うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

社会問題

「帝銀事件と松本清張 74年目の真実」の感想 「事実」は多勢の認識によって作られているものに過ぎないのかもしれない。

年末に見逃した「帝銀事件と松本清張」が、たまたまテレビをつけたら放映していたので視聴。見たのは第二部のドキュメンタリー部分。 www.nhk.or.jp 結局「帝銀事件」の真相は未だに分かっていない。 731部隊の人間が、秘密兵器の実験を行っていた登戸研究所…

【小説感想】村上春樹「沈黙」。ネットでは「顔というものを持たない人々」にならないようにしないといけない。

突然、村上春樹の「沈黙」が読みたくなったので再読。 短編集「レキシントンの幽霊」に収録されている短編。 レキシントンの幽霊 (文春文庫) 作者:村上春樹 文藝春秋 Amazon 村上春樹の作品にしては珍しく、起こる事象が現実的で具体的、抽象度が低いので読…

対話型AI「チャットGPT」に小説のあらすじを考えてもらったら、思った以上に学びが深かった。

shinonomen.hatenablog.com ↑の東雲さんの記事を読んで滅茶苦茶面白いと思い、自分も「Chat(チャット)GPT」に「400字で小説のあらすじを考えて」と頼んで三種類出してもらった。 タイトルのみ自分で考えた。 あらすじ① 世界にひとつだけの美術品 "> ある日…

【漫画感想】残酷歌劇「ライチ☆光クラブ」 暗い世界に閉じ込められた少年たちが辿る残酷な運命。

ライチ☆光クラブ 作者:古屋 兎丸 太田出版 Amazon ぼくらの☆ひかりクラブ 全2巻セット Amazon 既に映画化されていることも知らず表紙買い。 江戸川乱歩に代表される、退廃的で耽美で残酷描写があるインモラルな世界観だ。「グランギニョール」というジャンル…

「実際の物事や人物を元にしたフィクション」は、自分の中で「名作・傑作」であるほうが問題が根深い。

「フィクション」と銘を打っている場合は、まずはフィクションとして読む。 問題があれば指摘すると思うが、自分は自分にとってつまらない作品はすぐに忘れるので「フィクションと、モデルとおぼしき実際の物事や人物との関係性の問題をどう考えるのか」とい…

【小説感想】実際の事件を基にして発刊中止になった「パルチザン伝説」 これを「個人的な物語」と読めないところに分かり合えなさを感じる。

文藝賞の最終候補になり単行本化が決まっていたが、抗議によって急遽発売中止になったいわくつきの作品。 パルチザン伝説 作者:桐山 襲 河出書房新社 Amazon 東アジア反日武装戦線が起こした事件をモデルにしているため、抗議を受けて発売が困難になったらし…

「漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972-2022」感想。左派はなぜ衰退したか。

www.saiusaruzzz.com www.saiusaruzzz.com 戦後の左翼の歴史を追う池上彰と佐藤優対談本の三冊目。 1970年前後を境に学生運動を中心とした新左翼の活動は衰退していき、左翼の活動は労働運動に主戦場を移していく。 三冊目では、左派(の理念)がなぜここま…

「自分が所属するコミュニティの価値観に沿う過激さを競い、その忠誠心と引き換えに承認を得る」新左翼が過激化した原因は、現代にも通じるものがある。

前巻の感想。 www.saiusaruzzz.com 激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972 (講談社現代新書) 作者:池上彰,佐藤優 講談社 Amazon 戦前からの左翼の歴史を振り返った「1945-1960」に続いて、「激動 日本の左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」…

「真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960」感想 わかりにくい左派の歴史がスルスルとわかる。

池上彰と佐藤優の対談形式の本「真説 日本左翼史 戦後左派の源流」の一冊目、1945-1960の歴史を読んだ。 真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960 (講談社現代新書) 作者:池上彰,佐藤優 講談社 Amazon 共産党の除名問題の時に「新左翼が起こした…

そう言えば、冷戦下の白色テロを描いたコンテンツは「返校」くらいしか知らない。

先日買った「世界」3月号に、「冷戦期の大量殺害をグローバルに考察する」というタイトルで「ジャカルタ・メソッドー反共産主義十字軍と世界を作りかえた虐殺作戦」を紹介している記事があった。 共産主義思想への弾圧は戦前の話は比較的伝わってきている。…

