おおっ、7巻が出ていたのか。
これが真エンドということなので、さっそく購入。
萩田視点、貴子視点、アズ視点、須和視点全部入っていてよかった。
特に萩田視点は泣けた。
あんなすっとぼけた言動の裏で、こんなことを考えていたのか。しかも、翔のことがこんなに好きだったのか。
翔や菜穂もそうだが、何も言わない、もしくはズレたことばかりを言っているのに心の中では深く色々なことを考えている、「orange」はそういうキャラが多かった。
アズと萩田の関係は、「orange」のカプの中で一番好き。
(引用元:「orangeー大切なあなたへー」7巻 高野苺 双葉社)
翔を死に追いやる、母親の死に対する自責の念の乗り越えられていて、須和の菜穂への想いにも一区切りがつけられていて、「これが真エンドか」と感慨深い。
恋愛漫画の当て馬は「当て馬」としか呼びようのない扱いを受けることが多いが、須和は「当て馬」という以上に、菜穂と翔の守り神みたいな存在だった。
「当て馬論」を書くときがあったら、外せないケースだ。
とまあ、見どころ満載な七巻だったが、最終的には翔の父親の驚くべき毒親ぶりに全部持っていかれた。
話の流れからして「ひどい親なんだろう」ということは予想がついたが、想像を遥かに上回る破壊力だった。
俺はずっと母さんを愛していたよ。
おまえは母さんを愛していたか?
毎日お母さんに優しく接して、迷惑をかけず傷つけず、お母さんが困っていたら寄り添って、最後まで大切に出来たか?
できなかったろ。俺の子供だもんな。
本当に残念だ…。
(引用元:「orangeー大切なあなたへー」7巻 高野苺 双葉社/太字は引用者)
「orange」本編は菜穂視点なので、最初は翔が死を選んだ理由は分からない。
「特に変わったこともなく普通に日常を過ごしていたのに唐突に死んでしまった」という菜穂の視点を、読者も共有している。
「母親の自殺が原因」という事情が分かった後も、「母親の自殺に、なぜ死を選ぶほどの罪悪感を持ったのか」ということはイマイチ納得しづらい。
七巻のこのシーンを読んで初めて「ああ、こういうことだったのか」とわかるようになっている。
「母親の死が自分のせいだ、とわかっている」という気持ちで既に押しつぶされそうになっているところに、さらにこうやって自分の罪悪感を「わざわざ言いに来て」重しのように押しつけてのっけてくる父親がいたのか。
「俺の子供だから、『また』人を傷つける」という自己投影して存在否定する+「俺はお母さんを愛していたよ」と自分だけ一部分免罪する。
あげくのはてに「傷つける事を言ったかな、ごめん」って……。
「息子が言い返してこないことを百も承知しているんだろ、謝れば自分の言葉の悪性が責められないってわかってんだろ」とイライラして仕方がなかった。(漫画なのに……orz)
そう言えば花沢と尾形の構図に似ているな。
こういう背景から
「幸せを感じるといまだに罪悪感がある」
「母さんにあんな辛い思いをさせて、俺には幸せになる資格はないんじゃないかって」
「もう誰も傷つけたくない」
「自分は何かすると人を傷つける悪い存在だから、幸せになる資格はない。何もして(言って)はいけない」という心象が生まれてしまう。
「アンタは人に気を遣って言いたい事も言わないじゃん」と言う貴子を始め、他の五人が翔のことを心配する気持ちがよくわかる。
「もう誰も傷つけたくない」というほど優しくて傷つきやすいから、「悪者になりたくない」父親に罪悪を押し付けられ放題、踏みつけられ放題になってしまう。
翔の祖母が「翔は傷つけないようにお願いしますね」と言ったところを見ると、この父親は死んだ翔の母親に対してまったく同じことをしていたんだろう。(それが、母親の自殺の遠因になっているから、罪悪感を息子に押しつける)
現実ではここまで露骨でわかりやすいケースは少ないが、この父親のように人の罪悪感につけこんで、支配コントロールしようとする人間は間々みかける。(洗脳が絡む事件などで、こういうパターンをよく見る)
翔が案の定、父親にまったく言い返さないので読んでいて凄くモニョった。最終的には幸せになったからいいけど。
突然出てきた父親の毒親ぶりが余りに強烈すぎたが、他の四人の翔に対する気持ちや考えていたことが分かったり、須和の菜穂への想いに一区切りついたりといい終わり方だった。
「orange」は、菜穂と翔が「大人しくて優しい気遣い魔」という似た者同士なので、二人が弱い部分を他の四人が支えたり、見守ったりしている構図が明確だった。
菜穂一人では助けることが出来なかった翔を、他の四人がいたから死なせずに済んだと7巻を読むと伝わってくる。
親(先天的な関係)に傷つけられた子供が、友人(後天的な)関係によって守られ生きていくことが出来た。
そんな温かい話だった。
菜穂みたいな「いいお母さん型」の女の子キャラが昔から好きだった。