フシアシクモ「大蛇に嫁いだ娘」を既刊二巻まで読んだ。(*ネタバレ注意)
読む前は、「大蛇である必然性がなく、普通の人間の男で代替しても不自然でなくなるのだろうな」という斜めな目で見ていた。
大変申し訳なかったです。
自分がこの話で一番良いと思ったのは、主人公ミヨから大蛇に対する「畏怖と嫌悪」が常に描かれているところだ。
「大蛇さまは不遇な主人公を愛してくれているのに、理解されないのは可哀想」とか「愛し合う二人と周囲の無理解の二項対立」という描かれ方ではない。
大蛇は主人公ミヨに優しい。深く愛してくれている。
にも関わらず、人間であるミヨから見ると受け入れがたい、理解しがたい部分がある。
「どれほど愛し合っているようでも、相手は蛇なんだ」
そういう「二人が愛し合う上で都合が悪い部分」がしっかり描かれている。
話の構成も上手い。
冒頭の一話二話は、出会った二人(?)のディスコミュニケーションぶりが微笑ましく描かれている。
ミヨは大蛇との生活に慣れつつも、大蛇を畏れ心を開くことは出来ない。
大蛇が冬眠したために、ミヨは一人になる。
食糧を動物に奪われ飢え死しそうになったミヨは、怪我をして動けなくなった鹿を殺し、その肉を貪り喰う。
そのことで嫌悪していた、獣を喰らう大蛇と自分は同じなのだと悟る。
二人は心を通わせて結ばれ、幸せな日々を送る。
ところがその後、大蛇が人を殺した、しかもそのことを何とも思っていない「蛇の一面」を露わにする。
既刊二巻まででは、ミヨが怪我をした鹿を殺して、その肉を喰うエピソードがとても良かった。
そのことで大蛇を理解し、しかし「理解した」と思った先に、もっと理解しがたい部分が出てくる。
異種族恋愛であっても、同種族と結ばれるべきハードルが大して変わらないと思うものも多いが、この話は「異種族である必然性」がちゃんとある。
大蛇の生態である、脱皮や冬眠もきちんと描かれていて、「意外性だけで相手を大蛇にしたわけではなく、蛇が相手の恋愛を描きたいのだ」と伝わってくる。
性交渉も大蛇×人間で、思ったよりがっちり描いている。
「どういうことだ?」と思うことが多く、思わず「蛇 交尾」で調べてしまった。勉強になる。
何より恋愛漫画として抜群に面白い。
魅力をひと言だけ、と言われれば「大蛇さまが可愛い」これに尽きる。
(引用元:「大蛇に嫁いだ娘」二巻 フシアシクモ ㈱KADOKAWA)
(引用元:「大蛇に嫁いだ娘」二巻 フシアシクモ ㈱KADOKAWA)
(引用元:「大蛇に嫁いだ娘」二巻 フシアシクモ ㈱KADOKAWA)
そうして「愛してくれるなら蛇でいい。むしろ蛇がいい、ということか。女性は業が深いのうw」と思っていたら、
(引用元:「大蛇に嫁いだ娘」二巻 フシアシクモ ㈱KADOKAWA)
これである。
「私だけに優しい、私だけを愛してくれる人」という、恋愛モノの相手役の究極の形である「自分を受け入れ愛してくれるが、他人に対しては受け入れがたい振る舞いをする相手」をどう考えるか。
恋愛モノにおいて、これは鬼門のテーマだ。
有名なところでは「花より男子」がこの点でつまづいており、批判をよく見かける。
また「破妖の剣」はこの点が扱いきれず、結局スルーして(魔性はそういうものだから仕方がないで)終わってしまった。
「大蛇に嫁いだ娘」は、考える以前に上の画面を見ただけで「人の理屈が通じる相手ではない」ということが感覚としてわかる。
どれほど愛して愛されても、「自分の理屈が通じる相手ではない」。
この障害をどう乗り越えるか。
恋愛モノだとスルーして終わり(そこに興味がない)、他のジャンルだと破綻して終わる(そこにしか興味がない)ケースが多い。
「大蛇に嫁いだ娘」では、このハードルの納得できる答えが見られるのではないかと期待している。
二巻まで読んで気になる点を上げるとすれば、
①ミヨと大蛇以外の登場人物と背景設定がテンプレすぎる。
②大蛇が最初からミヨを好きなのは、何故なのかが気になる。
このくらいかなあ。
特に②は、恋愛漫画として秀逸だからこそ気になる。
大蛇は会った瞬間からミヨを好きだが、その理由が「嫁に来てくれたから」以外に考えられない。そのため「嫁に来てくれたなら誰でも良かった」ように見えてしまう。
「好きだから嫁に来てもらうのではなく、嫁に来てくれたから好き」
よくある話なので納得は出来るが、それも「嫁が来ることが楽しみにする描写」などがないと推測するとっかかりがない。
メタで見れば「ミヨが嫌悪していて、大蛇もミヨに恋愛対象としての興味がないんじゃ、しょっぱなから恋愛展開に持ち込めない」ということはわかるが、メタの事情のみでストーリーを解釈するのは微妙だ。
そういう本来は恋愛漫画の肝と言える部分すらも「まあいいか」と思えるくらい面白い。
「恋愛漫画スキー」で未読の人に、ぜひお薦めしたい。
◆「自分を受け入れ愛してくれるが、他人に対しては受け入れがたい振る舞いをする相手」をどう考えるか。という恋愛漫画における鬼門のテーマ。
これは後で考えたい。
たぶん探せば、納得のいく結論を出しているパターンもあると思う。
よく考えたら、そのテーマばかり描いている作家がいた。