全29巻読み終わった感想。
上の感想で語った通り「AKB49~恋愛禁止条例~」は、ヒロイン陣がとても魅力的だ。
特に主人公・浦山実に深く関わる吉永寛子、岡部愛、有栖莉空の三人は、それぞれまったく別の魅力があって甲乙つけがたい。
一人一人の振り返りとどこが好きかを語りたい。
*ネタバレ注意。
サリエリ系譜の努力型。主人公以上に成長するメインヒロイン吉永寛子。
主人公・浦山実が、物語の最初から最後まで一途に惚れこんでいるメインヒロイン吉永寛子。
内気で大人しい寛子の「アイドルになる」という夢を叶えるために、実は女装して女性アイドルグループに入る。
AKBに入った目的も「寛子をセンターにすること」であり、「(付き合ってくれるまで)一生だって待てるよ」と言うなど、ちょっと引いてしまうくらいすさまじい惚れこみぶりだ。
物語前半の寛子は、ただの清楚系テンプレヒロインにしか見えず、実の恋心にほとんど共感できない。
(引用元:「AKB49 ~恋愛禁止条例~」1巻 元麻布ファクトリー/宮島礼吏他 講談社)
いや、まあ可愛いけど……。
魅力的で個性的な女性陣に囲まれている中で、なぜ寛子?というヒロインとしての魅力のなさが、寛子のアイドルとしての個性のなさ、面白くなさと重なっている。
これが後半の寛子の覚醒と成長につながっていることには驚いた。
前半の寛子の大人しさ、主体性のなさは、後半の展開へのフリだったのだ。
寛子を成長させるために、みのりがあえて壁として立ちはだかることを決意し、その決意に寛子が応えるという展開が熱すぎる。
私が今日まで頑張ってこれたのは、いつも一歩先を行くあなたの背中があったから。
(引用元:「AKB49 ~恋愛禁止条例~」23巻 元麻布ファクトリー/宮島礼吏他 講談社)
人からもらった金メダルで喜べるほど、私は今まで何もしてこなかったわけじゃない!
(引用元:「AKB49 ~恋愛禁止条例~」23巻 元麻布ファクトリー/宮島礼吏他 講談社)
「センターを『譲ってもらう』なんて屈辱でしかない」という誇り高さ。
自信のなかった寛子が、こういうセリフをみのりにぶつけるまで成長する。
そして、寛子と言えばこれだ。
(引用元:「AKB49 ~恋愛禁止条例~」19巻 元麻布ファクトリー/宮島礼吏他 講談社)
あがり症を克服するために、家でも人の視線に囲まれて暮らすという莉空もドン引きした驚きのアイディア。
このキ〇〇〇ぶりには痺れた。
「何も持たない」(と本人が思っている)がゆえの手段の選ばなさ、振り切りぶりを見ると、寛子はメインヒロインでいながらサリエリ型(天才に憧れ憎む努力型)でもある。
浦山実にとってはメインヒロイン(光)、浦川みのりにとってはサリエリ型(影)と、主人公に対して相反する両面を持つ、とても面白いキャラだった。
ストーリー内では実と寛子は結ばれず終わり、「寛子が浦川みのりに化けて、ファンの前に出る」という流れを見ると、寛子にとってのみのりは恋愛がどうこうというより「自己の一部」に近い。
これもいい話風に描かれているが、発想が若干怖い。
「大人しくて内気な優等生」に見えて、中身は一番カッ飛んでいる。実は寛子のそういう部分を見抜いていたのかもしれない。
ツインテのツンデレ天才、永遠のライバル・岡部愛
「ツンデレ」「ツインテ」「天才」と並べるとあの人しか頭に思い浮かばない……ということはおいておいて、最初は嫌味で意地悪なエリートとして出てきて、後に仲間兼ライバルになる。みのりの正体とは知らずに実に惚れてしまうなど、ありがちな設定だが好き。
「助けてあげなきゃいけない片思いの女の子」が寛子なら、常に一歩先を行くライバルが愛だ。
愛はみのりに対して、高飛車で慣れあわず、時に手段を選ばずに張り合う。
愛のいいところは、誰に対しても「嫌な奴」なところだ。
格下である実たちに対してはつんけんしていて棘があり、格上である正規メンバーに対しては嫌味な自信家。
群れない、媚びない、慣れあわない、孤高の一匹狼なのだ。
(引用元:「AKB49 ~恋愛禁止条例~」2巻 元麻布ファクトリー/宮島礼吏他 講談社)
反感や反発は実力で黙らせる。
(引用元:「AKB49 ~恋愛禁止条例~」2巻 元麻布ファクトリー/宮島礼吏他 講談社)
時に手段を選ばない愛が、それでも自信に満ちてカッコいいのは、才能に甘えず誰よりも努力しているからだ。
単体でも十分魅力的だが、一番良かったのは、MAYAことのぶ子が愛に向ける愛情と嫉妬、憧れと憎しみが入り混じった視線だ。
のぶ子の愛への、焦がれすぎて悪意に近い執着になってしまう憧れの念を見ると、愛がどれだけ凄い存在かわかる。
のぶ子も憧れが高じすぎて憎しみに変わってしまうサリエリ型だ。
この二人の関係……というより、のぶ子が愛に抱いている思いが凄く好きだ。
名古屋編からほとんど出番がないまま卒業してしまったので、このまま出て来ないのかなあと思っていたら、最後の最後で出てきてよかった。
一途すぎる可愛い小悪魔後輩・有栖莉空
存在がズルすぎる。
「好き好き」ぐいぐい来る天真爛漫明け透け小悪魔タイプでいながら、好きな相手に献身するときは陰でこっそり動いて憎まれ役を引き受けることも厭わない。
気持ちに応えてもらう見込みがなくても、「自分が勝手に好きなだけだから見返りを求めない」ところがいい。自分の感情を相手(他人)に押し付けない人って好きだ。
「耳の病気は、背景としてベタすぎて反則だろう」と思っていても、第187話「君のことが好きだから」は、莉空の恋心が切なすぎて何度読んでも泣く。
だから本当にその人が男だとわかった時は、驚くと同時に「やっぱり」と思い、実に鋭い奴だと私の恋心をナデナデしてやった。(略)
でも、こいつが相当の「変わり者」で、こんな可愛い私に見向きもしないんだ。
でも不思議と納得した。
好きな人を追いかけて、こんな暴挙に走る人間のその思いのガンコさは、
(引用元:「AKB49 ~恋愛禁止条例~」22巻 元麻布ファクトリー/宮島礼吏他 講談社)
「実に鋭い奴だと、私の恋心をナデナデしてやった」←可愛すぎんだろ。
(引用元:「AKB49 ~恋愛禁止条例~」23巻 元麻布ファクトリー/宮島礼吏他 講談社)
可愛くて健気で「莉空で良くないか? 何で駄目なんだ」と思うが仕方がない。
「好きな人を追いかけて、こんな暴挙に走る人間のその思いのガンコさ」において、実と莉空は似た者同士だ。
寛子も前田敦子を追いかけてAKBに入ったから、みんな似た者同士なのだ。(そこがいい。)
三人が三人ともまったく違う魅力に溢れていている。
キャラとして面白いのが寛子、人間的に好きなのが愛、恋愛するなら莉空かなあ。
莉空ルート、見たかった……。