うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

歴史

【映画感想】森達也監督「A/A2」 社会が自分から見て整然として理解できるように見えるときこそ、おかしいと思わなければいけないのかもしれない。

地下鉄サリン事件、麻原彰晃逮捕後も教団に残った信徒の姿と各地で起こった住民による反対運動や住民と信徒の交流を追ったドキュメンタリー。 A Amazon 「A」は教団の広報副部長をしていた荒木浩*1を定点として追った作品だが、文字通り「映しているだけ」で…

「火山島」1巻の感想。兄妹のイチャイチャが長い、男尊女卑思想がエグい、確かにドストエフスキーに似ている、など。

火山島 1 作者:金 石範 文藝春秋 Amazon 二段組のページ構成で390ページなので、読むのが大変そうだなと思っていたが、意外や意外。長いとも思わずスルスル読めてしまった。 以下読んでいて面白いと思ったポイントと気になったポイント。 1巻の後半は主人公…

【映画感想】「リボルバー・リリー」の良かった点と不満だった点

*ネタバレ注意。 綾瀬はるか主演、行定勲監督の「リボルバー・リリー」を観てきた。 映画『リボルバーリリー』公式サイト 良かった点 ①とにかく強くカッコよく美しい綾瀬はるかを撮りたいという目的が首尾一貫していた。 ②格闘シーンは見ごたえがあった。 ③…

「火山島」の第一章を読んで、歴史と創作の関係について思ったこと。

www.saiusaruzzz.com 「火山島」の第一章を読み終わった。 第一章を読み終わった時点でも「知識としてはうっすら知っているけれど、詳しくは知らなかった」と思うことが多い。 創作は歴史そのものではなくあくまで創作として読まないと危ういけれど、その反…

朝鮮戦争の経緯を読んで、何かに似ていると思う&休戦七十年なので、積読していた「火山島」を読み始めた。

読売新聞の「朝鮮戦争休戦七十年の特集」の番外編として、四人の識者が今後の朝鮮半島について見解を寄せている。 「現在の北朝鮮の体制は、そろそろ崩壊するのではないか」 「韓国の尹政権は北朝鮮との対話の窓口を閉ざしている。それは危うい」 など色々な…

「暴君 新左翼・松崎明に支配されたJR秘史」 労働運動の裏面をのぞいて何とも言えない気持ちになる。

暴君~新左翼・松崎明に支配されたJR秘史~ 作者:牧久 小学館 Amazon 「無力な労働者たちが結束して、自分たちを抑圧する権力(会社・経営者)と戦う」 内輪もめや内部分裂や裏切りや労使協調はあっても、労働運動は基本的にはこういうものだと思っていた…

コーマック・マッカーシーが亡くなったので、「ブラッド・メリディアン」をもう一回読む。やっぱすげえ。(小波感)

www.hayakawabooks.com 朝イチでコーマック・マッカーシーの訃報を目にした。 もう89歳だったんだな。 一時期Twitterで流行っていた「名刺代わりの小説10選」を作るとしたら、必ず入るのがマッカーシーの「ブラッド・メリディアン」だ。 こんな小説を自分も…

「宗教は物語で、哲学は言語ゲーム」 竹田青嗣が語る「宗教と哲学の違い」がわかりやすくて面白かった。

竹田教授の哲学講義21講―21世紀を読み解く 作者:竹田 青嗣 みやび出版 Amazon 個々の人物の思想の説明もわかりやすく面白かったけれど、それ以上に「哲学を読む時にどういう角度で読むべきか」「哲学とはそもそも何なのか」という話が面白かった。 その中で…

「帝銀事件と松本清張 74年目の真実」の感想 「事実」は多勢の認識によって作られているものに過ぎないのかもしれない。

年末に見逃した「帝銀事件と松本清張」が、たまたまテレビをつけたら放映していたので視聴。見たのは第二部のドキュメンタリー部分。 www.nhk.or.jp 結局「帝銀事件」の真相は未だに分かっていない。 731部隊の人間が、秘密兵器の実験を行っていた登戸研究所…

【小説感想】実際の事件を基にして発刊中止になった「パルチザン伝説」 これを「個人的な物語」と読めないところに分かり合えなさを感じる。

文藝賞の最終候補になり単行本化が決まっていたが、抗議によって急遽発売中止になったいわくつきの作品。 パルチザン伝説 作者:桐山 襲 河出書房新社 Amazon 東アジア反日武装戦線が起こした事件をモデルにしているため、抗議を受けて発売が困難になったらし…

「漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972-2022」感想。左派はなぜ衰退したか。

www.saiusaruzzz.com www.saiusaruzzz.com 戦後の左翼の歴史を追う池上彰と佐藤優対談本の三冊目。 1970年前後を境に学生運動を中心とした新左翼の活動は衰退していき、左翼の活動は労働運動に主戦場を移していく。 三冊目では、左派(の理念)がなぜここま…

「自分が所属するコミュニティの価値観に沿う過激さを競い、その忠誠心と引き換えに承認を得る」新左翼が過激化した原因は、現代にも通じるものがある。

前巻の感想。 www.saiusaruzzz.com 激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972 (講談社現代新書) 作者:池上彰,佐藤優 講談社 Amazon 戦前からの左翼の歴史を振り返った「1945-1960」に続いて、「激動 日本の左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」…

「真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960」感想 わかりにくい左派の歴史がスルスルとわかる。

池上彰と佐藤優の対談形式の本「真説 日本左翼史 戦後左派の源流」の一冊目、1945-1960の歴史を読んだ。 真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960 (講談社現代新書) 作者:池上彰,佐藤優 講談社 Amazon 共産党の除名問題の時に「新左翼が起こした…

そう言えば、冷戦下の白色テロを描いたコンテンツは「返校」くらいしか知らない。

先日買った「世界」3月号に、「冷戦期の大量殺害をグローバルに考察する」というタイトルで「ジャカルタ・メソッドー反共産主義十字軍と世界を作りかえた虐殺作戦」を紹介している記事があった。 共産主義思想への弾圧は戦前の話は比較的伝わってきている。…

【「エネアド(ENNEAD)」シーズン1考察】設定&疑問点からの考察まとめ。

「エネアド(ENNEAD)」のシーズン1を読み返して設定と疑問点のまとめ、そこから考察をしてみた。(*シーズン1のネタバレあり。注意) エジプト神話の死生観を頭に入れると、話が理解しやすい。 シュト(影)と鏡、セクメトとハトホルの関係。 太陽神ラー…

エジプト神話の構造や要点がとってものみ込みやすい。「ゼロからわかるエジプト神話」

「エネアド」にハマった勢いで、「エジプト神話について読んでみよう」と思い購入。 ゼロからわかるエジプト神話 (文庫ぎんが堂) 作者:かみゆ歴史編集部 イースト・プレス Amazon 作内で当たり前のように語られている「死者の魂を集めなければ呪いになる」な…

「殺人を犯さなければ人間になれなかった」という矛盾をどう考えるのか。永山則夫「無知の涙」

無知の涙 (河出文庫) 作者:永山則夫 河出書房新社 Amazon 「無知の涙」を初めて読んだのは、永山則夫がこの本を書いたのと同じくらいの年齢の時だった。 その時は「何の罪もない人を四人も殺しているのだから、どんな言葉も言い訳でしかない」という気持ちし…

本郷和人「承久の乱ー日本史のターニングポイントー」 「後鳥羽上皇はなぜ、幕府に戦をしかけたのか?」など、この時代のポイントがスルスルわかる。

本郷和人の「承久の乱ー日本史のターニングポイントー」を読んだ。 承久の乱 日本史のターニングポイント (文春新書) 作者:本郷 和人 文藝春秋 Amazon 「鎌倉殿の13人」が始まるから書かれた本なのかなと思ったら、ドラマの情報が何もない段階で出版されたよ…

【大河ドラマ「鎌倉殿の13人」感想】「義時、本当にお疲れ様」それしか出てこない。

*ネタバレ注意。 ついに終わってしまった。「鎌倉殿の13人」が。 あれほど様々な人が出てきて、色々なことがあったにも関わらず、「鎌倉殿の13人」は自分にとっては最初から最後まで義時の物語だった。 伊豆の名のない家の次男坊に生まれて、気がいいだけの…

「承久の乱」について。他の歴史解釈と「鎌倉殿の13人」のストーリーの違い。&第47回「ある朝敵、ある演説」の感想。

承久の乱「後鳥羽上皇」惨敗させた三浦義村の決断 | 歴史 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース 「吾妻鏡」における「承久の乱」が始まるまでの、主に三浦家の動きの解釈を書いた記事を読んだので、「鎌倉殿との13人」のストーリーと読み比べて…

