うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

【漫画感想】「住みにごり」2巻まで。引きこもりの兄、寝たきりの母、モラハラ気質の父、出戻りの姉。「家族」という異質で怪物のように不可解なもの。

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主人公の末吉は都会での生活に疲れ、仕事を辞めて故郷に戻って来る。

実家は寝たきりの母親とその面倒を見るモラハラ気質の父親、離婚して戻って来た姉、そして二十年近く部屋に引きこもっている兄がいる。

 

「住みにごり」は、冒頭、引きこもりの兄が無差別通り魔殺人を行う夢から始まる。

末吉の家族は兄フミヤだけではなく、それぞれが問題を抱え、お互いに色々な感情を抱えている。家の中の空気は澱み続け、常に不穏な空気が流れている。

何かひとつ要素が加わったら即座に黒いものが溢れ、何かが暴発する。そういう状態から始まる。

だからストーリーが進むにつれこの圧が高まっていく、もしくはこの圧の源泉が解き明かされる話ではないか。

そう予測する。しかしその予測は既刊2巻の今の段階では裏切られている。

この最初の段階のこの圧を一定に保ったままで、話が進んでいく。増えることもないが、減ることもない。

ずっと不穏でずっと薄暗く何かが起こりそうだ。しかし何も起こらない。

よく考えれば、末吉の家はこの話が始まる少し前にこの状態になったわけではない。このどこか不安で不穏な状態のまま、何十年も「家族」だったのだ。

 

兄のフミヤは最初の印象とは違い、それなりに外出する。買い物には行くし、誘われれば外食もする。末吉と姉の長月と共に合コンにも行く。

外出する時は、いつも乳首が見えている短いタンクトップ姿だ。

(引用元:「住みにごり」2巻 たかたけし 小学館)

 

しかし姉の長月も、末吉の幼馴染の森田も、森田の職場の仲間である鈴原と柳も、誰もフミヤの恰好を気に留めない。ごく普通にしている。

それを見て、末吉は「自分のほうがおかしいみたいではないか」と不満を持つ。

(引用元:「住みにごり」2巻 たかたけし 小学館)

 

末吉に「自分の家は変だ」と言われた森田は、自分の家について話し出す。

うちって昔はね、食事は必ず家族一緒に食べる決まりがあって(略)家族がおかわりする時は、一番『位が低い』子供がよそわなきゃいけないんだけど(略)だからみんな言わないだけで、どこの実家も変だと思うよ。

(引用元:「住みにごり」2巻 たかたけし 小学館)

問題があるように見える末吉の家に比べて、相対的に「まともに見える」森田が、家族の中で「位が低かった」という言葉を笑顔で話す。

自分が二巻まで読んだ中で一番ゾッとしたのはこの部分だ。

 

末吉の家は、確かに客観的に見れば問題がある。その中で育った末吉も長月もそれを感じており、フミヤを含めて子供三人は「家族という病理」に蝕まれている。

しかしそれはもしかしたら、末吉たちの家が「外から見ればわかりやすい」だけで、「家族」というものはそもそもそういうものなのかもしれない。

外側にいる他の家の内情はよくわからない。だから「他の家はまともなのに、自分の家だけが変だ」「自分の家が特殊なのだ」と思うのではないか。

 

外から見れば引きこもりで社会性がないフミヤは、「おかしな人間」に見える。しかしそれは末吉の家全体の病理がフミヤに表れているだけで、父親も末吉も長月もみなその病理を構成し、分け合い、蝕まれている。

一見穏やかで優しく、モラハラ気味で酒癖が悪い暴君のような夫も引きこもりの息子も優しく見守っている母・百子にも、いきなり注意書きに火をつけるようなところがある。

(引用元:「住みにごり」1巻 たかたけし 小学館)

フミヤを引きこもらせたもの、長月が夫にモラハラ気味だった理由、父親が苛立つと垂直飛びをする感情は、彼ら五人それぞれが作り出し分け合い、そのことによって澱み続けるものだ。

彼らはお互いの濁りを分け合うことで家族なのだ。

 

家族というのは、一緒に暮らしている時は一個の生命体のようなところがある。

弱さや強さを適当な場所に配分し、危機的な時は誰か一人が炭鉱のカナリヤのように異常性を持ってそれを知らせ、どうしようもなく澱んだときは自分の身を守るためにそこから分離しなければならない。

 

自分も自分の実家に大きな不満はなかったし、「家族の問題」と言えるほどのこともなかったのでまあ幸運なほうなのだと思う。

だがその反面、中にいる時はわからなかったが外から見ると、けっこう不思議だな、今思えば変わっていたんだなと思うところもある。

 

本書の紹介に書かれている通り「怪物がいる家の話」「変な家族の話」を読むつもりだった。

だがひょっとして家族というものはどんな家族でも、そもそも「変」なのかもしれない。

異質で怪物的なものであり、自分もその怪物を構成する一部なのかもしれない。

そう思わせる話だった。

 

「変身」を思い出した。