「もったいない漫画」
というのは、何かと言いますと、最初のほうはすごく面白いのに、もしくは設定や世界観がとても魅力的なのに、後半で面白さが大失速する漫画のことです。
「最初からつまらない」のならば、読むことをやめて忘れておしまいなのですが、この「もったいない漫画」に出会ってしまうと、もったいなくてもったいなくて、作者のもとに出向いて、襟首をつかんでガクガク揺さぶりたくなります。
「あんなに面白かったものをどうしてこんな風にしてしまったんだ」
誰しもそういう漫画にひとつやふたつ出会ったことはあると思います。
自分の中で、今まで読んだ中で一番もったいなくて歯噛みをしたのはこの漫画です。
漫画は少年漫画、青年漫画、少女漫画問わず色々と読みましたが、これが「もったいない漫画」ぶっちぎりで1位です。
深夜アニメになって、主人公とメインキャラの声優を堂本光一と小栗旬がつとめたので、世間の認知度はあるのでしょうか?
少女漫画なので、男性は知らない人が多いかもしれません。
「獣王星」はジャンルがSFで、設定がとてもうまくできています。
主人公は、バルカン星系の中でも特権階級のみが住めるコロニー「ユノ」に住んでいる、少年・トールです。
トールは両親と双子の弟・ラーイと、何不自由なく暮らしていました。
しかしある日、「ユノ」のトップであるオーディンに両親を殺されてしまいます。
そして、ある人物の手によって、ラーイとともにバルカン星系では極秘の存在であった、「キマエラ」という惑星に送られます。
この「キマエラ」は環境が苛酷であり、死刑制度がないバルカン星系では「キマエラ」に送られることが事実上の死刑を意味します。
通称「獣王星」と呼ばれる、「キマエラ」の設定がとてもよくできています。
1年が181日あり、181日灼熱の昼が続きその後181日極寒の夜が続く。
それぞれ昼と夜の間の「夜明け」と「夕暮れ」にはビッグストーム(大嵐)が吹き荒れる。
そのため2年で1日たつ。
公転周期が自転周期の三分の二だから~~うんちゃらかんちゃら(ここは超うろ覚えなので、絶対に間違っています)という設定があり、そのために、50度の灼熱の昼が181日続き、「夕暮れ」に大嵐がきて、零下40度くらいの極寒の「夜」が181日続き、「夜明け」にまた、大嵐が吹き荒れるという星です。
この「夜」がとても苛酷で、住民の三分の一以上がここで命を落とします。
ブリザードが吹きすさぶ極寒の「夜」を乗り切るためには、それぞれの人種ごとに作られている組織「輪(リング)」に入れてもらい、砦に住まわせてもらわなければなりません。
この「輪」が四つあり、それぞれ肌の色で、「茶倫(オークル・リング)」「白輪(ブラン・リング)」「黄輪(サン・リング)」「黒輪(ナイト・リング)」と分かれています。
この四つの「輪(リング)」のトップが決闘を行い、「キマエラ」の事実上の王である獣王を決めます。
キマエラの生態系は異常であり、生態系のトップに君臨するのが植物です。
自発的に人間を襲ってくる危険な植物も多く、人間は片隅でひっそりと生きています。
この設定だけで、ごはん五杯はいけます。
苛酷な環境の中で、純粋培養で育った少年がどう生き残るのか、一体、どんな凶悪な植物が出てくるのか、「輪(リング)」同士で、どんな駆け引きと争いが行われるのか、
「夜は、砦の中の環境は閉鎖的で最悪になる」とはどんな状況になるのか。
少女漫画にあるまじき、疑心暗鬼での殺し合いなんていう、陰惨な展開もありうるのか。
胸をときめかせながら、夢中で読みました。
主人公のトールの少年期は、神展開です。
主人公のトールが成長して、青年期に入ります。
おおっ、立派に成長して……。
と思ったのも、つかの間、このあとの展開がとにかくひどい…orz。
途中でカリムという名前の美女が出てきますが、トールがあっという間にこの娘のことを好きになり、あっという間にくっつき、あっという間にカリムが死にます。
その勢い余って、トールが「白輪(ブラン・リング)」のトップであるザギを倒し、あっという間に獣王になります。
あれよあれよという間に、というか言う暇もなく、獣王になって恩赦となり、「ヘカテ」という惑星に向かいます。
このあとの展開も色々とひどいです。
とにかく何もかもがあっという間すぎて、謎の男・サードの正体とか、地球は実は大昔に滅んでいたとか、恩赦されたあとの歴代の獣王たちの末路はどうだったのかとか、主人公のトールの驚異的な強さは、何故なのかとか、色々と謎解きがされるのですが、
ただもう「へえ、そうなんだ」としか思えません。
割と初期に双子の弟のラーイが谷から落ちて死ぬのですが、これはラーイがラスボスになってトールの前に現れる伏線に違いないと信じていました。
最初は、そういう設定だったんじゃないかと、今でも疑っています。面倒くさくなって、やめたに違いない。
あんなに練られて、面白くなりそうな要素が満載な「キマエラ」という惑星の設定が、なにひとつ生かされず、結局は「選ばれし子供」である主人公の遺伝子を鍛えるため??の計画でした、で終わります。
なんじゃ、こりゃΣ(;゚Д゚)?!
この漫画の作者樹なつみは、こういう傾向の作品が多いです。
設定や始まりはとても魅力的なのに、最後は尻すぼみで終わります。
大風呂敷をたためないタイプではなく、見えないくらい小さくたたんでしまうタイプです。
壮大な設定を、個人レベルに収斂して終わらせてしまうというパターンが非常に多いです。
同じパターンだった「花咲ける青少年」も「デーモン聖典」も、それなりに楽しく読めます。
「獣王星」ほどやっつけ感が溢れる漫画は、初めてです。
同じ設定で、誰かに一から書き直して欲しい。
輪間の争いや内部闘争がメインの物語なら、絶対に読みます。
トールの少年期までは、「神漫画」と思っていたのに……。