伊藤昌亮「ひろゆき論ーなぜ支持されるのか、なぜ支持されるべきではないのかー」を読んだ感想。

世界 2023年3月号 岩波書店 Amazon 伊藤昌亮「ひろゆき論」を読んだ。 この記事で一番良かったところは、自分自身の感覚や感情はおいておいて、「ひろゆきの言動への支持が広がるのは何故か」という理由を解き明かすことを重視しているところだ。 記事を読も…

【映画感想】「罪の声」 前半はスピーディな謎解き展開が面白い。後半は犯人たちの行動に「?」となる。

*ネタバレあり。未視聴のかたは注意。 罪の声 小栗旬 Amazon 未解決のまま時効を迎えた「グリコ・森永事件」をモデルにした話。 前半は、一本の糸を引っ張ると芋づる式に謎が次々と明らかになっていくスピーディーな展開が面白い。 冷静に考えれば、いくら…

「殺人を犯さなければ人間になれなかった」という矛盾をどう考えるのか。永山則夫「無知の涙」

無知の涙 (河出文庫) 作者:永山則夫 河出書房新社 Amazon 「無知の涙」を初めて読んだのは、永山則夫がこの本を書いたのと同じくらいの年齢の時だった。 その時は「何の罪もない人を四人も殺しているのだから、どんな言葉も言い訳でしかない」という気持ちし…

「フェイクの氾濫に立ち向かうには」を読んで考えた、情報の見極め方、付き合い方。

2022年11月27日(日)読売新聞朝刊に掲載された、シンポジウム「『虚実のはざま』報道から考える~フェイクの氾濫に立ち向かうには~」を読んだ。 情報の真偽の見極めかたや情報との付き合いかたについて、自分の考えと重なる部分が多かったので、頭の整理が…

ポストコロニアルフェミニストによる西欧知識人への告発。「サバルタンは語ることができるか」

サバルタンは語ることができるか (みすずライブラリー) 作者:G.C. スピヴァク みすず書房 Amazon インド出身のフェミニズム批評家スピヴァクの代表作「サバルタンは語ることができるか」を読んだ。 この本は1972年に公開された「知識人と権力」というフーコ…

【最終的な感想】今まで本当にごめん。「アスペル・カノジョ」は「生きづらさ」との和解を目指した素晴らしい漫画だった。

*漫画「アスペル・カノジョ」の結末までのネタバレが含まれます。未読のかたはご注意下さい。 これまでのあらすじ。 「アスペル・カノジョ」は、主人公が「物語世界」にいない。 「なぜ、主人公のお前がここにいる?」という驚愕。 「アスペル・カノジョ」…

ミャンマーの問題の原因は何なのか。「ビルマ 危機の本質」

www.saiusaruzzz.com ミャンマーの軍事クーデターについて上記の番組を見た時に、 なぜ軍がこれほど過酷に自国民を弾圧できるのか。軍の内部でも何か疑問は出て来ないのか。軍部のほうが選挙で選ばれた政治家よりも圧倒的に力が強いように見えるが、どうして…

【映画感想】芦田愛菜主演「星の子」 社会と教団に共通する構造を、新興宗教信者二世の少女の視点を通して暴く傑作

*映画「星の子」のネタバレがあります。未視聴のかたはご注意下さい。 星の子 芦田愛菜 Amazon 現在、元首相殺害事件に関連して「宗教二世問題」が注目されている。 自分が見たところでは、「星の子」は「宗教二世問題」ではなく、*1それをモチーフにしてま…

学生運動当事者「n=1」のうちのオカンのフェミニズム精神。

小説で「台風だしピザでも頼む?」と攻めが言い出した…倫理観の違いで読めなくなることあるよね「鬼畜攻めかよ」 - Togetter 先日、うちのオカンと話していたら*1 「あさま山荘」籠城―無期懲役囚・吉野雅邦ノート (祥伝社文庫) 作者:大泉 康雄 祥伝社 Amazon…

学生運動の背景を知ることが出来る本の紹介をしながら、適当に雑談をしたい。

少し前にネットで学生運動の話をよく見かけたので、自分が今まで読んだり聞いたりした話と合わせて雑談したい。 この時代の学生運動周囲の話を見ていくと、そのセクトや大学によってだいぶ雰囲気が違う。(考え方が違うので当たり前だが) 例えば立花隆の「…

