うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

日経ビジネスの「ウクライナ危機に関するエマニュエル・トッドのインタビュー」が一読では理解しづらかったので、詳しく考えてみた。

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business.nikkei.com

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日経ビジネスに掲載されたエマニュエル・トッドの、ウクライナ危機に関するインタビュー記事前後編を読んだ。

ザっと読んだだけだと言いたいことがわかりづらかったので、前後編を通してもう一度詳しく読んでみた。

結果、賛成はしないけれど、筋はそれなりに通っているし興味深く感じた部分もあった。

 

トッドは個人の状況や情緒と、それを外した物の見方をはっきりと分けて語る。

「新しい世界 世界の賢人16人が語る未来」でも自分も七十を過ぎた年配者にも関わらず(と自分で言いつつ)

それに今回のウイルスで被害が大きかった国々は、長期的に見れば必ずしもほかの国々より失敗しているわけではありません。(略)

国の存亡を決めるのは出生数であり、特定の死因の死者数ではありません。ですから全体のバランスを見失ってはいけません。(略)

ドライな分析でたいへん恐縮ですが、社会の活力の尺度となるのは、子供を作れる能力であり、高齢者の命を救える能力ではありません。

(引用元:「新しい世界 世界の賢人16人が語る未来」講談社/太字は引用者)

と語っている。(この部分を紹介した記事に、当時批判が集まっていた記憶がある。)

「その物の見方の賛否や是非」はとりあえずおいておいて、「そういう見方で語っている」ということを前提にして話を見ていきたい。

 

*以下は自分が「こういうことが言いたいのではないか」と読み取った内容。

 

ウクライナ侵攻は、ロシアとアメリカの地政学的な主導権争いであり、その争いに西側諸国や日本は巻き込まれている。

日本が軍事的にアメリカの庇護下にあるように、他国を自国の影響下に置くことで、その地域のパワーバランスを安定させるのは、アメリカの常套手段だった。

ロシアはアメリカのそのやり方を模倣しているように見えるため、それを(個人レベルではともかく)国際社会において善悪で判定することは意味がない。

 

本来はアメリカとロシアの争いであるウクライナ侵攻よりも、それに端を発したロシアに対する経済制裁のほうが欧州には(日本にも)致命的な打撃を与える。

欧州の中でも特にドイツの打撃は大きいため、ドイツはそのことに気付いて経済制裁の輪から外れ、立場を転換すべきだ。

欧州は「侵攻」に慣れていないため、ロシアを怪物化、プーチンを狂人として捉え、感情的に浮足立ってしまっている。(この点、アメリカは自国が数々の「侵略」を行ってきたために、指導者層や報道は冷静だ)

冷静になり、今、何が自国にとって最も有効かを考えたほうがいい。

 

日本にとってウクライナは遠い国であり、地政学的には何の影響もない。

「中国が台湾侵攻をするのではないか」という懸念が語られるが、そのためにはむしろロシアが弱体化しないほうが地域のパワーバランスが取れる。(これが何故かは書いていなかったが、中国と領土問題を抱えているインドにロシアが兵器を輸出しているなど、単純な二項対立にはならない、ということが言いたいのかなと思った。)

中国は今後人口が減少していくので、日本にとっての脅威度は下がる。

 

ウクライナ危機は「権威主義国家対民主主義国家」という構図で捉えられ、そのために「権威主義国家の台頭の脅威(日本においては中国)」として考えがちだ。

だが実はそうでなく、ずっと続いていたアメリカ対反米国家による、地政学的に自国の影響をどこまで及ぼすかの争いである。だから、冷静に自国の利益を考えたほうがいい。(一番言いたいことはこれでは、と感じた。)

 

確かにウクライナのNATO加盟、非武装化にこだわったり、フィンランドやスウェーデンのNATO加盟申請に敏感に反応したことを見ても、ロシアにとってはウクライナ侵攻は「NATOの脅威に対する防御的な発想」ということはわかる。

色々な意見を読むと、NATOの存在はプーチンに限らずロシアにとって相当な脅威であり、西側諸国に対する不信感も根深いようだ。

 