【大河ドラマ「鎌倉殿の13人」】山本耕史が語る「三浦義村はどんな人物か」が面白すぎる。

昨日も滅茶苦茶面白かった。 ここまでアッと言う間だった。 あと二回かあ。もっと続いて欲しいと思ってしまう。 と思いながら、今朝、三浦義村を演じる山本耕史のインタビューを読んだ。 「演じる役だから考える」ということとは別に、単純に「演じる俳優が…

ポストコロニアルフェミニストによる西欧知識人への告発。「サバルタンは語ることができるか」

サバルタンは語ることができるか (みすずライブラリー) 作者:G.C. スピヴァク みすず書房 Amazon インド出身のフェミニズム批評家スピヴァクの代表作「サバルタンは語ることができるか」を読んだ。 この本は1972年に公開された「知識人と権力」というフーコ…

ミャンマーの問題の原因は何なのか。「ビルマ 危機の本質」

www.saiusaruzzz.com ミャンマーの軍事クーデターについて上記の番組を見た時に、 なぜ軍がこれほど過酷に自国民を弾圧できるのか。軍の内部でも何か疑問は出て来ないのか。軍部のほうが選挙で選ばれた政治家よりも圧倒的に力が強いように見えるが、どうして…

【大河ドラマ「鎌倉殿の13人」キャラ語り】魔性の女・りくの魅力は「私のことを殺そうとしたでしょ?」という言葉にある。

ついに時政とりくが退場か。寂しいな。 特にりくは、こんなに面白い女性キャラをみたのは久し振りだと思うくらい魅力的なキャラだった。 りくという女性が、よく理解できなかった。 自分にとってのりくの面白さと魅力は、まったく理解できないところにある。…

学生運動当事者「n=1」のうちのオカンのフェミニズム精神。

小説で「台風だしピザでも頼む?」と攻めが言い出した…倫理観の違いで読めなくなることあるよね「鬼畜攻めかよ」 - Togetter 先日、うちのオカンと話していたら*1 「あさま山荘」籠城―無期懲役囚・吉野雅邦ノート (祥伝社文庫) 作者:大泉 康雄 祥伝社 Amazon…

学生運動の背景を知ることが出来る本の紹介をしながら、適当に雑談をしたい。

少し前にネットで学生運動の話をよく見かけたので、自分が今まで読んだり聞いたりした話と合わせて雑談したい。 この時代の学生運動周囲の話を見ていくと、そのセクトや大学によってだいぶ雰囲気が違う。(考え方が違うので当たり前だが) 例えば立花隆の「…

「この本を立ち読みしたことで、オウムを脱会できた」というレビューが、滅茶苦茶興味深かった。

Amazonで 狂信―ブランチ・ダビディアンの悲劇 人はなぜ“メシア”を求めるのか 作者:ティム マディガン 徳間書店 Amazon という本を見つけた。 1934年にプロテスタント系の異端セクトとして誕生した宗教団体「ブランチ・ダビディアン」の話だ。 「ブランチ・ダ…

「フェミニズム系批評」から学んだフェミニズムの歴史まとめ

「現代批評理論のすべて」の「フェミニズム系批評」の歴史は、フェミニズムそのものの歴史とも大きく重なっている、またフェミニズム以外の思想から大きな影響を受けたり考え方を援用しているので、流れをまとめてみた。 *自分が理解した限りのことを書いて…

人は惰性で、人を殺し続けることが出来る。

www.saiusaruzzz.com 前回書いたこの記事で、「日本軍の指導者に共通していたもの」について考えたが、書き終えたあとどうもしっくりこない。 そんなときに黄金頭さんの記事のこの箇所を読んで「おおっ」と声が出た。 アイヒマンが定年まで仕事をして、「退…

「ビルマ 絶望の戦場」感想 日本軍の指導者の欠陥は「道徳的勇気の欠如」ではなく、「興味のない現実は無視すること」ではないか。

NHKスペシャル「ビルマ 絶望の戦場」を見た。 有名なインパール作戦が失敗に終わった後、ビルマで一年間続いた撤退戦の詳細を追っている。 太平洋戦争は「絶望の戦場」ばかりだが、ビルマ撤退戦も悲惨なものだった。 当時の日本軍指導者に欠けていたのは、「…