鈴木エイトが、旧統一教会の問題の要点、政治家とのつながりがどう生まれたのかを語った「9月2日大竹メインディッシュ 」が面白かった。

podcastqr.joqr.co.jp 大竹まことと金曜日担当の青木理が鈴木エイトをゲストに招いて、旧統一教会問題について話を聞いている。 「問題がある団体の政治への影響への批判」と単純に訴えるだけではなく、「なぜ、そういうつながりが出来たのか?」という流れ…

「デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場」感想 「事実」や「現実」に迫るために必要なのは、「解釈しないこと」に耐えることではないか。

*批判的な内容です。 デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場 (集英社学芸単行本) 作者:河野啓 集英社 Amazon 「事実に迫る」うえで必要な要件。 自分が考える「事実に迫るノンフィクション」に必要なことは、第三者が検証が可能なこと、それが難しいのであ…

「この本を立ち読みしたことで、オウムを脱会できた」というレビューが、滅茶苦茶興味深かった。

Amazonで 狂信―ブランチ・ダビディアンの悲劇 人はなぜ“メシア”を求めるのか 作者:ティム マディガン 徳間書店 Amazon という本を見つけた。 1934年にプロテスタント系の異端セクトとして誕生した宗教団体「ブランチ・ダビディアン」の話だ。 「ブランチ・ダ…

「フェミニズム系批評」から学んだフェミニズムの歴史まとめ

「現代批評理論のすべて」の「フェミニズム系批評」の歴史は、フェミニズムそのものの歴史とも大きく重なっている、またフェミニズム以外の思想から大きな影響を受けたり考え方を援用しているので、流れをまとめてみた。 *自分が理解した限りのことを書いて…

人は惰性で、人を殺し続けることが出来る。

www.saiusaruzzz.com 前回書いたこの記事で、「日本軍の指導者に共通していたもの」について考えたが、書き終えたあとどうもしっくりこない。 そんなときに黄金頭さんの記事のこの箇所を読んで「おおっ」と声が出た。 アイヒマンが定年まで仕事をして、「退…

「ビルマ 絶望の戦場」感想 日本軍の指導者の欠陥は「道徳的勇気の欠如」ではなく、「興味のない現実は無視すること」ではないか。

NHKスペシャル「ビルマ 絶望の戦場」を見た。 有名なインパール作戦が失敗に終わった後、ビルマで一年間続いた撤退戦の詳細を追っている。 太平洋戦争は「絶望の戦場」ばかりだが、ビルマ撤退戦も悲惨なものだった。 当時の日本軍指導者に欠けていたのは、「…

「スピノザ 人間の自由の哲学」 スピノザの人生、思想、哲学とは何なのかを分かりやすく教えてくれる。「入門書」の銘に偽りなし。

スピノザ 人間の自由の哲学 (講談社現代新書) 作者:吉田量彦 講談社 Amazon ちゃんと「入門」書だった。 スピノザについて、前から知りたいと思っていたので読んでみた。 哲学の入門書は「入門」と銘を打っていても、とても「入門」レベルではないことも多い…

今までに読んだ、見た、カルトについて描かれたコンテンツまとめ。

カルト(というより、人を取り込む思想全般)について、自分が理解を深められたコンテンツを紹介したい。 オウム真理教関連 オウムと私 (文春文庫) 作者:林 郁夫 文藝春秋 Amazon 地下鉄サリン事件の実行犯の中で、唯一無期懲役となった林郁夫が書いた本。 …

【映画感想】「アメリカが最も恐れた男・プーチン」 プーチンの経歴とロシアの時事を追うには便利だが、視点の偏りが難点。

アメリカが最も恐れた男 "プーチン" Evgeniya Albats Amazon ウクライナ侵攻よりも前の2018年の作品。 時間が1時間25分と短めなので、手軽に見れる。 いいところとしては、プーチンの経歴とロシアの時事との関係が非常にわかりやすい。 KGBに入隊して、旧東…

「労働組合運動」というと、「沈まぬ太陽」を思い出す。

労働者版のフェミニズムみたいなのってないかな? 完全にマジカルバナナ*1だが、「労働者の組合運動」を描いた「沈まぬ太陽」一巻二巻のことを思い出したので、話したい。 読んだのが大昔なので、かなりうろ覚えな記憶の感想だ。 「沈まぬ太陽」の第一巻第二…