驚いたことにゴルバチョフ氏は「クリミア住民がロシアを選んだのだから、その正当性は一概に否定できない」と語った。

「当時、NATOの東方不拡大について文書で約束しなかったことを悔やんでいる」とも話した。

欧米との関係改善を図り、冷戦を終わらせた立役者である彼ですら、そのような考えを持っていたのである。

(引用元:2022年2月26日読売新聞朝刊14面「視点」亀山郁夫/太字は引用者)

 

トッドの意見だと、従来のよく見聞きした意見のように「NATOに対するロシアの忌避感に、アメリカが余りに無神経だった」というより、「それを分かった上で、地政学的にロシアを圧迫しようとした」という風に聞こえる。

ウクライナは現在のゼレンスキー政権になってから、実質、アメリカの庇護下にある国になった。

ウクライナが既に“事実上”のNATO加盟国であるという考え方は、元米空軍軍人で現在シカゴ大学教授の政治学者ジョン・ミアシャイマー氏の問題提起に基づいています。

ウクライナ軍は米国と英国により再組織化されていました。

1つ目は、米国が(ロシアから)挑まれているということです。

ウクライナ軍がここまで抵抗できるのは、米軍の一部になっていたからではないでしょうか。米国の情報機関と協力し、機器も使用しています。

(引用元:日経ビジネス「エマニュエル・トッド氏『第3次世界大戦が始まった』」大西孝弘/太字は引用者)

 

そのためロシアがウクライナの領土を奪ったままだと、アメリカの影響力が低下するために、現在の状況では戦争は長期化する。

ロシアが戦争終結の交渉を始めないのではなく、アメリカが現在の状況では交渉を始めたがらないからだ。

ウクライナ侵攻の根底にあるのはそういう米露のパワーゲームだから、西側諸国や日本はそれに巻き込まれても国力が疲弊するだけだ。(恐らくこれが言いたいのだろうと理解した。)

 

ここからは、その理解に基づいた自分の意見だ。

疑問が色々とあるが、

①支持率が下がっているバイデン政権に、そんなパワーゲームをやっている余裕があるように見えないし、アフガンから撤退したことと辻褄が合わない。

②「中国は、日本にとって脅威とはならない(台湾危機が起こる可能性はない?)」と言うが、香港を見るとそうは思えない。

③現在のところ、中露は歩調を合わせているので、対抗せざるえないのではないか。

大きなものはこんなところだ。

 

全体として余り賛成できない。

 

ただ記事の中でいくつか気になる箇所があり、

①ロシアは現状に脅威を覚えている。

②アメリカはこれを機にロシアの国力を削りたいのではないか。

というのは「そうなのかな」と思う部分がある。

 

プーチン氏「食糧危機克服へ貢献の用意ある」…制裁解除が条件、米欧に揺さぶり : 読売新聞オンライン

侵攻開始当初は、「ウクライナを非武装化する」という目標を掲げていたプーチンだが、(プーチンにしては)だいぶ姿勢を軟化させているように見える。

交渉の糸口になりそうだけれど、プーチンが西側諸国の首脳と次々と会談しているわりには、話が余り進む様子が見えないことが気になる。

 

個人としては、早く戦争が終わって欲しい、その気持ちだけでいっぱいだ。

毎日、破壊された街の様子、避難している人たちの様子、酷い目にあった人の話など聞くと暗い気持ちになる。一体なぜ、こんなことが起こる必要があるのか。

アフリカや中東が食糧危機に陥る危険性が高い。

自分たち日本人の生活も揺らぐ可能性がある。

悲惨な目に遭うのは、いつでもどこの国でも普通に平和に生活している人たちだ。

 

しかし、実はここでの真の問題というのは、もし戦争が今のこの状態で終わってしまえば、米国は負けたことになってしまう、という点だと思います。米国はロシアに対して結局何もできなかった、ウクライナを保護することもできなかったという結果になってしまうからです。

そのためこの戦争は、米国にとって非常に重要な課題になってきています。だから長期戦になる可能性があるのです。

(引用元:日経ビジネス「エマニュエル・トッド氏『第3次世界大戦が始まった』」大西孝弘/太字は引用者)

 

経済制裁による不満が高まってロシアの政治体制が変われば、和平交渉の道筋もつくのではないかと思っていたが、仮にトッドが言う通り「ウクライナに米の影響力が戻る目算がなければ、米は和平を視野に入れない」のであれば、戦争が泥沼化する暗い未来しか見えない。

それだけは避けて欲しい。