「親愛なる僕へ殺意をこめて」全11巻を読み終わった。
*犯人の名前など物語の核心に触れるネタバレ以外の、若干内容のネタバレがあります。未読の人は注意してください。
①「衝撃的な引き」のための演出優先のため、演出が意味のないものになっている。
②①を避けるために(演出を意味のあるものにするために)登場人物の造形が極端になる。
上記は、連載や連ドラでサスペンスをやる上で、引きを作るための必要措置とある程度は割り切って読んでいるが、「親愛なる僕へ殺意をこめて」は、よくある①のパターンは回避するために、登場人物が殺人鬼やサイコパスなど極端な人ばかりになってしまっている。難しいな。
「殺人鬼」や「サイコパス」は、普通の人が理解しようがない心性で動いているので、行動原理が「うん?」と思っても「この人は普通とは違うから」と言われたら、「納得出来ないこと」を納得するしかない。
多少矛盾があっても押し切れてしまう飛び道具みたいなものなので、読んでいるほうとしては余り気軽に出されると困る。(白菱は「命令する人がいないと駄目だから」誘拐殺人まで協力したけれど、妻が死んで娘に再会するまでは、誰に命令してもらっていたんだ)
好きな人のために、十何年も人に罪を押し付けて殺したことを黙っていました、とか、「一見、普通の人」でさえ行動が極端だ。
「読んでいる間、滅茶苦茶面白かった、先が気になって、いっき読みしてしまった」なら、細かいことは気にせず「ああ、面白かった」で終えるべきなのかな、とも思うが、さすがに登場人物ほぼ全員が「トラウマ持ちの極端な人格」はやり過ぎだ。
展開の引き優先で、バンバン謎を提示してくる話……パニックサスペンス、とはたぶん違うと思うので、仮にパニックミステリー*1と名付けると、このジャンルは解決(辻褄合わせ)がかなり強引な力技パターンが多い。
殺人鬼とサイコパスについては「一作に二人まで」などルールがないと、「みんなサイコパスだから」で話が終わってしまう。
①話の先が読めず、常に次話の展開が気になって、最初から最後まで手に汗を握らせてくれる。
②超常現象やメタ要素はナシで、ミステリー寄りのストーリー。
③殺人鬼など極端な人物造形(一般的に十分共感、納得できる行動原理で動いていない登場人物)は、二人まで。
④最終的には、ほぼスッキリ謎解きされている。
こうやって上げてみると、贅沢すぎる条件なのはわかる。
「親愛なる僕へ殺意をこめて」は、③以外はほぼ満足した。何だかんだ言っているけど、読んでいる間は面白くて読むのが止められず、一気読みしてしまった。
ラストが真犯人が言う「平凡なつまらない結論」なところも良かった。
父親を冤罪に陥れた人間に復讐する、という強い決意が結局は復讐の足を引っ張り、事態を混乱させる皮肉さに「どれほど強い意思でも一人の人間の意思だけで世界が動くのではなく、組み合わせによってその意思すら変化させられていく」という世界観が表れていた。
殺人鬼とサイコパスは、ミステリーのバランスブレーカーなので、ここぞという時のみ出てきて欲しい。
「多くて二人まで」が妥当だと思うんだよ。(個人的な意見です)
元々「親愛なる~」を読んだのは、同じコンビが現在連載している「降り積もれ孤独な死よ」が滅茶苦茶面白かったからだ。(三巻の発売が待ち遠しくて、今日の零時ピッタリに購入した)
提示された謎が何ひとつ解決しないまま、謎が次から次へ新たな謎を呼ぶ展開で、冷静に考えると何もわからず話も進んでいないのだが、何故か読んでいる時は少しずつ核心に近づいているような感覚があってどんどん読み進めてしまう。
「面白い」は理屈じゃない、というより、理屈を忘れさせるほど引き付ける力が強いものだ、と教えてくれる。
「親愛なる僕へ~」よりもストーリーがシンプルなので、話も追いやすい。
「親愛なる僕へ~」は「半グレ集団」「警察」など若干社会的要素が強かったが、「降り積もれ~」は主筋は「隔絶された屋敷、村」の因縁が深く関わる本格ミステリーの風味が強い。こちらのほうが好みだ。
先を楽しみにしているので、なるべく「親愛なる~」で気になった部分は避けられているといいな。
タイトルが詩的で好き。作内で出てきたのは意外だったけれど。
*6巻までのまとめと感想。
*1:①(特に謎解きにおいて)超常現象は出てこない ②読み手に提示された謎の解決を誘発、もしくは推奨している部分がある ③日常ではありない現象(殺人など)の連続で話が構成されている