「降り積もれ孤独な死よ」の6巻が発売された。
話も佳境に入っているようなので、頭の整理がてらストーリーの時系列と残っている謎をまとめてみた。
*ストーリーの時系列は単行本の末尾に掲載されているけれど、自分がわかりやすいように書き直してみた。
◆ストーリーの時系列
1975年 青葉市でヒカリと灰川(佐藤)十三が出会う。
四葉不詳事件。
1976年 犬山秀二が蔵土で三十三名を殺害する。(蔵土事件)
1978年 冴木仁誕生。
1886年 灰川が邸宅を購入。
赤子の鈴木潤が養護施設の前で発見される。
1991年 ノッポが灰川に拾われる。(初めての子供)
1993年 マヤが灰川に拾われる。
1994年 花音が灰川に拾われる。
1996年 鈴木潤、10歳。灰川に会い拒絶される。
1999年 仁と蒼佑の父親の葬式。蒼佑は灰川の世話になっている。
2002年 灰川が人が変わったようになり、家族がバラバラになる。
2002年~2003年? 「我が子を食らうサトゥルヌス」の絵を使った詐欺事件に関わったとしてタケルが逮捕される。
2004年 鈴木潤が灰川とDNA鑑定を行い親子と判明。
2004年? 地下に子供を閉じ込める監禁事件が始まる。鈴木潤が犯人?
2006年 事件発覚(ストーリー開始)
*主人公・冴木が生まれた年が入っていることが気になる。
◆ストーリー内の謎
(2巻)
・花音をホームに落とそうとしたのは誰なのか?→花音は13人の子供を殺した犯人だ、と主張。
・花音を監視しているのは誰なのか?
・「六花の悪魔に自分たちは皆殺しにされる」というノッポの言葉の意味は?
(3巻)
・蔵土事件の犯人は犬山秀二なのか。
・犬山秀二の辞世の句の意味は。灰川の筆跡なのはなぜか。
・犬山秀二が自殺した場所に書かれた六花のマークの意味は。
(4巻)
・自殺したのは犬山秀二なのか。
・現代の蔵土に表れた「瑕面の男」は何者か。(秀二にしては年が若すぎる)
・刑務官を脅したのは「瑕面の男」。
・伊良部組の榊が灰川を殺すように中岡に指示したのは何故か。誰に頼まれたのか。
・四葉不詳の贋作を譲り受けた画商は死んでいる。(死体なき殺人)犯人は誰か。
・サトゥルヌスの贋作は四葉不詳のものではない。誰が描いたのか。
・タケルが灰川を憎む理由は?
・四葉不詳の贋作であるフェルメールの絵が「子を食らうサトゥルヌス」にすり替えられたのは何の意味があるのか。
・「サトゥルヌスの絵を描いたのは瑕面の男であり、男は灰川の本当の息子。父親の偽の子供たちを殺したい」というタケルの言葉は、どこまで本当なのか。
(5巻)
・灰川と鈴木潤は本当に親子なのか。
・灰川の遺体安置所で起こった火事は、誰が火をつけたのか。
・「犯人でさえ思い違いをしていた」という花音の言葉の意味は。
・13人の子供は全員、鈴木潤が餓死させたのか。
(6巻)
・「瑕面の男」は、なぜ蒼佑を撃ったのか。
・「瑕面の男」と鈴木潤は面識がない?
・「瑕面の男」が鈴木に言った「ようやく見つけたぞ、六つの花」の意味は。
・灰川は十代のころから無精子症だとすると、鈴木は灰川の息子ではないのか。
こうして見ると、事件の全体像についてはほぼ何もわかっていない。
「降り積もれ孤独な死よ」は、基本的にはシンプルな話を演出によって……特にレッドへリングを駆使することで面白く見せる作りになっている。
シーンごとの緊迫感や刺激が優先されているので、話が前後することが多い。
例えば、
Aという問題を追っている時に、別のインパクトのあるBという事実が出てきて、物語の焦点はBの真偽にフォーカスされる。
Bを追っているうちに、途中でAに関わる新事実が出てきて、Aは部分的に解明されA´になる。今度は「A´とは何なのか」に話の焦点が当たり、とりあえずBは置いておかれる。
A´を追ううちにCの話が出てきて、Cに焦点が当たる。そのうちCとBの関わりが出てきて、BはB´になるが、結局「A、B、Cが何なのか」はほぼ判明せず、それらのつながりによる謎がどんどん増えていく。
冷静に考えれば話はほとんど進んでおらず(ちゃんと判明している事実がほぼない)、「つながり」を明らかにすることであたかも話が進んでいるように見せているだけだ。
こういう演出だけで興味を引っ張る話は余り好きではないけれど、この話は6巻が出るのが待ち遠しかった。
「降り積もれ孤独な死よ」は、何といっても雰囲気がいい。
冒頭の真っ白い雪が降り積もるシーンと、子供を地下の暗闇の中に閉じ込めて餓死させる事件の発端が対比になっているように、黒と白のコントラストでストーリーも作画も出来ている。
単行本の表紙も、それぞれがほぼ黒と白のグラデーションのみで書かれており、1巻から6巻までの表紙を並べてもそうなっている。
*表紙なのに「影絵か」と思う感じがいい。書店で目にしたら絶対に表紙買いする。
*↑の後の五巻の表紙がこれ。単体でもいいけれど、四巻とのつながりが好き。
*6巻、若十三。ヒカリとの微妙すぎる距離感がいい。
これまでのストーリー展開も今後明らかになる真相も、陰惨で救いのない、そして過去から連綿と続く個人の力ではどうしようもない呪縛のようなものなのだろうと想像がつく。
そういう話を「降り積もれ孤独な死よ」という詩的な言葉や、六花(雪)のような白く美しいものに託す感性がいい。
黒と白の対比のみが存在する閉じられた世界観がとても好きだ。
多少展開が強引でもいいので、この雰囲気を壊さずに最後まで描かれればなあと思っている。