とある短編恋愛漫画の三角関係に引っかかるものを感じたので、何がそんなに引っかかるのか考えてみた。
諸事情*1あってタイトルは出さないが、読んだことがある人は設定ですぐに気付くと思う。
そこまで複雑な状況ではないので説明する。
状況説明
クロ、モモ、シロ*2は小学校時代からの幼馴染みで仲良し三人組。
クロはずっとモモが好きだった。
しかしある日、モモに「ずっとシロが好きだった。中学卒業と同時に告白しようと思っている」と言われる。
クロは何も知らないシロに策略を仕掛け、シロが告白を断る方向へ持っていく。
策略が当たり、シロはモモの告白を断る。
傷ついて落ち込んでいるモモにクロは告白し、二人は付き合うことになる。
時が流れて、三人は大学生になる。
シロは、モモとクロとは疎遠になっている。
モモとクロは四年ほど付き合っている。
シロはある日、モモとクロが付き合っている姿を目撃し、クロが自分に言ったことが嘘だったと悟る。
そうしてシロは、自分が本当はモモが好きだったことに気付く。
モモにその思いを伝えるが、モモは「もう遅い」「もう無理やろ」と言って断る。
一方、クロはそんな二人の様子を目撃し、「何でこんなに空しいのか」と罪悪感にもだえ苦しむ。
ここで話が終わる。←え?
中途半端な終わりかたもさることながら、話自体にも凄く引っかかるものを感じた。
一体、何がこんなに引っかかるのかよくわからなかったので考えてみた。
引っかかりポイント①「今さら、もう遅い」「もう無理やろ」という断りは、断っていない。
一番引っかかったのはこれだ。
シロの告白に対して、モモは「今さら、もう遅い」「もう無理やろ」と言って断っている。だが、これはよく考えると断っていない。
「もう遅い」「もう無理やろ」という言い方は、自分の意思以外の外的な要因によって付き合うことは難しい、という意味だ。
「自分の意思はOK(だが、それ以外の要因のために無理)」という含意がある。
だがモモは、「何の要因によって『もう無理』なのか」は説明しない。だからシロは、推測するしかない。
シロは再会するまでモモとは関わりを持っていないのだから、
・「(お前が卒業式の時に断ったから)もう遅い。もう無理やろ」と解釈する他ない。
この「もう無理やろ」は、クロも聞いているが、クロにしてみれば、「(お前と関係を持ってしまったんだから)もう遅い。もう無理やろ」としか受け取りようがない。
この状況の何が引っかかるかと言うと、モモの言葉(シロが好き)と行動(シロの告白を断る)が一致していないことだ。
そうすると次はこういう疑問がわく。
引っかかりポイント②現時点で、モモはシロとクロ、どちらが好きなのか。
はっきりとは描かれていないが
・高校時代にモモがシロに未練を残しているような描写がある
・上記のシロがモモに告白したときの状況
を考えると、「モモはシロのことが忘れられなかった」と考えられる。
「どちらも好き」という状況ではなく、話の文脈的に「モモはクロと付き合いながらも、シロをずっと忘れていなかった」というニュアンスが強い。
引っかかりポイント③モモはなぜ、クロと付き合ったのか。
「モモはシロがずっと好きだった」なら、なぜモモはクロと付き合い続けたのか。
振られた直後の人間ほど落としやすい状態はないという古の理に従えば、「傷ついていたからつい」という気持ちはわからないでもない。
でもそのあと、モモはクロと四年は付き合っている。
モモはシロが再会したときの描写を見ると、「再会したから忘れていた気持ちがよみがえった」というより、「ずっとシロが好きで忘れられなかった」ように見える。
シロの目にもそう見えるから、思わず告白してしまったのだ。
そうしてシロの推測を裏付けるように、「(俺もシロが好きだが)もう遅い」という含意のあるセリフで断る。
このあと大揉めする未来しか思い浮かばない。
引っかかりポイント④シロが好きなら、クロときちんと別れてシロと付き合えばいいだけだが、それが出来ない理由がわからない。
ここまで考えて、この話の何が引っかかるのかわかった。
この話は、本来何も問題がないのだ。
モモが、クロが好きでもシロが好きでも問題がない。
シロもクロもモモが好きで、告白している。
三人の友情は中学卒業時点でとっくに破綻している。よくある「親の反対」などの二人の関係に対しての障害もない。
モモが好きなほうと付き合えばいいだけの話だ。
それなのにモモは、「もう無理やろ」と言う。「もう」が何にかかっているのか? ということが引っかかるのだ。
引っかかりポイント⑤クロが何もしなくても、シロはモモの告白を断った。
あらすじとしては「クロがシロを誘導したから、シロはモモの告白を断った」となっている。
だがクロが何もしなかったとしても、シロはモモの告白を断ったと思う。
中学時代の様子を見るとモモの自分への気持ちに気付いている様子がないので、クロが何もしなかったとしても同じように断りそうだ。
再会した時のクソみたいな嫉妬のしかたを見ても、シロは自己中心的で子供っぽい人間だと思う。モモに告白したのは、クロへの対抗心がわいただけに見える。
なので、クロがシロに告白を断るように誘導しなかったとしても、未来は対して変わらなかったのでは、と思う。
引っかかりポイントのまとめ
・クロもシロもモモに告白している。恋愛を邪魔する要素は何もないので、本来はモモが好きなほうと付き合う、もしくは両方とも振る。モモが選択をすればそれで話は終わる。
・しかし、モモは選択しない。選択しない理由を他の二人に負わせている。
・シロはクロへの対抗心からだけでモモに告白したが、モモに含意ある断られかたをしたことで、モモに執着する可能性が高い。
・モモは「シロを思いながら、クロと付き合い続ける状態」を続ける。
・普通に考えれば、これから死ぬほど揉めるとしか思えない。
まとめ:この話の面白さは、「全く問題がない話をこじらせて切なく見せてしまうモモの魔性」にある。
モモは「シロを思いながらクロと付き合い続ける(心身不一致)の状態」を続ける。
そうすることでシロもクロも惹きつけ続けるモモという人間の特性が、この話の面白さである。
この話はシロ視点とクロ視点で描かれていて、モモの心情がはっきりとはわからない。
「そんな顔をしているということは、まだ自分のことが好きなのでは」→でも告白しても受け入れてくれない→何で!?(シロ視点)
「自分を受け入れて、ずっと一緒にいてくれたということは自分のことが好きなはず」→でも事あるごとにシロのことを忘れていない風→シロのことが好きなのか?→それなのになぜ自分と付き合う?!(クロ視点)
「相手の言動に勝手に意味を見出して*3、上がったり下がったり思考をグルグルさせて、勝手に盛り上がって爆発する」これこそ恋愛の醍醐味である。
モモは「本来、何も問題がない話をややこしくする天才」だ。
「答えることを回避する人間」は物事を面倒臭くする。恋愛は面倒臭ければ面倒臭いほど盛り上がるので、こういう人は異常にモテる。ナチュラルボーン魔性である。
魔性であるモモの魅力はすさまじく、クロもシロも読み手も「シロが好きだと匂わせながらクロと付き合う」モモを「可哀想」「切ない」という目で見てしまう。
これだけ頭で考えて「選ぶのに何も障害がないのに、あたかも問題があるかのように振る舞って選択するのを回避しているだけでは?」と思っていても、モモの悲しげな表情に同じように切なさを感じてしまうのだ。
恐ろしい。
そんな恋愛の醍醐味と恐ろしさが満載の漫画だった。
続き。というかもう少し具体的な感想。