」ということを手を変え繰り返し言うのはどうなんだ。アキレウスの悲嘆は「女性は貞淑であることが重要」という基調があるから、聞いていて白けてしまう。

ケイロニアの男たちの女性観は、読んでいて毎度うんざりするな。

 

ナリスのために色々したり(穏当な表現)スカールに半裸で迫ったりしたリギアや、次々と恋人を変えるフェリシア夫人が、陰口は叩かれても表向きの地位は揺らがないパロはその点では洗練、成熟している。

去り際に「離れている間は、別の恋人を作って間に合わせておけ」って言うスカールなんて、格好良すぎだろ。(別の恋人がヴァレリウスだったら良かったのに……)

 

皇女でさえなければ私が町の片隅のちっぽけなマリニアだったところで、何も嘲笑われずにすんだのに。

そうしてきっと、こんなアムネリアをいける場所はうちにはないから、小さないマリニアのほうが似合っているといってくれる優しい町の男に摘まれて小さな町の家の庭の片隅で咲いて大切にされることもできたでしょうに。

(引用元:「グイン・サーガ40 アムネリアの罠」栗本薫 早川書房/太字は引用者

 

シルヴィアの嘆きが健気すぎて死ぬ。

シルヴィアのこの述解をタヴィアは叶えたから、余計に不憫に思える。

対シルヴィア観に関しては、完全にグインと一致しているけれど、グインも結局は受け止めきれないことを知っているからなあ。

「七人の魔導師」で売国妃ルートが確定していなければ違ったのだろうか。

 

次回は42巻からだけれど、この辺りから記憶がだいぶ怪しくなってきている。ほとんど初読なので楽しみだ。

 

「獅子の星座」っていうタイトル格好いいな。